二・五章三話 「脱獄道」
悲報です。二度目の捕縛にあいました。
薄暗い牢獄の中、釈放されるまでの数年間を待つのでしょうか。釈放されたとして、出過ぎた行動だと認定されて闇討ちでもされるのでしょうか。
敬具。・・・・誰に?トウガにか?あなたのチームのリーダーは、貴族を殴り飛ばしたことで捕まりました、なんて。
「やっぱ貴族ってのは狂ってんなァおい。」
この牢、なぜか先に住んでいた同居人がいる。ヤクザチックな男で、俺と同じく貴族関連で捕まったらしい。殺しはしてないらしいが、本当はどうだろうか。
「あ?疑うのか?さすがに殺しちまったらわかるだろォ・・・。それに、相手はたぶん同じだぞ?」
話によると、例のヤバい奴が女性の髪を引っ張って連れて行こうとしていたらしく、目障りになって斬り捨てようとしたら付き添いの一人を身代わりにされ、その後拘束されたと。
「奴の名は"クンノ・ツメイルロー"、伯爵のガキだ。」
話通り、正真正銘の貴族関係者だった。貴族本人ではなかったが、力を持つ者であることに変わりはない。
だが、それにしては・・・。
「大胆すぎないか?いくら偉いっつっても、あんなおおっぴろげに・・・。」
恥も外聞も知るか、と言わんばかりの行動の数々。貴族とはいえ万能じゃないと思うけど・・・俺の知識不足か?
「んなの知らねェよ。噂じゃ、最近の貴族連中は伝染病かのように狂ってるらしいが。はァ~、クソ世界だぜクソ世界!!」
今はこの人と話せているが、ふとした瞬間に気に触れてぶっ飛ばされる可能性がある。この生活、後何日続くんだろう。
「・・・ちなみにだが、最近の監獄はとある極悪人の対応に追われて浅層はザルなんだ。」
ん?流れ変わったな。
「外の通路や施設に隣接しているという噂はあるが、そんな眉唾な場所信じても、宝くじで一発当てる方が分がいい話だ。」
嫌に説明口調だが、そんなことをしても刑期が延びるだけだ。
「普通はありえねェ状況。・・・・だが、天は俺らの味方をしているらしい・・・!!」
男は落としていた腰をあげ、探るようにとある位置を探す。
やめてね。
ドォン・・・!!
ガラララララ・・・・!!
壁への肘打ちを起点とし、見た目だけ取り繕った石壁が音を立てて崩れ落ちる。その先には人工物のような通路が広がっている。
「今がその時だ。今が、脱獄の狼煙の上げ時だ!!」
死ぬ。社会的に。
「なにビビッてやがんだ!!監獄に来た時点でイイ子ちゃんぶっても意味ねェんだよ!!そうだろジジイ!!」
ここまでの話で一切出てこなかったが、同居人はもう一人いる。背景と同化してそうなほど溶け込んだ老人だ。
亀の甲より年の劫。長年生きた経験で、ここは無茶な若造を叱るか、それか強い意志を見せてくれるかもしれない。
呆れるように助けを求めると・・・。
「そうじゃあ!!!イイ子ちゃんぶっても、なぁんにも人生にイイことなんてありゃしない!!ぶち殺すぞ!!!」
「ふざけんなクソジジイ!!!」
やる気満々のジジイの行く道を塞ぎ止める。
逃げても追いつかれるのが目に見えている。今ならまだ、崩れた壁を直すことで看守の目をごまかすことができるかもしれない。
「俺は逃げるからな。ここに残ったとして、逃げる俺を見過ごしたってことで大してかわらねェぞ。」
「わしも行く!!すぐにでも、為さなければならんことがあるんじゃあ!!」
もう止めることなどできそうもない。しかし己の中に眠る良心が。
脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心脱獄良心・・・。
