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ESP第五回会議

あの六月から三か月、この九月はまだまだ昼間は暑いが、夕になると、涼しい風が時折顔を撫でる。チンチン(他意はない)電車に文字通りゴトゴト揺られながら龍博は、車窓から明らかに真夏とは異なる風景とビルの屋上を超えて見える筋状の雲を眺めていた。何となく暇になったら旅にでも出たい、が、その暇がない龍博であった。


1・B氏

2・内閣情報官

3・未成年売春

4・未成年売春顧客名簿

ボードにこう書いて、龍博は一同を見回した。四人は椅子に座っている。


「この四つが繋がったということだろう。明石組はグレーだが、多分関わっていると思う」

 隼人が椅子に腕組をしながら言った。

「売春にZ会が関わっているんだ。間違いなく明石組がケツ持ちだ」

 幸雄が聞く、

「ケツ持ちって何?」

「バックにいるってことだ」

「そういえばいいのに」

「どういうかは俺の自由だ」


 相変わらず恒例の隼人と幸雄の漫才だ。皆もう分かっているから、ガン無視だ、

「その顧客名簿は信憑性があるの?」と美里。

「あの頑丈な保護は、ヤバイ物の証。ハハ、僕は難なく突破したけど」と幸雄。

「へーえ、それで名簿の中はどうなのよ」と由紀子。

 隼人が答えた。

「政界、財界、官僚、マスコミ、まあ上流がずらっと並んでいる」

 由紀子がフント形の良い鼻を鳴らした。

「まったく、どいつもこいつもロリコン野郎、怒りを通りこして、げんなりするわ」


 隼人が聞く。

「宮内庁長官は、こいつをどうする気だ、龍博さん」

「悪いようにはしないだろう」と龍博。

 美里が口を開いた。

「ただ、この名簿だけでは法には問えないわよ。バベルとかのぼったくりバーの店長の証言では弱い」

「多分そうだろうと思う、だが、捜査は可能だろう、隼人君」

 隼人はうんと頷いた。

「これで動かない現場刑事は居ない、だが」と隼人が言葉を切ると、龍博が繋いだ

「キャリアは動かない、か」

 まあねと頷く幸雄。

「名簿に堂々と警察官僚が乗っかっているもんね。これで何を取り締まるもんやら」

 隼人は苦虫を潰したような顔になった。

「できるもんなら、俺が捕まえてやりたいぜ」

 由紀子がボードを見ながら言った。

「明石組が無いわね」


 龍博が答える。

「明石組との明確な接点は見られない。バベルはZ会が仕切っているのはまず間違いが無い、しかし明石組が絡んでいる証拠が無い。またB氏と明石組が本当に親しいのか、それは何故か分からない」

「逆に言えば、それが分かれば良いということになる」

「そうだ、だが、それを探るのは難しい」

 隼人も頷いた。

「そうだ、これは完全に闇の世界のことなんだ」

 由紀子はすごい笑みを浮かべた。すると、

「あっちゃー由紀子さん凄いこと考えてない」と幸雄が指摘した(こいつ、妙にカンがいい)さて由紀子は何を考えているかと龍博は思った)


「まあ、やり方はいろいろあるんだけどね」と由紀子。

「へーどんな?」

「龍博さん、B氏と道京会のやくざが各闘技場で一緒にいたのをみたのよね」

「ああ」

「道京会系は格闘技イベントに絡んでいる。そしてB氏はキー局のプロヂューサー、さてこの組み合わせで表に出てくるのは」

 龍博はなるほどと思った。

「格闘技イベントのテレビ放送か、それで出てくるのが広告代理店D社か」

「正解」

 隼人も頷いた。

「確か何年か前に暴力団絡みで格闘技イベントのテレビ放送を打ち切ったことがあったな」


 由紀子が頷いた。

「あの連中は簡単には切れない、だから今も続いているはず」

 龍博はうーんと唸った。

「しかし相手が相手だけに危険だな」

 由紀子がフーとため息を吐いた。

「私も半分、あの連中と同類よ」

 皆シーンとなった。人間は生まれる場所を選べない。だが家族というのはいい意味でも悪い意味でも一生つきまとう。

「無理はしないでくれ、短い付き合いだが、この中の誰も傷ついては欲しくはない」

 龍博は本当にそう思っていた。

「分かった」と由紀子は短く答えた。

 幸雄が手を上げて、しんとなった空間にドソクで入り込んだ。

「面白い物見せてあげるよ」

 隼人が素早く反応する。

「何だ、面白くなかったら、怒るぞ」

「大丈夫」と言ってパソコンを弄る。


 そして、

「朽木さん、カーテンを閉めて、スクリーンを下ろして」

 例によって黙って立っていた朽木が照明を落とすと部屋は暗くなり、そしてプロジェクターの光がスクリーン上に届いた。

 何か壁がコンクリート打ちっぱなし荒廃した壁、床は、ごつごつとした黒色。そして部屋の真ん中に白い棺桶が置かれてあった。

「お前なあ、葬式見せてどーすんだ」と隼人。

 幸雄はにたにたと笑うばかりだ。

 棺桶のアップが入った。

「これは…」と美里。


 棺桶の表面には十字架が描かれていたが、棺桶の顔に向かってキリストの足が向けられている。なにかちぐはぐな、嫌な感じの描画だ。これはキリスト像が逆さまではないか。


 すると銀色のドアを開けて、十数人の人間が入ってきた。その風貌と言えば、まず顔は大きな黒いフードを被り、顔は定かではない。そして胴体は黒の大きなマント、胸に大きな銀のハーケンクロイツーナチスの紋章が鮮やかに光っていた。マントの人間が棺桶を囲むと、同じ格好をした二人の人間が長く黒い棒を担いで現れた。棒には子羊が一頭、逆さに吊るされていて、子羊の身体からは血が滴り落ちている。

