1-4
水晶タブレットを受付に戻してたくさんの武器を入れた箱を持ってきたミリアルさん。武器と言ってもすべて木製のようだ。
「それでは好きな武器を選んでください。この試験で魔法は使わないようにしてください。あくまで武器による攻撃だけですので。」
リリアとセイラは箱をあさり武器を探す。リリアは背丈ほどの長さの杖をセイラは幅の細い剣を持った。
「武器と言われてもね。そもそも平和な世界にいたから…」
僕も剣でいいかと思ってあさっているとただの棒を掴んだ。木棒か…懐かしいな。昔通っていた道場で一時期棒術を叩きこまれたっけ。まあ、今思うと棒術とは名ばかりで振り回しているだけだろうが。…あの爺さん元気かな…もう10年は会っていないが…
僕はそんなことを考えながら棒を回し振り下ろす。意外と使いやすいな。
「あ、すいません。それ槍のはずなんですが先端が外れちゃってますね。今探しますね。」
ミリアルさんは箱に頭を突っ込んで中をあさっている。
「いや、これでいいですよ。」
僕がそう言うとミリアルさんは箱から頭を出す。手には槍の先端が握られていた。
「レイヤさんがそういうならいいですけど。それでは一人だけ戦闘フィールドに入って2人は外に出てください。危険はないですが、もしもということも有るので。」
それを聞いて誰から行くか話し合う。今度はセイラが先にテストを行うことになった。
「セイラちゃん頑張ってね~。」
「これくらいのテストならあたし達には簡単よ。レイヤさんはわからないけど。」
「はは。ひどい言われよう。」
まあ実力はわからないからそう思うよね。実際僕もどこまでできるかわからないし。
ミリアルさんを見ると地面から人型を作り出していた。
「なにあれ?」
「ゴーレム魔法だね。土や石を集めて作る人形みたいなやつ。本当はもっと大きくなるけど魔力を調整して人の大きさぐらいで止めてるんだね。」
セイラが感心したように言っている。ゴーレムってあれだろ?刻まれた4文字を3文字にして倒す奴…まあ元の世界の話だが。
「それじゃあ頑張って。」
僕とリリアは外に出た。ミリアルさんも中にゴーレムを置いて出てくる。ああいうのってどれくらいまで離れられるんだろ。
そんなことを考えているうちにセイラはレイピアっぽい木剣を構えてゴーレムに向かって行った。そしてゴーレムの後ろに回り込んで心臓部を一突き。ゴーレムはそのまま膝をついて倒れる。
「セイラさんオッケーでーす。」
ミリアルさんがまた手をあげて丸を作っている。しかしゴーレム相手とはいえ心臓部を一突きか…まだ子供なのにあんなことが出来るってことはこの世界はあまり平和とは言い難いな。
「セイラちゃんお疲れ~。」
セイラが戦闘フィールドから出てきてリリアと手を合わせている。
「それじゃあ今度は私が行ってくるね~。」
リリアは戦闘フィールドに入り杖を構える。木製で上の部分が丸い玉のような意匠が彫ってある。リリアが構えるとゴーレムは立ち上がりリリアを見た。まあ顔が無いから見てるように見えてるだけなんだが。
今度はゴーレムが先に動いた。一気に間合いを詰めてリリアを掴もうとするがリリアは脇によけてゴーレムの足を引っかける。そして転んだゴーレムの頭を目掛けて杖を振り下ろした。ゴーレムの頭はつぶれ動かなくなる。
土人形だからグロさは無いがリリアもよくあんな風にできるな…
「あたし達が戦えることが意外?」
セイラに言われてドキリとする。戦えることが意外ではないが。
「レイヤさんが元居た世界はどんなのかは知らないけど、ここでは自分の身はある程度守れないといけない。だから小さい頃から戦闘訓練は受けてきたの。まだ実戦経験はないけどね。」
「そうなのか…」
僕はそれしか言えなかった。
「いえ~い。見た見た?一撃だったよ。」
リリアが戦闘フィールドから出てくる。
「あたしも一撃よ。あれくらいの弱さなら一撃でやらないとね。」
リリアとセイラが期待した目で僕を見てくる。言いたいことは解るんだけどね。僕は何も言わずに戦闘フィールドに入った。ミリアルさんがゴーレムの頭を集めて直していた。
ゴーレムの動きから素人か毛の生えた程度の戦闘経験が無いレベルだとは推測できる。だけど対面してみると意外と怖いんだよな。そもそもゴーレムなんて未知の相手だし。
ゴーレムを直したミリアルさんが戦闘フィールドから出ていく。木棒を構えてどう攻めるか考えているとゴーレムが動き出し迫ってきた。少々驚いたが冷静に木棒を突き出し相手の胸をつく。少しバランスを崩したところで木棒の先端を握りゴーレムの胴体目掛けて振り回した。ゴーレムの体はそのまま二つになって倒れた。
…マジか…胴体の真ん中くらいで止まるかと思ってたのに半分にしちゃった…結局は土だから柔らかいと言えばそうなんだろうが少し気分が悪くなりそうだ。
ミリアルさんを見ると手を挙げて丸を作っていた。口は動いているが声は聞こえない。だからか、あの動きをするのは。
3人が戦闘フィールドに入って来た。
「すご~いレイお兄ちゃん。ただの棒でゴーレム切っちゃった。」
リリアが抱き着いてくる。
「レイヤさん、戦えたんですね。」
「戦えてたと言えるのかどうかはわからないけどね。」
