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ギルドに登録してから6ヵ月が経過した。この世界に来てからはもう7ヵ月か。この世界の暦は8日で1週間。それが4週で1ヵ月。そして12ヵ月で1年だ。日数で言えば元の世界よりこっちの方が少し長いんだな。ついでに時間は元の世界と変わらず1日24時間、1時間60分、1分間は60秒となっていた。
僕らはいつも通り冒険者ギルドに足を運ぶ。この半年で冒険者ランクはセカンドランクに上がり、サードランクへの試験も目前だ。
「おはようミリアルさん。」
「おはようございます。早速依頼の確認をしますか?」
いつも通り受付業務しているミリアルさんに声をかけて水晶タブレットにギルドカードをかざす。今日は討伐系だけか。それならこれかな。
「はい。畑を荒らしている魔獣猪10体の討伐ですね。それではお気をつけて行ってらっしゃい。」
リリアとセイラと合流して2人とギルドカードを合わせる。そして外に出ればルードとバッファが冒険者ギルドに向かって歩いてくるのが見えた。
「おはようさん。」
ルードも気が付いて挨拶をしてくる。この2人とはたびたびパーティーを組んで依頼をこなしていた。もうだいぶ打ち解けていると思う。
「おはよう。魔獣猪10体の討伐なんだけど一緒に来る?」
「いや、昨日バッファが足捻っちまって動きづらいようなんだ。だから採取系で行こうと思ってよ。」
「そうなんだ。気を付けてね。」
「ああ、そっちもな。リリアとセイラも気を付けて行けよ。」
2人と別れて依頼者の元に行く。その道すがらオライアを見かけたが向こうもこっちを見つけてそのまま無視されてしまった。挨拶ぐらいはしたかったんだけどな。
その日も無事依頼を終えて荷車を引っ張って冒険者ギルドに戻る。さすがに10体もいると重すぎて引っ張れなかったので依頼者に魔獣馬を借りて来た。もちろん御者として依頼者の息子も一緒だ。
魔獣馬は普通の馬の10倍は力が強く、魔獣の中では比較的手懐けやすくて使役している人も多いらしい。普段は魔獣馬が魔獣猪を追い払っているがさすがに10匹相手はきつかったようだと息子さんが話してくれた。
冒険者ギルドで報告をして魔獣猪の買取金を息子さんと山分けする。受け取れないと言われたがここまで運んでもらったし、リリアもセイラも同意してくれた。少々強引に渡して息子さんと別れた。
さて帰ろうかと思ったところでミリアルさんに呼び止められた。
「すいません、ギルド長が呼んでいますので2階にお願いします。」
ギルド長の呼び出しとなるとちょっと怖く感じるが、これまでも何度か呼び出しは受けている。それは個別に依頼を頼まれたりランクアップ試験への挑戦が出来るようになったと教えてくれたりと様々だった。状況的にラックアップ試験の事だろう。
3人で2階に上がってギルド長がいる部屋の扉をノックする。先頭に立つのはセイラで、最初の頃はリリアとおびえて僕の後ろに隠れていたのに成長したものだと感慨深くなってしまう。…成長か…僕はここに来てから成長しているのだろうか…
「おう、入れ。」
ドランさんの声が部屋の中から聞こえた。セイラが扉を開けて中に入る。
「今日もお疲れさん。そんなに長い話じゃねえがなんか飲んでいくか?」
リリアとセイラは首を振る。ここで出されるのはコーヒー(らしきもの)で2人は苦味の強いそれを好んでいない。まあ僕もあの苦さは遠慮したいが。
「そうか。まあ話って言うのはランクアップ試験へ挑戦できるってだけだ。」
やっぱりね。今日か明日かくらいにはとミリアルさんが教えてくれていた。
「でだ、本来ならここの裏手で試験をしてってところなんだが今回はちょっと頼まれごとをしてほしい。」
「はぁ…」
「ある人物の護衛で領主所在地ボルケルタウンへ行ってほしいんだ。期間は片道で1週間といったところか。」
護衛依頼。掲示板に張り出されているのを見たことはあるが今までやったことは無い。だがちょうどいいかもしれない。リリア、セイラと話し合ってそろそろ別の町に行こうと言っていたところだ。しかし領主所在地って領主が住まう町って意味でいいんだよな。大丈夫かな。
