ESP第六回会議
宮内庁長官は額に皺を寄せ、報告書を見入っていた。今は夜十時、そして秋、もう二か月ちょっとで今年は終る。長官室は暗く、ディスクスタンドだけが灯っていた。庁内に残っているものも少なかろう。しんとして静まり返っていた。
長官は報告書を読み終えると、目をつむった。この報告が事実なら現政権どころか、政権与党を揺るがしかねない。あまりに政界、財界に与える影響は深刻だろう。
それにしても醜悪だ、あまりに醜悪だ、これは爆弾だな。政権の弱みを少し握ればと思っていたが、あの五人は優秀だ、むしろ優秀すぎる。いっそ、膿を全部出そうかと思った。多分内閣総辞職になって、自分も解任される。また総選挙になれば一気に政権交代になる可能性があるから、やはり自分も解任だ。
ふと、この報告書を陛下に見せようか、見たら陛下は激怒するだろう。普段は、まず感情をあらわにはなさらないが、これには怒るだろう。2.26時の昭和天皇のように。だが、今の陛下には権力が無い。ふん、こんな報告はできはしないのにな。より現実的な選択肢は何か、考えることだ。
三十分後、長官は電話機を取った。
「青柳君、ESPを招集してくれ」
プロジェクターからデーターがスクリーンに映し出されている。そのデーターは二つ。すなわち一つのデーターは女性、未成年、名前、そして画像データーが三~五枚。まず風俗の女性案内と酷似したデーターだが、そのすべてが中学生、高校生のデーターだった。もう一つは簡単に言うと顧客データーだ。顧客は政財官にわたる、つまり金を持っていそうな連中のデーターだ。
「この二つのデーターは未成年売春のリストと顧客のリストだ。これ二つのデーターがバベルとD社次長Fのパソコンから出た。つまり彼らは繋がっている」
D社
バベル
半グレZ会
未成年売春データー
この四つを龍博は書いて、
「これは全部繋がっている。そして接着剤の一人がB氏というTⅤプロヂューサーというわけだ。またこの構図の中に、内閣情報官という人間も関わっている、ということだな」
隼人が笑った。
「まあ、間接情報ばかりだがな」
由紀子がそれに返す。
「私に捜査権くれたら直接証拠持ってくるわよ」
ハハと幸雄が笑う。
「そんな恐ろしいことできないよね。警察は」
隼人が身を乗り出した。
「真面目な話。おれは警察に話すべきだと思うがな。そうすれば警視庁あげての大捜査になる」
美里はふーんと疑義の目で隼人を見る。
「所轄の生活安全課ならそうでしょ。でも警視庁の偉い人たちはそう思わないんじゃない。こんなこと隼人さん自身が知っていることと思うけど」
「……」
幸雄がうーんと首を傾げた。
「でもさ、こんだけの状況証拠があって、まるっきり捜査しないというのもまずいよね。ミンシュコッカなんだからさ」
「龍博さんどうなんだ」と隼人。
龍博はうーんと髪をぼりぼり掻いた(ここで気が付いたが、これは某大作家の○○家の一族とか△△島とかに出てくる某探偵のまねではないのであしからず)
「まず、俺たちは警察ではない。天皇陛下がスムーズに生前退位するという計画を行うためのチームだ、野球でもないサッカーでもない。このことをまず念頭に入れたとき、今ある情報をどう扱うかは必然だ」
「どうする」と隼人。
「官房長官に委ねる」
龍博のことばは正論だ。異議は上がらなかった。が、幸雄が、
「僕の動画は」
龍博はにやっと笑った。
「同じだ」
決まった。つまり宮内庁長官はボスだ。したがってボスに委ねる。
「みんなご苦労さん」
皆、ほっとした顔になった。隼人さえ達観の顔だ。まあ一つの終わりだ。




