二・五章五話 「vs 第二騎士団」
「脱獄犯捕縛のため、いざ果たせッ!!」
部下を鼓舞するとともに、自らへの命令。
脚に力を込めて、アメルの懐へ飛び出した。
咄嗟の判断で避けることはできたが、このまま追撃が来るとすれば直撃は避けられない。足元に捨てられた剣を拾い上げ、刃物同士ぶつけ合う。
「さすがの判断力だな・・・。だてにリーダーしてねぇか。」
「勘違いしてもらっちゃ困るが、他の二人は俺より強い!俺程度に感嘆漏らしてちゃあ、大した事ねぇってバレるぜ?」
膂力に差があるため、身体強化魔法をかけて押し返す。持続力はないが、瞬発力で今までやってきた。
「・・・テメェの方こそ勘違いしてもらったら困るな。いつ俺が、第二騎士団最強だと言ったよ!」
瞬間、風が頬をなぞった。
強風の出所を見ると、メイラが壁に打ち付けられている。相手は奥から現れた二人の内一人の女性。
「おいルーテ!!殺すんじゃねぇぞ!!」
ガンレットは彼女の想像以上の出力に驚きつつも、最低限の注意をする。
「わかってますよ。団長""代理""。」
「代理を強調すんじゃねェ。」
「それに・・・」
ルーテがその手に50cm程度の棒を構え、横から殴りつける。狙うは顔面。並の人であれば骨が砕ける威力だが・・・
メイラはそれを片手で受け止め、ルーテの体を蹴り飛ばした。
反対側の壁へ叩きつける。
両者とも壁面への激突によりそこそこ強い衝撃を与えられたはずだが、何事もなかったかのように立ち上がる。
「手ェ抜けるほど、生半可な敵じゃねぇみたいなので・・・!」
おそらく互いに小手調べだ。これ以上近くにいると巻き込まれて死んでしまうかもしれない。自分がチーム内最強ではない、というのは、お互いにハッタリではないらしい。
つまり、もう一人も・・・?
「おいサブエス!!まだか!?」
「待ってくださいぃ!!もうすぐ準備が・・・、終わりました!!」
やたら戦闘開始まで準備時間をかけていた騎士。後ろでごちゃごちゃいじっていたのは見えていたが、それほど攻撃に手間がかかるものなのか。
ミウはずっと待っていた。余裕しゃくしゃくだ。
「後悔させてやりますよ・・・!!行けぇ!!!」
ミウに向けて何かを放り投げる。片手で軽々持ち上げられる物で、それは的確に、足元に投げ込まれた。
あの形状は、
手榴弾
ドオオオオォォォォン!!!
身近での爆発により、体を押す勢いの爆風が吹き荒れる。
爆弾にしては控えめとはいえ、直撃すれば怪我では済まない。十分に準備時間の元がとれる結果だ。
「よっし!!やりましたよガンレットさん!!次はどっちをサポートしたら」
サブエスの気分はもう、3対2。指揮者であるガンレットに次の命令を仰ぐ。
後ろから、ちょんちょんと肩をつつかれる。
「ん?」
そこには、爆発に巻き込まれたであろう水色の子どもが。
「ぎゃあああああああ!!?」
気づいたときには気絶したサブエスが転がっていた。ミウはどうにも消化不良な感じだ。白目を向いた顔をつついて暇つぶしをしている。
「・・・開始数秒で負けやがって。」
選抜したとはいえ、これが一般兵の限界。
部下が負けた瞬間、視線をそちらに向けた。この隙を逃すほど甘くはない。身体強化魔法を乗せたまま距離を詰めるための一歩を踏み込み、剣で斬りかかる。
ガギイイイィィ・・・!!!
「おっと、俺にその不意打ちは通用しねェぞ!!身体強化魔法の珍しさに頼り切ってんのか知らねぇが、所詮、"珍しい"だ。」
背後の戦闘も次第に激しさを増している。女性陣二人の、壁や天井を用いた立体的な動きに目を奪われるが、その中でも気になるのは相手の動き。
動きにメリハリがつきすぎている、だったり瞬間爆発力が強い、だったりいろいろあるが、何よりも身に纏っているその雰囲気。見たことがある。日常的に。
「あいつ、身体強化魔法(俺とおなじ)か。」
「そういうことだ。」
騎士の鍛錬方法は知らないが、模擬戦の一つや二つあるだろう。間違いない。俺の動きに慣れている。
ガィン!!ギイイィィン!!
何とか手数で押し込もうとはするが、履修済みかのように対応される。そもそもの剣の技術が足りない。
いっそのこと、多少の傷は考慮するべきだ。
斬られる恐怖を押し殺して上段に蹴りを差し込む。
すんでで躱されるが、それは許容範囲。身体強化魔法が駄目なら、もう一つ武器がある。
「サンダーショット!!」
「・・!ぐッ!?」
雷初級魔法を心臓に撃ち込むが、着弾点を肩にずらされる。直撃と同時に、ガンレットは距離をとった。
「交ぜられると面倒だな・・・。」
「一芸だけじゃあ、この世はやってけないからな。」
背後でぶつかり合う二人は鋼の肉体というアドバンテージを持っているからこそ、殴り合いの一芸で戦えるが、一般人はまた一つ味が必要となってくる。
「そりゃ同意だ。」
空いている手で懐を探る。傷の手当でもできるのか、先ほどのような爆弾を常用しているのか、と考えている間に、
ドオォン・・・!!
