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1-5

 呼神の祠のあった森に入るのも久しぶりだ。この森はベルザの森と呼ばれていて、呼神がベルザという名前らしい。


 ベルザがいる森だからベルザの森で、その近くの町だからベルザタウンか。正直あの町の規模でタウンは無いと思うんだけどな。まあ元の世界の感覚だから文句言ってもしょうがないか。


「あ、あそこにたくさん生えてる~。」


 森の中を歩いているとリリアが薬草が生えている場所を見つけ駆け寄った。僕とセイラもあとに続く。


「これが薬草か。根っこは残して抜くんだったね。」


「ええ。根が残っていればまた生えるからなるべく残さないといけないの。」


 3人で黙々と薬草を抜く。10本で一束にして紐で括って冒険者ギルドで渡されたかごに入れる。このかご一杯にしないといけないらしい。とは言っても100本も入れればだいぶ溜まってきた。あと2~30本でいいくらいかな。


「う~ん、あとちょっとなのに薬草ないな~。」


「もう少し奥に行ってみようか。」


 薬草を探してさらに森の奥へと入る。薬草の茎らしきものはあるのだが、必要な葉の部分が動物に食べられたのか無くなってるのが目に付く。


「また茎だけ。」


「動物さんが怪我をして食べたのかな~?」


「それはあるかもしれないけど、この数は流石に異常な気が…」


 動物が怪我の治療で薬草を食べるのね。自然治癒力を高めるとかそんな感じなのかな。


 結局呼神の祠のところまで来てしまった。祠の隅に薬草が固まって生えていた。


「あったあった。これ全部摘んで帰れば文句ないでしょ。」


 薬草を摘もうとしゃがむと木々の間から物音が聞こえた。3人で顔を上げて見ると少し離れたところで猪がこちらを見ている。口には薬草の葉っぱらしきものが覗いていた。


「あいつが薬草を食い荒らしていたのか。どうする?」


「普通の動物ならこちらが手出しをしない限りはあまり襲ってこないはずだけど…」


「普通の?」


「あの猪さん、なんか怖いよ~。」


 僕はかごに入っている薬草を一束掴んで猪に投げた。猪はそれに近づきにおいをかいでから食べる。そして再びこちらを見た。


「一束食べたら別の場所に行ってくれるかと思ったけど当てが外れたかな?」


「レイヤさん…あの猪、普通の動物じゃない!」


 セイラがそう言うのと同時に猪が突進してきた。僕らは転がるように猪の突進をよける。


「あぶな~。何で襲ってくるんだよ。」


 猪は木にぶつかり止まった。そして振り返る。


「あれは魔獣です。気を付けてください!」


 魔獣?そういや魔獣がどうとかって言ってたな。…いや、魔物だっけ?


「レイお兄ちゃん危ない!!」


 ボケッと考えていたら猪が迫ってきていた。すんでのところで避けて地面に転がる。猪はまた木にぶつかって止まっていた。


「レイヤさん、早く立って!!」


 言われて立ち上がるとリリアとセイラはどこから取り出したのか武器を構えていた。


「先にレイヤさんの武器を買っておけばよかったね。まさか…魔獣がこんなに怖いなんて思わなかった…」


 セイラの足が震えていた。うしろでリリアが詠唱をしているが彼女も足が震えている。


「僕はどうすれば?」


「リリアの補助魔法が発動したらあたしが斬りに行く。レイヤさんは何か魔法で援護して。」


 そう言われて僕も魔法の詠唱を始める。さっきの試験でセイラがやった短縮詠唱とは逆の延長詠唱。必要以上に言葉を紡ぐことで魔法の威力や効果を上げる方法だが、まったく意味のない言葉を紡いでもいけない。今唯一成功できるのがファイアーボールだけだ。


「我らに守護の力を!オーバーガード!!」


 防御の補助魔法が発動し僕らを幕のようなものが巻き付く。それは動きを阻害することは無く僕は両手を前に出した。


「ファイアーボール!」


 テストの時とは違いバスケットボールサイズの火球が飛び出し猪に当たった。猪がふらついたのを見てセイラが猪の横に走り胸にレイピアを指す。レイピアを抜けば猪は暴れだすが上手く急所を貫いたのか次第におとなしくなった。


「セイラ!大丈夫か!?」


 猪が暴れた時に吹き飛ばされたセイラの元に駆け寄る。セイラは何事もなかったように立ち上がっていた。


「大丈夫。リリアの補助魔法でけがはないみたい。」


 そう言ってふらつきながら森の中に入っていくセイラ。


「お、おい!どこ行くんだ!!」


 追いかけようとするのをリリアに止められた。


「セイラちゃん、これが初めての命のやり取りだから気持ちが悪くなったんだと思う。私も最初は気持ち悪くて吐いちゃったから。」


 リリアが森の方を見ながら言う。


「リリアは何度かこういう経験あるのか?」


「うん。何度か…でも生きるためには仕方がなかったから…」


 それを聞いてリリアの頭を撫でる。リリアは笑顔で顔を上げてセイラのところに行ってしまった。僕はどうするかと思って猪の死体を見る。正面から見た時は気が付かなかったが体中傷だらけで、血は出てないが傷はふさがっていなかった。だから薬草を食い荒らしてたんだな。


