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2-2

 翌朝、宿を引き払って冒険者ギルドに向かう。宿屋の主人が残念そうな表情だったのが印象的だった。ギルドの前では大型の馬車に魔獣馬が繋がれていた。何気なしに魔獣馬の首筋を撫でてしまう。普通の馬とは違ってうろこ状の皮膚だがとても暖かく筋肉が付いているのがよくわかる。


「私も撫でる~。」


 リリアとセイラも魔獣馬を撫でだした。魔獣馬の感情はわからないが嫌がっている様子はない。


 ギルドの建物に入るとドランさんが受付の前で立っていた。


「おう、来たか。実はもう一人護衛についてもらうんだがどうやら遅刻みたいでな。もう少し待ってくれ。先に依頼人を紹介しておこう。」


 ドランさんがそう言うと奥の扉が開いて2人の女性が出てきた。1人はよく見知ったミリアルさん。もう一人は甲冑を着込んだいわゆる女騎士というイメージの女性だ。あの女騎士さんが依頼人ってことか?でも会ったことないよな。


「レイヤさん、リリアさん、セイラさん、おはようございます。今回の護衛の依頼受けていただいてありがとうございます。」


 ミリアルさんが丁寧にお辞儀をする。


「今回の依頼、私のわがままでレイヤさん達に優先的に回してもらうようにギルド長にお願いしたんです。この依頼で最後になりますから。」


「最後って…?」


 僕は思わず聞いてしまった。


「はい。この依頼の依頼人は私です。実家のあるボルケルタウンに帰らなければならなくなったのでギルド職員も退職します。」


「そうだったんですね…」


 自分たちもこの依頼を受けたらこの町に戻らないと思っていたがなんだか寂しい気持ちになってしまう。リリアやセイラも同じ気持ちなのか息をのむのが聞こえた。


「それと隣にいるのが実家で護衛騎士をしてくれているフィフィアナです。」


 フィフィアナと呼ばれた女騎士が頭を下げる。


「本当はいいって言ったんですけど迎えに来るって聞いてくれなかったんです。」


 ミリアルさんが恥ずかしそうに言う。外の馬車はもしかしてこの女騎士が乗ってきたものか。


「そろそろ出発の予定時間だが、来ねえなあのバカ。」


 話の区切りがついたのを見てドランさんが言う。


「もともとレイヤさんたちにお願いしてる話ですし、遅刻ならもう出発しますね。」


 ミリアルさんが呆れたようにドランさんに言う。


「ああ、すまないな。」


 建物からでてミリアルさんの荷物を馬車に積む。ふと近くの木を見るとオライアが隠れているつもりなのか影からチラチラこちらを見ている。


「オライア?何してるの~?」


 リリアにも見つかって声をかけられている。それを聞いたドランさんがオライアの元に行って拳骨を食らわせていた。


 まあざっくりと言ってしまえばもう1人の護衛はオライアだった。今回の護衛でボルケルタウンに向かい、自力で帰ってくるのが彼のやることらしい。依頼と言うより試験だね。道は整備されているとはいえ一人で帰ってくるとなると行きよりも帰りは時間がかかるとかドランさんが教えてくれた。


「それでは揃ったようなので出発しましょうか。」


 オライアは不貞腐れた表情ではあるが荷物を持ってきている時点でこうなることは予想してたんだろう。いや、ドランさんに会いたくないだけでドランさんが見えなくなったら合流する気だったのか?


「まずは道なりに進むので皆さん馬車に乗ってください。」


 フィフィアナさんが御者台に座ってから言う。馬車と言うとイメージとしては箱馬車のような椅子のある物か商人が荷物を運ぶようなタイプがあるが、今回は後者。馬車に入ればクッションが置かれて座っても尻が痛くないような配慮をされている。


「わ~い。こういう馬車初めて~。」


 リリアは早速乗り込みクッションの上に座る。それからセイラ、ミリアル、僕、オライアの順で乗り込んだ。荷物は隅にまとめて置いてある。


「では出発します!」


 フィフィアナさんが手綱を操作して魔獣馬が走り始める。僕は遠くになっていくドランさんに手を振った。ドランさんも振り返してくれる。表情はもう見えないがなんとなく恥ずかしがっているだろうなと思った。


