秘密の店・バベル
新宿の六番街を奥に進むと、よく声をかけられる。男で、東京初めてみたいな顔をしていると、お兄ちゃんか、おじさんが「お店お探しですか、三千円ぽっきり」などと声をかけてくる。
隼人が午後十時ころ、思いっきり観光客風にして歩いていると、さっそく来た、ひげの濃いだるま腹の男が寄ってきた。ただし「五千円ぽっきり」と言った。「ほんまか、また怪しい店やろ」と隼人がかなり下手な関西弁で返すと、
ひげだるまは手を振って「そんなことありません健全な店です」
「店の名は?」
「バベルです」
「ほーそうか、じゃ行くわ」
「じゃ、こっちに」とひげだるまが言うと、
「おーいこっちやで」と隼人が言った。その声の先に由紀子と美里が居た。
「え、ああ」と当惑するひげだるま。
「おい五千円ぽっきりだとよ」
「ええ!安いなあ」
「そりゃええわ行こう、行こう」とひげだるまの腕に手をかける美里。
「は、はあ、じゃこっちに」
ひげだるまは新宿の路地に三人を連れて行った。一階にバベルと電球が三十本も灯の点いたド派手な看板が出ている店が見える。これは、あまりよろしくない状況だが、三人は、「入ろ入ろ」とまあ軽い調子で店に入っていった。
三人が席に着くと、明らかに外国人の男が、
「ゴチュウモン、オネガイシマス」と言ったので、
「おお、水割り持ってきてや」と隼人。
「私たちビール」と由紀子。
外国人か立ち去ろうとすると、美里が聞いた。
「お兄さんタイの人?」
「……そう」と短く言うと、急いで立ち去った。
それからは一時間どんちゃん騒ぎを三人は繰り広げた。
(なんだこの二人は、本当に酔っ払って楽しんでいるのか)と不振に思う隼人。
「まあ、この辺で勘定に」と隼人が言うと、タイのボーイが、請求書を持ってきた。
請求書には100,000と記されていた。
(なるほど、これがぼったくりか)
隼人は大声で、
「あちゃーこりゃぼったくりや、わしゃ払わんでえ」
「そやそや、なんが十万や、話がちゃうでえ」
「そやそや」
すると、しばらくして、かなり体格のいい、多分タイの若者三人が現れた。見知らぬ丸メガネの赤ら顔をしたおっさんもいる。
おっさんがにやにやしながら言った。
「お客さん、ぼったくりっていいがかりや、これは正規の金額ですよ」
こいつは日本人らしい。
「アホなこと言わんでや、帰る」と言った隼人が立ち上がる。するとタイ? の若者が立ちはだかった。隼人目掛けて、右パンチを繰り出してきた。ハッ、本気のパンチではないと軽く右によけると、若者の顔色が変わる。
「シュっ!」と本気のパンチを放った。隼人は右によけると、相手のボディに一発、素手だから、パンチは腹に打つ、そして蹴りか締めか関節で仕留める。
両隣でも対決が始まった。由紀子はともかく美里が格闘技を身につけているのには驚いた。ブラジリアン柔術だ。
ブン! 拳が飛んできた、ははん、こいつはボクシングか、すると足だ、隼人は左足目掛け、左足を飛ばした、膝の外側ではない内側、インロー蹴りだ。こいつはあまり鍛えようのない部分だ。ビシッと音が鳴って肉が弾けた。
金的を狙えばいいというものでもない。アソコは上半身の一番下部で、標的も小さい、なので動きながら命中する確率は低い。
続けさま左インローを叩きこむ。ここで強いボクサーなら、距離を取るはずである。が、若いこいつは猪突猛進型らしい、ダーと音が鳴るように出てきたので、三発目のインローを叩きこんだ。ぐらっと右横に傾いだ顔面にワンツーを当てると、相手はさらにぐらつき、左フックを顔面の右にヒットさせると若者はゆっくりとダウンして気絶した。
ふと右横を見ると、由紀子がタイ人若者を腕ひしぎ十字型でがっちり極めている。
左横は美里がフロントチョークでタイ人若者を失神させたところであった。
女性陣はかなり飲んでいるはず、それで男の若者を手玉に取った。この二人酒が相当強いと見た(そこかい!)