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「行くぜ。死にたくなきゃあ、ついて来いよ・・・!!」
「ぶち殺すぞぉ!!」
「・・・・。」
男三人の、脱獄劇が始まった。
どうやら現状はザルらしいので、どちらかと言えば脱獄を果たした後が怖いところだが。曲がり角あたりなので道は二手に分かれているが、男は迷わず真っすぐ向かった。
「あイタッ・・・!?」
いざ出陣と思いきや、老人が腰の痛みを訴えてきた。男は気にせずガンガン進む。老人の視線は、確実に俺を指している。
「・・・・・あーもうわかったよ!!おぶればいいんだろおぶれば!!」
やっと話が通じたかと言わんばかりに背中に乗る。置いて行ってやろうか。
荷物を背負わされはしたが、後はただの散歩も同然。このまま道なり真っすぐに。
ふと斜め後ろから、男の横顔を覗き込んだ。
男の顔は、獰猛な獣のような笑顔をしていた。
視線の先を追うと暗い道の奥に人影が見える。その数は十以上にも及び、皆が武器を携えている。
一人が気付いた。
「囚人だ!!討て!!」
魔法が複数放たれる。それを追うように、近接武器を構えた騎士がこちらへと近づいてくる。警備はザルじゃなかったのかよ・・・。
男は迷うことなく突き進み、魔法が着弾する寸前でそのスピードを上昇。剣を振るった騎士の顔に狙いを定める。
顔面を殴るとともに頭から逆方向に押さえつけることによって、吹き飛ばすことなく始末する。なぜ容易に吹き飛ばす選択をしなかったかというと、騎士が持っていた剣を奪うためだった。
剣を奪った男は、スピードはそのままに。しかし殲滅力は著しく上昇しているようで、次々と敵を斬り倒していく。
「強・・・。」
感嘆の声を漏らしていると、後ろから気配がした。
魔法が着弾する寸前、ジジイを背負いながらもなんとか回避し、振り下ろされる剣を後ろ飛びで避ける。
「嘘だろ・・・!気づくの早」
この紺を基調とした服で統一された騎士たちは、おそらく牢屋の方面から来たのだろう。脱獄開始早々最悪な状況となった。
「ジジイ揺れるぞ!!」
「ぶち殺せ!!」
「うるせえ誤解されんだろうが!!」
殺人罪まで被るつもりはない。なので殺傷力の強い武器を奪うことはせず、空いている蹴りのみでなんとかする。
出し惜しみしている暇はないと察し、身体強化魔法で自身を強化。正確には敏捷上昇上級と腕力上昇中級、さらに硬化上昇中級を重ね掛け。
顔面を蹴り飛ばして壁に激突させ、背後の敵は無視をする。倒せば勝ちではない。逃げれば勝ちなのだ。
しかしジジイを背負いながらでは限界があるようで、短刀を持った敵に追いつかれてしまう。蹴り飛ばして対処するも、なし崩し的に追いつかれ、簡単には逃げれない状況に。
「ちくしょう。もう最悪だよ。ってか、荷物ねぇんだからお前が・・・ってもういねぇ!?」
あの男の姿はもうない。敵を前にしてあの笑顔だったので、嬉々として前進していったか。その証拠に前方には討ち漏らしがなく、皆等しく斬り捨てられていた。
ジジイに少しの衝撃でも届いてしまえば重傷間違いなしだ。いくら戦おうにも、敵は全然減らない。
いや、そもそも今自分が行っている行為はどうなのか。
つい見つかったから敵として認定し、歯向かい、戦闘しているが、傍から見れば100%こちらが悪者だ。
自分はどうしたらいい。もうこれ以上蹴り飛ばすのは駄目だ。
何か手はないか。戦うことなく、事を終わらせるには・・・。
何か・・・。
何か
ドオオオオオオオォォォォン!!!!
突如として、強い衝撃により天井が崩れ落ちた。
落ちる瓦礫の中、頂点に立つ二人の人影が。
黒と桃の混ざった髪をした少女と、全身が青色でできた少年。
メイラとミウだ。