 空いているクッションに腰を下ろすと向かい側にミリアルさんがいる。ミリアルさんはリリアとセイラに挟まれて座っていた。当然僕の隣はオライアだ。


「そう言えば前金ありがとうございます。おかげでその子たちの防具を買えましたよ。」


「それならよかったです。レイヤさんは変わってないようですけど足りませんでした?」


 ミリアルさんは白いローブを着たリリアと、タイトなパンツスタイルのセイラを見て聞いてくる。


「いえ、ちょうどいいのがなかったものですから。」


「あら、それは残念です。ボルケルタウンは防具屋がたくさんあるのでお眼鏡にかなうものもあると思いますよ。」


「僕はそういうの選ぶのが苦手ですからね。この服もその子たちに選んでもらったんですよ。」


 ほんと、宿屋で着せ替え人形になってたのはいい思い出だよ。


「だってレイお兄ちゃんセンスないんだもの~。」


「今どきワークパンツって正直ダサい。」


 リリアとセイラが口をはさむ。なんだよ、パンツはポケット多い方がいいだろ!


「本当に仲がよろしいんですね。」


 ミリアルさんがクスクスと微笑む。オライアはつまらなそうに鼻を鳴らしていた。




 昼を過ぎたくらいに道中にある村に到着した。


「どうどう!今の時間からこの先へ進むと野営になってしまうので今日はここで1泊しましょう。」


 フィフィアナさんが手綱を引いて魔獣馬のスピードを緩める。結構なスピードで進んできたからオライアの帰りが大変そうだ。日数的な意味合いで。


 魔獣馬をゆっくりと歩かせ村の宿屋の前に着く。フィフィアナは魔獣馬を馬車から放した。魔獣馬はそのまま森の方へと行ってしまった。


「あれ?逃がすの?」


「いえ。村の中にあの子がいると騒ぎになる可能性があるので、こういう場所では一晩離れるようにしてあるんです。元々あの子はこういう物を引っ張るより私を乗せている方が多いので窮屈だったと思いますし。」


 なるほどね。たしかに村の中に魔獣がいれば村人は落ち着かないか。ベルザタウンの魔獣馬も町はずれの方で世話してたし。


「そう言えばあの魔獣馬の名前って何なの?魔獣馬って呼んじゃおかしいものね。」


 ふと気になってフィフィアナさんに聞いた。魔獣馬の名前を聞いただけなのにフィフィアナさんの顔が赤くなる。


「ふふふ、あの子の名前はフィアナって言うんですよ。」


 ミリアルさんが教えてくれた。


「あの子がうちに来た時フィフィアナが自分の相棒になるんだからフィアナって名付けたんです。」


 自分の名前からとったから恥ずかしかったのかな。


「あの子男の子なのに女の子みたいな名前つけちゃったって騎士になってから落ち込んじゃって。」


「本当に後悔してます。今だったらダイアンとかシューベとかイニシアとか男性の偉人から名前をもらうのですが…ああ、出来ることなら昔の私を止めたい…」


 フィフィアナさんが落ち込んだ。道中あまり話さなかったが結構表情豊かな人だな。ミリアルさんとも相当親しいみたいだし。


「チェックイン出来たよ~。あれ?魔獣馬がいない?」


 先に宿屋に入って手続きをしていたリリアが顔を出す。


「村にいると危ないからって森の方に行ったよ。あと名前はフィアナだって。」


「なんだ~。荷物置いたら乗せてもらおうと思ってたのに~。」


 リリアが唇をとがらせて言う。


「道中の町村の宿屋ではこういう風になりますが、最低1日は野営をしないといけないのでその時は遊んであげてください。」


 フィフィアナさんがリリアを慰めるように言う。荷物を宿屋に置いて町の武具防具店に向かった。しかしここでもよさそうなのは無いとリリアとセイラに却下されて何も買わずに宿屋に戻った。


 宿屋の部屋に戻るとオライアがベッドで横になっていた。2人部屋を3つ取ったからオライアと同室になっている。


「ただいま。」


 …声をかけても返事をしてくれない。空いている方のベッドに腰掛けて呪文を唱える。


「異なる空間の扉を開け。オープン。」


 目の前に亜空間の扉が開く。扉と称したが目の前にあるのは両腕が入るくらいの大きさの穴だ。この中に自分の荷物を入れている。とりあえず中から本を取り出した。


「お前、空間魔法を使えるのか…」


 亜空間の扉を閉めると驚いた表情のオライアが見えた。


「まあね。と言っても一番簡単な収納魔法だけど。」


 オライアは舌打ちをして再び寝転がる。これ以上何を話しても無駄かと思い僕は取り出した本を開いて読むことにした。お互い無言の部屋では僕が本をめくる音だけが響いていた。


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