 こういうのは町に持ち帰れば解体とかしてくれるだろうと思い猪をもち上げようとするが普通に重たい。そういや猪の体重は100キロは超えるって聞いたことあるな。流石に持てないか。


 2人がまだ戻ってこないので薬草を摘みつつ戻ってくるのを待った。


 どれくらい待ったかわからないが祠に寄りかかって座っていたらいつの間にか眠ってしまってたようでリリアに揺り起こされた。


「おきたおきた~。」


「ごめんなさい、レイヤさん。少し気分が悪くなってしまって。」


「無理しなくていいよ。もう大丈夫なのか?」


「はい。落ち着きました。」


 立ち上がって伸びをする。猪を転がしていたところに目を向けると猪が荷車に乗っていた。


「何だこりゃ。」


「荷車だよ~。レイお兄ちゃんが寝ている間にセイラちゃんと二人で頑張って載せたの~。」


「へ、へ~…」


 あの重量をどうやって動かしたのか気になるがまあ魔法だろうな。だけどもっと気になるのはこの荷車をどこから出したのかってことなんだよな。武器もそうなんだが収納魔法とかあるのか?教本には書いてなかったが。


「レイお兄ちゃん荷車引いて~。」


 リリアに言われて荷車の引手を持つ。引っ張ってみると重量感はあるが普通に引っ張れた。しばらく引っ張っていると後ろが少し揺れて重量感が増す。何かと思って振り向けばリリアとセイラが台の上に座っていた。重たくなったから文句を言おうかと思ったがセイラは気分が悪いだろうし、リリアは猪を乗せるのを頑張ったのだろう。動かないほどじゃないからこのまま進むか。


 荷車を引き森を出て冒険者ギルドに向かう。まずは依頼の報告をしてこの猪をどうするか聞いてみるか。見張りがてら荷車を2人に頼んで籠をもって建物に入り受付に向かう。


「あ、おかえりなさい。どうでした?」


 ミリアルさんが声をかけてくれる。受付のカウンターに籠を置いた。


「かご一杯ってこれくらいですかね。」


「たくさん入ってますね。ちょっと確認します。」


 ミリアルさんはかごを受け取って中身を確認した。一束にした本数を数えて束の数を確認する。


「はい、大丈夫です。依頼達成ですね。水晶タブレットにギルドカードをかざしてください。」


 ポケットからギルドカードを取り出しかざす。水晶タブレットが光り依頼完了の文字が浮き出てきた。


「まだ依頼を受けますか?」


「いや、森で猪狩ったんですけど、どうすればいいですかね。今外に置いてあるんですが。」


「解体とか出来ないようでしたらうちで一手に引き取りますよ。普通の猪でしたら重量換算になりますが。」


「なんか普通の猪じゃないっぽくて…」


 セイラが魔獣だと言っていたことを説明しようとしたらギルドの玄関扉が勢いよく開いて無精ひげの男性が入って来た。


「あ、あんた外の嬢ちゃん達と一緒にいた奴だよな!?早く来てくれ、嬢ちゃん達が絡まれてる!!」


 僕を見るなりそう言ってくる。そして外の嬢ちゃんってことは…


 慌ててギルドの建物を出ると隅に置いた荷車に人だかりができていた。と言っても10人程度だが。人だかりをかき分けて荷車の前に出る。


「だからこの魔獣猪は俺たちが討伐依頼を受けていた奴だ!俺たちで引き取らせてもらう!」


 髪の毛を逆立てた若い男がリリアとセイラに詰め寄っていた。


「ですから!この猪を討伐したのはあたし達です!討伐達成の報酬は権利がないので何も言いませんが、この猪の買取金はこちらの取り分です!!」


 セイラも男を睨みつけて叫ぶ。そういや依頼説明の時に討伐系はこういうトラブルが多々あるって聞いたな。そしてあの猪が傷だらけだったのはこういう理由か。セイラだけで対応できそうだが一応僕が先頭に立つか。


「お兄さん、うちの子をあんまり困らせないでよ。」


 そう言って男の肩を叩けば男は叫びながら跳び上がり(比喩ではなくマジで跳んだ。)僕を睨みつけてくる。


「なんだお前は!!?」


「なにってその子たちの保護者。」


 実際は違うが守ってほしいと言われて召喚されたんだから違いはあまりないだろう。


「あぁ?じゃあお前と話せばいいのか?あの魔獣猪は…」


「話は聞いていたよ。だけどギルドの規則だと討伐した方に権利があるんだろ?ならその子が言った通り依頼達成の報酬はいらないからその猪は貰っていくよ。」


 穏便にと思いつつもセイラと同じことを言ってしまう。


「だから!横取りすんじゃねぇって言ってんだ!ほとんど討伐状態だった奴を偶然見つけて倒したって討伐にはならねぇんだよ!」


 こりゃ困ったな。ギルドはこういういざこざは仲裁してくれないはずだしどうしたものか…


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