ESP第三会議
①NHKドキュメンタリー「天皇の決断」
②SNSの展開
③政治家とB氏の関係
青柳龍博はホワイトボードに書かれた、それらの言葉に未成年
売春と書き加えた。
これに、まず赤羽幸雄が目を見開いた。
「げ、龍博さん、それ本当?」
緑川美里が腕を組んでうーと唸った、ライオンのようである。
「これはただではすまないんじゃないの」
龍博は頷いた。
「まあ、多分これが厄介だが、それは最後にして、①と②を片付けよう」
まったく熱が衰えを見せない八月中旬、ESPの会議が雑司ヶ谷鬼子母神の近くのビジネスホテルの一角で行われた。新宿超高層からえらく場所が低くなったが、そうそう予算が無いということである。だが、この辺は池袋駅から三十分歩き、池袋の繁華街を離れ、絶好のウオーキングコースである。鬼子母神境内は太い木々に覆われ、都内のお寺としては広い。空間は森閑として、清々しい気分になる。こんな空間の近所で生活するのは案外良いかもしれない。そして、特筆すべきは、鬼子母神前というチンチン(他意は無い)電車の駅があることである。都内に唯一走る都電荒川線―通称チンチン(他意はない)電車である。鐘とともに都内の道路を自動車やバスと一緒に道路を走る、この電車は紛れもなく昭和の風景である。
「まずは由紀子さん、NHKの方はどうかな」と龍博が聞いた。
由紀子が答える。
「まずは、龍博さんのオトモダチの副島雅子さんに、プレゼンしたところ、まあまあの感触」
「まあ、今年は戦後七十年だから、テレビも昭和史に関しては盛り上げてくれるでしょう」と幸雄。
「まあ、今のテレビ局に戦争を真面目に語れる人は、もうかなり少なくなっている」と由紀子が頭をぼりぼり掻いた。こいつふけは出ないが行儀が悪いな。と自分の癖を棚上げにする龍博。
「終戦記念日と誕生日には陛下も何か仰るでしょうから、まあタイミングは悪くはない」
「ただ、内容よね、やっぱり問題は。前の回も言ったけど、テレビ的には、あまりややこしいのは欠点」と由紀子が言うと、すかさず、
「仕方ないでしょ。天皇制自体がややこしいんだから」と返す美里。
龍博は「ちょっといいかな」と手を挙げた。
「どうぞ」と由紀子。
「結局、あまり歴史の検証的なものは、異論反論賛成だのいろいろでるから、前半分を昭和天皇、後半分を今上天皇の二部構成にして昭和天皇の部分も事実に即するというスタンスでは、どうかな」
隼人が手を挙げた。まあ手を挙げる必要はないが、挙げた。
「事実に即するというが、まさに、その事実が異論があるのでは」
うーん正論だな。
すると幸雄がいきなり話し始めた、こいつ手を挙げなかったな。
「昭和天皇の部分は、だから異論正論反論を網羅しちゃえばいいんだよ、いい具合に配列して」
美里が思いっきり嫌な顔をした。
「表現の自由の冒涜ね」
「そういうけど、僕たちが最優先なのは今の陛下でしょ」
こいつ思いっきり正論を言いやがった。だが、そのとおりだ。
由紀子もうなずいて、
「今上陛下の決断は生前退位、でもこれは死んでも漏らせない」
「だからさ、昭和天皇の決断は太平洋戦争以前の話でしょ。だったら今上天皇の決断って何? ていうことになるでしょ」
「なるほど、決断?っていう切り口」
この由紀子の意見に美里が、
「生前退位は死んでも言えないでしょ」
「そうなのよね」
すると隼人がボソッと言った。
「だけど、昭和天皇の時は、あんまり覚えてないけど、社会活動が止まったんだろう」
由紀子が「それよ」
「それよ、崩御が退位なら、社会活動が止まった、それは事実。それはやむなしという意見もあればまずいだろという意見もあるはず。こんなこと一時間スペシャルでどうこうできるわけがない。でも暗に生前退位が浮かんでくる」
「あちゃあ、陰険だね。女性は怖いねえ」と幸雄。
「それセクハラ」
龍博が割って入った。
