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翌日以降も同じように朝から馬車に乗り込んで道を進む。ベルザタウンを出発してから4日が経った夜、その日は野営になった。道から外れたところに馬車を置いて野営の準備をする。リリアはフィアナに乗ってその辺を散歩していた。
「さ~て、かまどはこんな感じかな?」
僕は元の世界でのキャンプの記憶をもとにかまどを作り火をおこす。魔法で火をおこせば薪がいらないのは便利だよな。危ないからさすがにかまどはいるけど。
「面白い形のかまどですね。四角く切り出した石を組み合わせてる。これなら台が無くても鍋が置けますね。」
一緒に準備をしていたミリアルさんが言う。
「でも1か所開けておく必要ってあるんですか?」
そう言えば魔法の炎って酸素を燃焼させてなさそうなんだよな。それなら空気を送らなくていいから四方を閉じても大丈夫か?試してみたいが火をつけたからまた次の機会にするかな。
料理はフィフィアナさんがメインで行っていた。セイラと共に具材を切って鍋に入れて持ってきた。持ってきた鍋をかまどにおいて茹で始める。
「馬車の固定終わったよ。」
オライアが紐を袋にしまいながらやってきた。馬車は寝どこにも使うために勝手に動かないように紐で固定をするようにフィフィアナさんに言われてオライアが担当してくれた。
「おい、お前のところのガキが一人見えないようだが?」
「………ああ、リリアの事か。彼女はフィアナに乗ってその辺散歩してるよ。」
「なんだ、サボりかよ。」
そう見えるけどフィアナは誰かを乗せている方がストレス解消するらしいから仕事っちゃ仕事なんだよな。
夕食が出来る頃にリリアとフィアナは戻ってきた。リリアは手にかごをもっていた。
「おかえり。何かとってきたの?」
リリアからかごを受け取ってフィアナから降りるのを待つ。
「フィアナありがとね~。楽しかったよ~。森の中で美味しい果物見つけたから少しとってきた。」
かごの中を見るとピンク色の洋ナシが入っていた。
「なにこれ?」
「モモモの実ですね。とっても甘くておいしいんですよ。」
1個取りだしてまじまじと見ているとミリアルさんが応えてくれた。
「フィアナも美味しそうに食べてたよ~。」
へ~、味はどんなのなんだろ。食後のデザートって事であとで食べることになった。
夕食はシチューのようなスープ。色は白いし味もシチューなんだが中に入っている具材がよくわからん。鍋一杯にあったシチューも6人で食べればすぐになくなった。
リリアがモモモの実を全員に配る。どう食べればいいのかわからなかったから周りを見ていると皮ごとかじっている。マネして膨らんだ下の部分をかじってみた。桃のような味だ。種も思ったよりでかくて桃みたい。
「懐かしい味です。ベルザタウンにはモモモの木が無いからあまり食べられなかったんですよね。」
ミリアルさんが嬉しそうに食べている。甘いもの好きなリリアとセリアもうれしそうだ。膨らんだデカい部分を食べ終わると種のない細い部分が残った。そこもかじろうと思ったらフィアナが隣に来て鼻を鳴らしてくる。
「…食べる?」
フィアナに差し出せば一口で食べて頭を擦り付けてくる。可愛い奴だ。
夜も更けて女性組は馬車に入って眠りにつく。僕とオライアは見張りで火をはさんで座っている。フィアナも僕の隣で座っている。
「ふぁ~…野営するとは聞いていたから覚悟してたけど何もしてないと眠くなるな。」
フィアナに寄りかかって本を読むがフィアナの体温で温まって眠くなる。
「ねえオライア、本当は僕が聞くことじゃないんだけど何でドランさんを避けるの?」
他に誰も聞いていないしと思い疑問に思っていたことをオライアに聞いてみる。
「別に…理由なんてねえよ。父親らしいことなんかしたことないのに今更父親面するなって…先に寝る。交代になったら起こせよ」
そう言ってオライアは寝転がってしまう。
「わかった…」
僕はかわらずフィアナに寄りかかって静かに本を読み進めた。セイラに借りた時計を見て交代時間にオライアを起こし就寝した。
翌朝目を覚ませば女性陣はもう起きていて朝食の準備と馬車の準備をしている。
「おはようございます…」
まだ少し眠い頭を振り二度寝を回避した。僕が起きたのに気が付いたリリアが水の張った桶を持ってきてくれる。
