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宿屋を出てセイラの先導で冒険者ギルドを目指す。しばらく歩けば町のはずれに看板は下がっているが店名が書いてない建物があった。そう言えば何の店か気になっていたところだなここ。
看板には剣と斧と槍が交差して背後に丸い盾が描かれている。こういう意匠って冒険者ギルドを設立した初期メンバーの装備とかだったりするんだよな。
セイラは躊躇することもなく冒険者ギルドの扉を開いた。レイラ、リリア、僕の順番で中に入る。
「おはようございます。冒険者ギルドベルザ支店へようこそ。」
支店という扱いなんだ。いや、これは翻訳の問題か?セイラは声をかけてくれた受付の女性の元に行く。
「冒険者登録をしたいの。3人分。」
「え?2人も登録するの?」
思わず聞いてしまった。
「だって一緒の方がいいでしょ~?」
リリアは振り向いて言う。
「うん…まあそうだろうけど…」
「承りました。ではこちらの申請書類を熟読して下の部分にお名前のご署名をお願いします。」
セイラが3枚の用紙をもらって来た。1枚を受け取る。植物紙だよなこれ。教本の方がもっときれいな紙を使っていたが一般的にはこっちが普通なのかな。
まあそんなこと考えてないで申請書を読むか。なんか熟読しろって言ってたし。えっと、冒険者は自己責任となるので依頼でおった怪我や損害は冒険者ギルドでは補償しない。冒険者は依頼主あって仕事が貰えるために依頼主の不利益になるようなことは行わないこと。万が一依頼主とトラブルとなり、冒険者側に非がある場合は調査費などの費用はすべて冒険者が負担すること…などなど。
…子供に読み聞かせるような書き方だな。そういや気にしたことは無かったけどこの国の識字率ってどれくらいだ?低いんだったらこの書き方もありなのか?そもそもこの世界ではこういう書き方をするって事の可能性もあるか。教本は…そういやあれ、子供用のだったから参考にならないや…
「レイヤさん、このペンを使って名前を書いてください。」
セイラにペンを渡される。このペンも不思議なんだよな。鉛筆とかボールペンとかじゃなくてただの棒の先を尖らせているだけみたいなのにインクも付けずに紙にかけるんだから。どういう構造なのか聞いても2人とも知らないみたいだし。
とりあえず申請書に書かれた文を3回読み直す。これで分かったのは冒険者ギルドが行うのは依頼の調整で、それ以外は自己責任でやれってことか。大丈夫かこれ?
少し躊躇したがリリアとセイラが申込用紙に名前を書いたので自分も名前を書く。フルネームじゃなくてもいいみたいなのでレイヤとだけ書いた。
3人で受付に渡しに行く。受け取った受付嬢は申請書を確認して笑顔を向けてくる。
「はい、リリアさん、セイラさん、レイヤさんですね。それではギルドカードを発行しますのでその間実力を測るテストを行ってもらいます。裏の演習場へ向かってください。」
受付嬢に言われて一度外に出て裏に回る。演習場と言われたところはサッカーコート並みの広さがあった。冒険者ギルドが町はずれにあるのはこの演習場を確保するためかもね。
しかし演習場に行けと言われても誰か待っている様子はない。しょうがないので建物にもたれかかって待っていると10分ほどして先ほどの受付嬢が走ってきた。
「ご、ごめんなさい…今日の演習場の担当自分だったって忘れてて…」
「いや、まあ別に…」
特に気にしては無いからと言えば暗かった表情が明るくなる。犬みたいな人だな。フワフワの髪も茶髪で瞳も薄い茶色か?そのせいで余計に犬っぽく見える。
そう言えば2人はおとなしいけど…寝てる…リリアがセイラに膝枕されて寝息を立てていた。セイラも俯き明らかに寝ている。
「ほら二人とも、こんなところで寝ていると風邪ひくよ。」
声をかけると2人は目を開ける。
「ふぁ~。セイラちゃんの膝枕が気持ちよくって寝ちゃったよ~。」
「あたしとしたことが…こんなところで寝てしまうなんて…」
「疲れていたんでしょ。ほら、始めるみたいだから立ち上がって。」
2人は立ち上がりほこりを払うように服をはたく。
「では改めまして、本日試験管を務めさせていただきますミリアルと申します。」
「リリアです!」
リリアが手を挙げて名乗る。
「セイラです。」
「レイヤです。よろしくお願いします。」
つられて僕らも名乗る。ミリアルさんが笑っているからもしかしたら必要なかったかも。受付してくれたのもこの人だし。
「はい、よろしくお願いします。試験の内容は2つ、魔法と武具術です。」
魔法は解るが武具術ってなんだ?言葉のまま考えれば武器なんかをもって戦う事だろうが。
「まずは魔法からですね。3人の得意魔法はどんなのですか?」
「私は補助と回復魔法が得意です。攻撃魔法も少しできるけど。」
「あたしは逆に攻撃魔法が得意で一部の補助と回復が使える。」
「僕は…最近魔法を覚えたからよくわからない。」
リリアとセイラの話しを聞いている時は笑顔で頷いていたが、僕の言葉を聞いて目を見開いていた。
「えっと…レイヤさん…え…これまで全く魔法を使わずにいたんですか…」
「え、ええ。魔法を使わなくても問題ない生活をしていたので。」
嘘は言っていない。ただ、正しい回答かはわからないが。
「はあ…その年齢まで全く魔法を…ま、まあそういう事もあるんでしょう!」
いくつに見えてるのか知らんが、まあ成人はしてると思われてるだろうね。
「では演習場内に入ってください。」
ミリアルさんの後について演習場に入る。入った時からわずかに吹いていた風がやみ、外の音が聞こえなくなる。
「それではそこに立ってこの位置のこの的に攻撃魔法を当ててください。属性は何でもいいですがあまり強い魔法は使わないでくださいね。この的予備があまりないので。」
実力を見るのに的は壊しちゃいけないとかどんなだ。あくまで最低限の実力があるか見るってことか?確かにそれなら受付嬢でも出来るからおかしくないのか?