「だいたい、まとまったな。ねらいは昭和天皇を描くことで今上天皇の利益になるものを見つける。これでどうだろう由紀子さん」
「了解」
誰も発言しなかった。
「次にSNSだが、状況を聞かせてくれ」
幸雄が発言する
「僕はインスタ(インスタグラム)やツイッター発信が良いんじゃないかと思ってる」
美里が質問。(この二人は馬があうのかあわないのか謎である)
「なぜよ?」
「あちゃー知らないんでしょ、皇居ってさ無茶苦茶映えるんだよね」(注)映えるはバエルというそうである。
「そのほかはあるんでしょうね」
「皇居日記というアカウント作った、これでツイッター毎日更新」
「毎日! ご苦労様」
「SNSは女性を口説くときと同じ、とにかく豆に実行する」
これはセクハラかなと美里を注視した龍博。おや何も言わない。ふーんすると女性を口説くのは良いのか。すると、幸雄がまじめな顔をした。
「でもさ、気に入らないことがあるんだよね」
「何よ」
「ネトウヨが、ネンチャクしてくるんだよね」
これは「インターネットを利用している右翼系の人々が、しつこく付きまとっている」ということを意味する日本語であろう。
「例えば、どんな風に?」
「こら画像に旭日旗入れろとか」「靖国神社もアップすべきだ」「天皇陛下万歳、皇国の歴史を汚すな」、などなど、インスタは祭り状態」
「狙い通りじゃない」
「こんな低能連中が湧いてくるとは思わなかった」
龍博が割って入った。
「基本的にナショナリズムや愛国に論理は通用せん。一番厄介なのは大衆の熱狂なんだ。この国の選挙で、まともにマニフェストや政治信条を理解して投票している人間が果たして十パーセントもいるかな。いいか日本において政治は古来より祭りなんだ」
「広告会社D社の政府広告キャンペーンの基本は、分かりやすいこと、センセーショナル、そし短いこと」
この言葉は由紀子である。身も蓋もないが、そのとおりであろう。
龍博は幸雄に言った。
「引き続き、由紀子さん、幸雄君よろしく」
二人は黙って頷いた、
「次に、何とも、とんでもない案件が出てきた。これはかなり複雑な経緯があるので、説明する」
皆、といっても宮内庁の朽木さんは黙って、空にそびえる大木の如しだが、他の皆は集中した。まあ確かにとんでもない物が上がってきたのだ。だが、それはつまりここに居る人間が優秀だからだろう。
「前回、B氏というテレビ局プロデューサーと内閣情報官などの名があがったが、僕の友人のライターからB氏と明石組の人間と繋がりがあることが分かった」
これは皆驚いたようだが、隼人だけ、腕を組んで難しい顔をしている。B氏をめぐって、内閣情報官、警視庁刑事部長、そして、今度は明石組である。これは、とんでもない話だ。
「あちゃーこれはオールスターだね」とはもちろん幸雄。
龍博は構わず続けた。
「そしてB氏と明石組に関わるキーワードが未成年売春だ。これについては隼人君から説明がある」
隼人は腕組をしながら言った。
「まだ点と点だが、政治家、B氏、明石組、未成年売春、これが点だ。これらをつなぐ線を見つける必要がある。この中で一番近しいのがB氏と未成年売春だ。それをつなぐのが半グレ集団Z会だ。Z会の幹部がB氏と大学の同窓生というわけだ。今、やくざは表に出ない、出られないというべきか、だから半グレを使うことが多い」
「Z会が未成年売春を仕切っているのは本当なの」と美里。
頷く隼人。
「そいつは、まず本当だ」
「どこからの情報」
「新宿TXキッズ」
「誰それ?」
「歌舞伎町にたむろしている若者、問題なのは年齢は下が12歳、15歳というようなかなり下の未成年がたむろしたりしている。つまりここでZ会がスカウトしているのだろう。ということ」
「すると明石組—Z―B氏は繋がっている?」と龍博。そして、皆を見回した。
「明石組が出てきた以上、皆気を付けてくれ、こんな危険な相手はそうそういない」
皆いっせいに言った。
「了解」