セリアは僕に抱き着いているリリアを引きはがす。ミリアルさんは切られたゴーレムを見て首をひねっていた。
「どうしました?何か問題が…」
「いえ、棒でやった割には切り口が綺麗なので何でかなと思いまして。」
ミリアルさんはゴーレムを土の上に置いて土に戻した。
「3人とも試験の結果は合格です。それではこの後はギルドカードをお渡ししますので中にお入りください。」
ミリアルさんに促されて演習場を後にする。建物に入って受付に戻るとミリアルさんは3枚のカードを持って受付の席に着いた。
「それではこちらを。それぞれ名前が書いてありますのでご自分の名前のものをお持ちください。」
僕らは自分の名前の書かれたギルドカードを受け取る。手のひらサイズの変哲もないカードだ。銀色かと思ったら灰色。材質はプラスチックっぽい。表面に名前が書いてあってその横にローマ数字のⅠと書かれている。
「カードは無くしても再発行できますがお金がかかるのでなるべく無くさないようにしてください。」
「再発行にはいくらかかるの?」
リリアがミリアルさんに聞いている。
「1000ベーレになりますね。」
それを聞いてリリアとセイラは顔をしかめる。
ベーレはこの国の通貨単位で元居た世界の間隔だと10000は無いくらいかな。あの宿屋のスイートルームが一か月朝食付きで45000ベーレというのを考えると顔をしかめる理由がよくわからん。金はあるんだろうに。
ちなみに通貨は数種の硬貨と数種の札で分けられている。
「初回発行がただなのに再発行代が高すぎると思うよ~。」
「あたしもそれは思う。無くす人が少ないのか、逆に多いから暴利をむさぼってるのかどっちかなんじゃない。」
リリアとセイラは2人でしゃがんでこそこそと話す。声は小さいがいかんせん距離が近いからミリアルさんにも聞こえているっぽいな。苦笑を見せている。まあ、言いたいこともわからなくもないが。
「この名前の横の模様は何です?」
この世界に来てローマ数字はこれが初めて見た。翻訳機能でローマ数字に見えているのか、ただの模様なのか確認しておかないと。
「はい、これは皆さまのギルドランクを示しています。3人は駆け出しのファーストランク。それを線で現した記号がこれです。」
聞いておいて正解だった。
「ランクってあげられるの?」
「もちろん。依頼をこなせばポイントがたまって一定以上になると昇格試験を受けられます。その試験に合格すればランクが上がります。」
試験あるのか。面倒だな。
「依頼の話も出たのでこのまま依頼に関して話させてもらいます。」
水晶タブレットを取り出してきた。リリアとセイラは立ち上がり水晶タブレットを見る。
「受付に置いてあるこの水晶タブレットにギルドカードをかざしてもらうと、その人のデータを読み取って最適な依頼が表示されるのでそれを選んでいただくのが一番簡単です。それ以外にはあそこの掲示板に依頼書が張り出されますのでそちらを見て選んでいただいて大丈夫です。いきなりランクの高い依頼を受けることは出来ますが、もし失敗をすれば責任はすべて受注者に負ってもらうことになるのでご注意ください。早速依頼を受けますか?」
そう言われて僕のギルドカードをかざす。数秒待って空中に依頼が3つ表示された。
「うわすげ、なにこれどうなってるの?」
思わず水晶タブレットをまじまじと見る。
「討伐系が2つに採取系が1つ。最初ならこんなものか。」
僕の感動を無視してセイラが表示されている依頼を確認している。
「ならこの薬草採取がいいかな。これって森の中の薬草を取ってくればいいのよね?」
「はい。森の中にある呼神様の祠の近くに薬草が生えているのでそれの採取になりますね。」
「これでいいんじゃな~い?あそこの祠なら前に行ったしルートもわかるし~。」
リリアも依頼書を読みながら言う。
「レイヤさんはどう?いきなり森の中にも魔獣なんか入るから安全とは言えないけど。」
「まあいいんじゃない。こういうのって選び方がわからないから任せるよ。」
僕は正直に答えた。
「それじゃあこの薬草採取で。」
「はい。ではレイヤさんがリーダーで受注手続きをしますね。…はい、完了しました。」
水晶タブレットに置いておいたギルドカードを受け取ろうとする。しかしミリアルさんが先に取ってしまった。
「もう少し説明があります。皆さんのように複数人で依頼を行う場合はリーダーのギルドカードに他の人のギルドカードをかざせば共に依頼を行うチームとして登録できます。また、裏面には依頼内容とチームメンバーの表記がされますのでその部分を指で触れると…」
裏にしたギルドカードには確かに何か文字が出ている。ミリアルさんはその部分に触れた。水晶タブレットと同じように空中に依頼内容が表示される。
「このように見ることが出来ます。」
「へーすごーい。」
ミリアルさんから受け取ったギルドカードを2人の前に出す。2人もそれぞれギルドカードを出して僕のカードに重ねた。裏面に依頼が表示されたのを確認する。
「すごいわねこのカード。まさかこんなこともできるなんて。そりゃ再発行もお金かかるわね。」
まだ言ってるのか。僕らはそれ以外の細かい注意事項を聞いて冒険者ギルドを出た。