隼人が警察手帳を見せた。
「おい、オーナー出てこい」
ボーイが急いで携帯を取り、なにやらタイ語を話している。しばらくたって、白髪でかなり痩せた、が背の高い人物が現れた。
「△◇〇×△×◇」
こいつ日本語分からないふりしてやがる。すると美里が。
「xxxxx〇△◇xxx」と返した。タイ語が分かるのか。
「マイッタ、センセイ、キテ」と奥の事務所とプレートの貼った部屋に三人を通した。
「ナンデモ、ミテクダサイ」
隼人はスマホを手に取り、
「おい、お前の出番だぞ」と言った。
しばらくして、幸雄がパソコンを持って、部屋に入ってきた。
ぐるりと部屋を見回して、隅の机に置いてあるパソコンの前に座った。そのパソコンと幸雄は自分の持ってきたパソコンとをUSBをつなげて操作し始めた。
「あちゃあ、このパソコン、がちがちにガード固いね。普通のユーザーには関係ないから気が付かないけど、あちこちで鉄壁のガードがあるね。なんでかなあ」
こいつ、ぜったいこういうのが楽しくて仕方がないんだろうな。
隼人は「なんでだろう」を連発しながらキーボードを叩く幸雄を冷たい目で眺めた。
「ははん、分かった」と幸雄。
「何か分かった」と由紀子が問う。
「これはあちこちにプロテクトつけて、実はひっそりバックドアが仕掛けてあるんだ」
「バックドアって、ウイルスじゃない?」
「違う、違う、ひっそりと秘密の通路があるんだ」
「アハハ、ハリーポッターみたい」
「アハハ、ゾンビだよ」
こいつら日本語を話しているのか。隼人の頭は? であった。
「バックドアは本来、パソコンのデーターをこっそり盗むんだけど、このパソコンは特定のデーターをバックドアから流しているんだ」
隼人はやっと分かった。
「どこに流している?」
「クラウドに」
また分かんなくなった、まあいいか、こいつに任せよう。
幸雄がキーボードを叩いて、
「それで見つけたデーターがこれ」
パソコン画面にデーターが映し出された。
それは二種類のデーターだった。一つは、ずらり未成年女性のデーターだった。
もう一つは顧客データーだった。サービスを利用した(つまり売春行為)日時、場所、誰と行為に及んだか、かなり詳細なデーターである。これを握っている者は確かに多大な力を得ることだろう。
もちろん顧客データーにB氏の名前も乗っていた。
新宿歌舞伎町のぼったくりバー「バベル」(タイなのにバベル?)に何らかのデーターがあるかもしれないというのは、美里の弁護士情報網からのものである。バベルに至るまで、いったい歌舞伎町を何回探し回ったことだろう。だが、案外ぼったくりは業界が小さい。なので足が棒になるまで歩いたら、ぶつかった。これが「足が棒になるまで歩く」の意味である?
とにかくデーターはつかんだ、これは警察の捜査ではない、だから違法捜査はあり得ないので、つまり何でもして良いわけだ。なので、ソムチャイにB氏の写真を見せた。
「おい、こいつ知っているか?」
「◇△xxxx〇◇△△xx〇」とムチャイがまたタイ語に対して美里が返す。
「〇×△◇◇〇〇xxxx」
謎の会話が続く
「XXXXX〇」
何となくごまかしているのが分かる。すると、
「内閣って情報の専門官がいるの?」と幸雄がのたまわった。残りの三人が目を見張る。
「何!」
「だってさあ内閣情報官ってあるよ」
三人はもはや声を失った。そして怒涛のごとく、パソコン画面を食いるように睨んだ。
その表に内閣情報官の名が確かに載っていた。
隼人が怒鳴るようにソムチャイに迫った
「おい、こいつ知っているか」
「シ、シラナイヨ」
ソムチャイがあわてて日本語で返した。
「おい! Bと内閣情報官を知っているか、とっとと白状しろ」
胸倉をつかんで振り回す。これは違法捜査に見える、が、隼人は捜査権が無い。なので違法ではない。
ソムチャイは苦しそうに、
「シッテルヨ、ソノフタリ、シリアイネ」
ついに白状した。
「録音したな」
由紀子がスマホを出して、
「ここに入ったときからずっとね」