そんなことを考えているうちにリリアが前に立って呪文の詠唱を始める。
「火よ起これ。集いて丸まり飛びゆかん。ファイアーボール!」
リリアは両手を前に出すと野球ボールぐらいの大きさの火球が的目掛けて飛んでいった。火球は的の中心に当たって消える。
「はいオッケーでーす!」
ミリアルさんが両手を上げて丸を作る。声は聞こえてるしそこまでやらなくてもいいと思うんだけどな。
「次はあたしが。」
リリアと手と手を合わせてセイラが前に出る。リリアは嬉しそうにターッチと言って僕の隣に戻ってきた。
「火よ集いて飛べ。ファイアーボール!」
セイラは右手を前に出して火球を放った。リリアよりも大きいバスケットボールくらいのサイズの火球だ。スピードも速い。的に当たると的が少し焦げたのか一部黒くなっている。
同じファイアーボールでもリリアとセイラの詠唱が違うのはセイラは短縮詠唱で唱えているかららしい。基本ワードが唱えられていれば本来は問題ないらしいが、詠唱をすることでその言葉自体に魔力が宿り魔法が安定して発動できると教本に書いてあった。
セイラが戻ってきたので今度は僕が前に出る。ミリアルさんは的の焦げたところを気にしていたがこちらに向き直った。
「火よ起これ。集いて丸まり飛びゆかん。ファイアーボール!」
僕も両手を前に出し火球を飛ばす。リリアよりもすこし小さいテニスポールサイズの火球が飛び、的までまっすぐ飛んだが中心に当たらず支柱に当たって折ってしまった。
「あ…やばい…」
「まっすぐ飛ばすのは出来たけど飛距離が足らなかったね。」
「折っちゃったけど怒られちゃうかな~?」
ミリアルさんは折れた的を見て少し落ち込んでいるようだが両腕をあげて丸を作っていた。
「試験的には大丈夫だった見たいね。」
「でも後で弁償しろって言われちゃうかも~。」
何でリリアは人が不安になるようなこと言うんだろうね!リリアを見ると微笑んでいる。
「いや~、支柱とはいえ的を壊しちゃうのは驚きです。この的、対魔加工されていて魔法じゃなかなか壊せないはずなんですけど。」
的の残骸をもってミリアルさんが戻ってきた。
「3人とも魔法テストは問題ありませんね。後は適正系統を教えてもらえます?」
この世界の魔法は大分して8つの系統に分類される。火、水、風、土、雷、光、闇そして無。無系統とは他の系統に分類できないという意味らしい。さらにそこから各属性の魔法に分類され、さらに細かく分けられるらしい。細かすぎて教本には記載されてないからどれくらいあるのかはわからない。
「私は水、風、光の3つ~。」
「あたしは火、土、雷の3つ。」
リリアとセイラがそれぞれ答える。ミリアルさんはそれを聞いてメモを取っていた。
「僕はわからない。そもそも適正系統って何?」
「あ~、そっか。基本的過ぎて教本に載ってなかったね~。」
リリアがいう。そうそう、教本には載ってなかったのよ。
「そう言えば最近まで魔法を使っていなかったんでしたね。…ちょっと待っていてください。」
そう言ってミリアルさんは建物に向かって走り表側の方に行ってしまう。10分ほどで何かを持って戻ってきた。
「お待たせしました…はぁはぁ…こちらに…はぁはぁ…」
「呼吸を整えてからでいいですよ。」
ミリアルさんは呼吸を落ち着かせる。女性がはぁはぁ言って頬を紅潮させてるのは少しツボ。じっくり拝ませてもらっとこう。
「はあ~、すいません。それではレイヤさん、こちらの水晶タブレットに手を乗せてください。」
クリスタルのような青白さの四角い板を差し出してくる。言われたとおりに手を置いた。
「これは何です?」
「水晶タブレットと言って魔力を通して遠くの人や物とやり取りをするものです。この水晶タブレット自体はデータを送受信するための魔道具で、今からレイヤさんの魔力を読み取りどの系統が一番相性がいいか確認します。」
一番という割にはリリアもセイラも3つあるみたいだったな。
「適正系統は現在確認されている物で無系統を除いた最大7つ。無系統が適正系統の人は何十年かに一度現れますが、他の系統と混ざることは無いようです。」
よくわからんが得意な系統という認識でいいのかな。無系統以外は同時に得意な系統で現れるけど無系統は他のと一緒には出ないって感じなのか。
しばらく手を置いていると水晶タブレットが光った。
「適正系統の確認が終わったようですね。」
そう言われて手を放す。
「えっと…あれ?表示されない?」
ミリアルさんは水晶タブレットを振ってもう一度確認する。いいのかそんなので。
「やっぱりされないですね。どういう事でしょう?これはちょっと問い合わせないとわからないですね。レイヤさんの適正系統は不明にしておきます。」
水晶タブレットを脇に挟んでメモを取るミリアルさん。こういうのってなんか嫌なパターンが思い起こされるな。まあ追放系にはならないだろうけど。