「フィアナに乗って朝の散歩してた時についでに水も汲んできたよ。」
その桶を受け取って顔を洗う。頭がすっきりしたところでフィフィアナさんが料理が出来たと教えてくれた。
朝食を終えフィアナを馬車に繋いで出発した。何も問題なければ2日半程度で到着するとのこと。が、何も問題なければと話してしまえばフラグは立ってしまうというもので…
順調に進んでいたはずなのにフィフィアナさんは突然馬車を止めた。
「どうしました?」
「すいません。道の上に大きな岩があって通れないんです。」
馬車から出てみると確かに整備された道の上に身長以上もある大岩が置いてあった。フィフィアナさんによれば来るときもこの道を通ったがこんなものはなかったとのこと。と、いう事は…
馬車の背後からファイアーボールの熱が伝わってきた。振り返れば武器を持った男が4人こちらを向いていた。真ん中が空いているのをみてよく見てみるとひとり焦げて倒れていた。
「レイヤさん!フィフィアナさん!山賊です!!」
セイラが馬車から飛び出て声を上げる。山ではないのに山賊と言うのかという疑問はおいておいて、ある種古典的な方法で足止めして襲ってくるのはいただけないよね。僕は氷魔法の呪文を唱える。
「レイヤさん、正面にも山賊が!」
フィフィアナさんに言われて正面を振り帰ればそちらからも男が4人僕らに向かってきていた。
「彼のものの動きを止めろ!アイスロック!!」
本当は背後に向かって発動させたかったがしょうがない。僕のはなった魔法で正面の山賊の足元が凍ってその場から動けなくなっていた。
「後ろは!?」
「こっちはもう終わってる。」
振り返ればオライアが山賊たちを道の外れに放り投げていた。
「あとはそいつらだけだ。」
正面の山賊たちは仲間たちがやられたのを見て逃げようとするが足元が凍ってるのを忘れてたのか全員転んでいた。
その後、オライアが正面の山賊たちを一撃で気絶させて道の脇に放り投げた。
「こういう場合ってあいつらどうするの?」
「正直今回の場合、あいつらが明確に襲って来たとは言い難いですからね。下手に突き出してもお咎めないでしょう。」
フィフィアナさんがため息をついていう。なるほど。たしかに岩が置かれているのを見てたまたま近くに来ただけだとか言われたらそれまでか。この世界も結構面倒そうだ。
「じゃあ腕や足の骨を折っとけばしばらく悪さできないだろ。」
「さすがにそれは乱暴でしょ。」
オライアが物騒な事を言い始めるので止めようとするがフィフィアナさんもやる気みたいで倒れている山賊に手を伸ばしていた。
「フィフィアナさん!」
「折りはしませんよ。ただしばらく動けなくなってもらうだけです。」
そう言って山賊の肩を掴んでゴキリと嫌な音を響かせた。山賊は痛みで意識を取り戻し地面を転がる。
「今回は未遂なので肩を外すだけにしてあげます。」
それもだいぶ乱暴だと思うんだけどな~。そう思っているうちにフィフィアナさんは9人の両肩の骨を外し終わっていた。さらに背後で何か重いものが落ちる音がする。
「いつまでも道にあると邪魔だから岩は移動させたよ~。」
セイラが自前の杖を掲げて言う。あの大岩も移動させられるのね。どれくらいまで上げられるんだか。
あまり長居して仲間がきたりするとまずいため急いで馬車に乗り込みその場を後にした。
「山賊への仕打ちってあれでよかったんですか?」
しばらく経って僕はフィフィアナさんに聞いてみる。
「そうですね。理想なのはもちろん街の護衛団に突き出すことですが、先ほども話した通りこちらが早く手を出しすぎて言い逃れされてしまいますからね。まあ、風貌で山賊と言うのは解るのでこちらが先に手を出したことは何も咎められないですが。」
「だから骨の4、5本折っちまえばよかったんだよ。」
オライアが話しに割り込んでくる。
「相手は何もしてないのにさすがに乱暴じゃない?」
「なに甘いこと言ってんだ。下手したらこっちがやられてたんだぞ。」
まあそりゃそうなんだけどね…やっぱこういう所は生きている世界が違うからと納得するしかないのかな…
「私はレイヤさんの意見もいいと思いますよ。」
ミリアルさんが言う。
「ただ、命を盗られる可能性もあったので全面的には同意できないんですけども。」
ミリアルさんもそういうか。なら肩を外して放置したのは正解だったんだろうな。しばらく動けないだろうし。
僕はやや不貞腐れ気味でクッションの上であぐらをかいた。