「完了報告は依頼主と向こうの冒険者ギルドでしてくれればランクアップできるように手配しておく。もちろん依頼の面もあるから報酬は出るぞ。」
リリアとセイラを見るとリリアは何も考えてなさそうな表情で僕を見て、セイラは難しい表情になっていた。
「まあいいんじゃない。そろそろ別の町に移ろうかと思ってたし。」
セイラが意を決したように言う。
「お、受けてくれるか。依頼は明日からだ。お前たちは護衛依頼は初めてだよな。装備を整えるために前金を渡しておく。」
そう言って机から袋を出して投げ渡してきた。いつものように重さは無く四角いものが入っているようだ。
「え?こんなに??」
僕は中を見て驚いた。今まで効果しか入ってなかったのが今回は札が入っている。しかも20枚くらい。
「依頼者の意向だ。お前らが受けるならそれを渡してくれとな。」
セイラに袋を渡すとリリアと共に中を見て驚いていた。
「依頼者の意向って、依頼者は僕らの事を知っていると?」
「ああ。まあ誰かってのは明日になったら話す。」
ドランさんは少し寂しそうな表情をする。
「まあ話しは以上だ。受付で依頼の受注をしておいてくれ。前金を受け取った以上逃げられないからな。」
ドランさんに釘を刺されて部屋を出る。リリアとセイラは前金でどんな装備を整えようかと相談していた。
1階に降りて受付にいたミリアルさんに声をかける。ギルド長に言われた護衛依頼を受けるというと元々話は通っていたようで嬉しそうに頷いて水晶タブレットを操作した。ギルドカードをかざして依頼を受注。リリアとセイラのカードと重ねてパーティーを作った。
「本日はまだ依頼を受けますか?」
時間的には採取系ならできそうだが装備の方も見に行きたいなと思い2人を見る。2人も早く買い物に行きたいと無言で僕の服を引っ張っていた。
「いや、今日はこれで帰るよ。また明日。」
僕がそう言うとミリアルさんは立ち上がって頭を下げる。
「はい、またお待ちしております。」
とても綺麗なお辞儀で思わず見とれてしまう。しかし子供2人に引っ張られて冒険者ギルドを出ることになった。
冒険者ギルドを出た足で町の武具防具店に向かう。この店に来たのも冒険者になったばかりの時だけで久しぶりだよな~。店に入ると20畳くらいの広さで所狭しと武器と防具が並べられている。
「いらっしゃい。」
店主がカウンターで暇そうに本を読んでいた。チラリとこちらを見るがすぐに本に目を落とす。
「ねえねえ、これなんかどうかな?」
「こっちもいいんじゃない?」
2人は賞品を取って自分の体に合わせている。僕は軽鎧の置いてあるところに向かう。今着ている服はこの世界に来た時に着ていたものじゃなくて冒険者になってからリリアとセイラからもらったものだ。何処かで買ってきたのかと思っていたがこの店の商品見てると同じようなのがないんだよな。そもそも魔獣の攻撃受けても破れたりしない不思議設計。おかげでけがも少なくてありがたいが。
とはいえ、今まで通りこの服だけだと心もとないから少々憧れのある軽鎧を買っておくか。まあ、軽鎧と言っても革の胸当てってところだろうけど。鉄製のものもあるけどあまり重たいのもな…
サイズの合う物を探しているとリリアとセイラが僕を探す声が聞こえた。そこまで広い店じゃないが商品棚の背が高いものが多くて探しづらいようだ。僕は2人の声に応じて返事をする。しばらく待つと2人が多々野向こうから顔を見せた。
「レイお兄ちゃんはっけ~ん。いいの見つかった?」
「あんまり。とりあえずこれでいいかな。」
「これ付けるくらいなら今のままでいいと思うけどな。」
僕の持っている革の胸当てを見てセイラが言う。
「やっぱそうか?どうしようかね。」
僕は皮の胸当てを棚に戻す。
「店員に聞いてみようか。…2人は何買うか決まったの?」
2人は顔を見合わせて笑顔で隠していた商品を見せてくる。
「じゃ~ん。どう?可愛いでしょ~。」
「あたしの方もイケていると思わない?性能は今着ている奴より少し劣るけど対処する方法はあるからね。」
「ふーん。まあいいや、とりあえず店員に聞いてみよう。」
リリアとセイラが店員に聞いて賞品の確認をしたが結局ちょうど良さそうなのがなかったために僕の分だけ買わずに宿に戻った。