「なんだ、これは、いかれたカルトか」

「まあ、見ていてよ」


 すると今度は白装束の人間が現れて、手に銀盆に白杯を乗せて現れた。そして銀杯に子羊の身体の下に置き、滴る血で白杯を満たし始めた。


 龍博はこれはネオナチの儀式ではないかと思った。ハーケンクロイツ、逆十字はアンチキリスト、そしてキリスト教では神に子羊を生贄にするが、これは子羊の血を飲むことで、我こそ神といいたいのではないか。

 すると厳かに音楽が流れてきた。

「何、ワグナーって気色悪いなあ」と由紀子。

 確かにタンホイザーが流れている。まあ悪趣味だな。しかし幸雄はこれを何のために見せているのか。


画面の中で一人が口を開いた。

「われらは唯一至高の存在である世界精神を信じる者である。この世界で生存できる世界精神を具現化した国家精神こそ尊び、それを讃えるものである。見よ、人間史二千年の歴史に貫かれる世界精神を我らは、それを信じ、そのために闘い抜くものである。かの堕落した共産主義弁証法を今一度世界精神のもとに奪い返す闘争を我らは行うものである」


 なんだかワグナーとニーチェと、ナチにヘーゲルまで持ち出して、こいつら日本人か。

 するとタンホイザーが高らかに鳴った。

 由紀子が幸雄の後頭部を平手でバチンと鳴らした。

「こら、あんた絶対編集しとるやろ」

「痛いなあ、この方が盛り上がるでしょ」

「もう一発行ったろうか」

「ああ、あれ見て、見て」とスクリーンを指す。

 なみなみと血にあふれた白い杯を人間たちは、いっせいに上に掲げた。

「プロージット」


 こんどはワルキュレーが流れていた。時間が急速に高まる。こいつも幸雄の編集かな。にしても芝居がかっているな。こいつを行ってやる奴は、多分、多感で自己中なのだろう。自分を少しでも観察できる連中なら、こんな恥ずかしい真似は到底できない。


 血にあふれた杯を皆飲み干し、フードを取る。 !おい、こいつは! 入口から左に三番目の女、どこかで見たな。

「幸雄君、三番目の女のアップ」

「さすが龍博さん気がついた」

 女の顔がアップになった。

「誰だ?」と隼人。

 ゆっくり龍博はその名前を言った。

「文科大臣の高梨まりえ」

 皆いっせいにドン引きした。

「ええ!」


 現文科大臣がネオナチ。

「曰く、靖国神社に月一回参拝に行く女」「曰く、日本は核武装すべし」「曰く北朝鮮を殲滅せよ」「曰く改憲して強力な軍隊を作れ」

「まあ、四つめはとってつけたような意見だが、何にしても勇ましい議員さんではある。


 美里がハーとため息を吐いた。

「ネオナチね、当たり前すぎて、脱力だわ」

 隼人は黙って腕組をして、眉間に皺を寄せている。

 由紀子は黙って映像を見ていた。

「これをSNSに流したら、どうなるでしょう」と幸雄が誇らしく言った。

「お前、悪党だな」と隼人。

「僕は正義の味方だよ」

「そのセリフ、二度と言うな」

「あちゃー警察はこんなのもつかんでなかったのかなあ、もしかして公安はネオナチとオトモダチ?」

「お前なあ、殴るぞ」


 これがインターネットに乗ったらえらい騒ぎになるぞ。

「幸雄君これは本当か」と龍博が聞いた。

「さあ?」

 え! 偽物か

「じゃ偽か」

「さあ?」

 またさあか。


 由紀子が苦笑した。

「ネットに流れているもんなんてね。嘘か本当か意味無いのよね」

 幸雄がにやにやしている。由紀子は続けた。

「コンピューターで作り出している画像は日々変化してるのよ。誰かさんの顔をスーパースターにすげ替えるなんて芸当もできるわけ」

 隼人がへーと言った。

「じゃ、芸能人の顔を一般人に変えることも可能か」

「もちろんよ、これはデープ・フェイクという技術。それを見破る技術と、さらにその上を行く画像のいたちごっこ」

「おいどうなんだ、技術屋」

にやにや笑う幸雄。

「子羊の血を杯に直接入れている動画はない。ただ次のシーンで真っ赤な血の色の液体が入った杯の液体を皆飲んでるだけ、問題ない。後は拡散されてお祭り騒ぎ」

「お前、絶対世界の終わりが来ても死なないな」と隼人が言った


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