ESP第四会議
雑司ヶ谷の木々が鳴いている。都心の森が、一斉に夏の音を響かせている。蝉時雨は、熱い夏を一層熱く、入道雲が湧く青い空にこだましていた。「スタンド・バイ・ミー」が聞こえそうである。
ESP第四会議が珍しく昼間に行われた。室温はかっきり二七度、誰が決めたか、この温度、熱いと言えば熱い。それよりもビルの中は蒸し暑い。温度調整はともかく、湿度調整もやって欲しいもんだ。
龍博は立って、白いボードに、ホストと書いてその下に写真を貼った。次に客と書き例の少女の画像を貼った。
「それで、その写真のホストの男は誰?」と由紀子。
「こいつはホストクラブ「ワンナイト」のホスト、薬師丸健」と答えた龍博。
「ものすごい源氏名だわね」
「まあな」
「するとワンナイトというホストクラブがB氏と関係あるの?」
由紀子の質問に龍博は首を横に振った。
「結論から言うと、ワンナイトは関係ない」
「じゃ、何があるの」
隼人が口を開いた。
「そいつについて説明する」
隼人は語り始めた。
美里と龍博をジャガーに残して隼人は、その娘と歩き始めた。すると、その娘が何か語りたがっているような気がした。チラチラ隼人をしきりに見る。それで、
「なあ、君、腹減ってないか?」と聞くと、
「うん」とか細く言った。
それで、区役所通りに面した中華店に入った。店は空いていた。そして二人は奥の四人席に向かい合わせに座った。
「まあ、俺も、大した金持ちじゃないから、気の利いた店は知らん、が、何でも頼め、おごりだ」
「ありがとう、ラーメン好き」
そして、娘の前にニラレバ、チャーハン、ヤサイイタメ、ラーメンが並んだ。
おっと、こいつは相当腹減っていたな。それでホテルに向かうとは…隼人は何かとても腹立たしくなったが、怒りをぶつけるべき対象がいないので、腹でぐっとこらえた。
「なあ、お金必要なのか」
ヤサイイタメを食べながら、少女は頷いた。
「とりあえず、いくら必要なんだ?」
手のひらを上げた。
「五万か」
少女は首を横に振った。
「五十万か!」
うんと頷く少女。
「なんとまあ、俺の月給より高いぞ」
「おまわりさんの給料っていくら?」
「まあ三十ってとこかな」
「安いね」
「そうだ、安い、きつい、面倒だ」
「はは、嫌だね」
「ああ、そうだな」
少女はヤサイイタメを平らげた
「何でやってんの? 警察」
「俺は正義の味方だ」
「ハハ、アンパンマンみたい」
「何だ古いの知っているな」
「アニメ好きだから」
「ふうん。俺はエヴァは好きだがな」
「エヴァ?」
「エヴァンゲリオン」
「ああ、使徒がどうたら、こうたら」
「うん」
「ふーん、そうなんだ」
「君はどんなん」
「私リョナ」
「リョナ?」
少女がスマホ弄って、画面を見せた。そこには女性の拷問シーンが並んでいた。
「げ! 何だこれは?」
「リョナ」
不可解すぎる、不思議すぎる。
「なあ、君は誰に教えてもらったんだ? その金の稼ぎ方」
「黒頭巾」
「何だ?」
「みんな、そう呼んでいる」
なるほど、胴元か、黒頭巾。
「なあ、どこで会うんだ黒頭巾と」
「TXヨコに居るよ」
なるほど、ここでTXヨコか
「黒頭巾はあだ名だろ、なぜ黒頭巾と呼ぶ」
「夏でも黒のフードをかぶっている、マスクも、だから黒頭巾」
ふん、小心者だな。人の目に顔をさらさないか。女の子はラーメンに移っていた。
「なあ、そいつはいつ、TⅩヨコに来るんだ?」
「んー零時ごろ」
ハっ! 夜行性だな。
「黒頭巾、でかいよ、殺されるよ」
「大丈夫、腕には自信があるんだ」
「ふーん」
少女は最後のチャーハンに移っていた。
少女がきれいに平らげると、
「まあ、すごいな、人間の食欲と言うのは、底が無いな」
二人は新宿の東口前まで歩き、分かれた。隼人は少女の後姿を見ながら、多分彼女は家に帰らない。帰れる家であれば、TⅩヨコに来ない。だが、少なくとも今日はTXヨコに行かないで、友人の家にでも行くのか、少なくとも顔はゆるんでいたから、そう悲観していないはずだ。さてと俺は黒頭巾だ。その前にポカリでも買うか。
「俺はTXヨコに再び行った」と隼人は言った。
「ハッ!黒頭巾とはね、案外若者も古いわね」と美里が笑うと、
「何それ?」と幸雄。
「快傑黒頭巾って知らない?」
「知らない」
「知っている方がおかしいだろ、そんな古い話、いいから続けろ隼人」と龍博が言った。
「ああ、俺はポカリをマツモトキヨシで買ってTXヨコに行った」
TXヨコは驚くほど人がいた。真夏の夜の饗宴のように、人々は老若男女集い、人々は祝い、そして祈りのような言葉を発していた。「苦痛は快楽のようだ」と。
そして、人々の輪の中から、その男、黒頭巾は現れた。