何かが頬を掠め、一筋の血が流れた。
「この世には、バケモノが想像以上に多くてイヤになる。」
自らの服越しに撃ってきた。慣れていない不意打ちだからか、掠めた程度で済んだ。
「一つに固執してちゃあ、死んじまうんだよな。簡単に。」
右手に剣が一振り。そして、左手に拳銃が一丁。
「互いに武器二つ。決着つけようじゃねェか・・・!!」
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弾に雷魔法をぶつけて弾道をずらす。口では簡単に言えるが、そう何度もこなせる芸当ではない。不規則に動いて避けながら距離を詰めることも考えたが、素人の不規則なんてある人にとっては規則的になってしまいそうだ。
俺の魔法と相手の拳銃、相手に分がある。
俺の身体強化と相手の剣技、相手に分がある。
そうなると試していないのは後一つ。俺の複合と相手の複合だ。しかし、その状況を作るには相手との距離を詰めなければならない。
弾が確実に進行を妨げる。このままではハチの巣だ。
ならば
手に持つ剣を正面へ投げる。真っすぐと飛んでくる剣を避けるのに、一動作いるだろう。だがあいつなら、その隙を埋め合わせるように撃ち込んでくるかもしれない。
一瞬だけ、意識をずらすことができれば上出来だ。
ドオオォン・・・ダアァン!!!
天井を使った立体的動き。付け焼刃だがなんとか正確に動くことができた。
飛ばした剣より先に、相手の懐へもぐりこんだ。剣を避けるという動作からの詰めを警戒した弾を撃つのであれば、逆にすればいい。
ガンレットは驚きはするが、すぐによそへ構えていた銃口をこちらへ向ける。背後からは自ら投げた剣が襲い来る。
無視だ。
すべてを無視してガンレットを殴り飛ばす。
殴り飛ばして出来た距離を、すぐさま詰める。
その動きを予測していたかのように、剣を横薙ぎに振って来た。
勢いを殺さず無力化する。
「麻痺!!」
「ッ!?ぐ・・・ぁ!」
唐突な痺れにより、手から武器を落とした。痺れる前の勢いが残ったまま手を離したため、剣は床を滑り所持者から離れていく。残った拳銃を、手の届かない位置へと蹴り飛ばした。
決着。
魔法の制御を練習していた過程、器用にも丁度良い塩梅の麻痺を繰り出すことに成功した。実戦で使うのは初だが、見事決まった。
「帰るぞ!!ミウ!!メイラ!!」
「おー!!」
「ん!!」
牢獄とは反対方向へ走る。メイラは相手をどうまくか気になったが、
「化粧屋で見繕ったアイテム!化粧玉!!」
地に叩きつけると、煙が辺りに充満する。視界を化粧したということだ。どういうことだ。
こうして俺らの脱獄は終わった。
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戦闘が終わっても、未だ余裕を残したルーテが戻ってくる。
「いいんですか?逃がしちまいましたけど。」
「・・・騎士が剣を手放した時点でこの勝負、騎士(俺)の負けだ。」
殴り飛ばされてから、その場で立ち上がることなく負けた。そのまま立つ気力もなく座り込んでいる。
「マジですか。負けたんですか。クビですか。」
「クビじゃねェ。」
通信機から着信が来たため、応答する。相手はかの英傑レイペンドだ。
「ガンレット。面倒なこと頼んでごめんね。彼はちゃんと釈放した?」
「・・・はい。」
「先ほど脱獄の知らせが届いたんだけど、彼のことじゃないよね?それだと色々話が変わってくるんだけど・・・。」
ガンレットの目には、走り去る三人とおぶられた一人の姿が映る。
「こっちで釈放しときましたよ。・・・律儀に檻に残ってたんで。」
「そっか!一応確認しときたかったんだけど、それなら良かった。」
通話が切れる。上司はなんともお人好しな風がある。
「ガンレットさん嘘ついたんですか?クビですか?」
「クビじゃねェ、と思う。・・・まぁ、何とかなんだろ。」
ようやく立ち上がり、気絶しているサブエスを叩き起こす。そして、その場を後にして移動を始めた。
「どこ行くんですか?」
「あーいう輩が、すぐ問題起こすんだよ。それで足がついちまったらマジでクビになる。」
勝った瞬間の、アメルの姿を思い浮かべていた。
殴り飛ばされる寸前、体に銃弾を撃ち込んだ。後ろからも背中を剣で斬りつけられていた。それでも勝ちをもぎ取られた。いや、自らの危険を省みることない男だからこそ自分は負けた。
調査の件が想像以上に過酷だと、今になって気づくガンレットであった。




