二・五章二話 「現状」
「駄目だ!!」
「なんで!!」
「金がないからだ!!」
どこにでもあるファミレスの一席。呼び鈴の手前で一進一退の攻防をしているのは、金髪と黒桃髪の二人だ。テーブルにはすでに完食の痕跡を残した皿が並べられている。
「な、悩みの種ができたと聞いたのですが・・・。」
向かいの席に座るのは、前髪で両目が隠れている女性、メクだ。目の前には未だ完食しきっていないパスタが乗る皿がある。
「仲良さそうじゃねーか。」
その隣には、白馬獣人のハークン。すでに完食してしまった結果、暇している。
「私を仲間にすればいい話!それと、ステーキ・・・!」
「そんな簡単な話じゃないんだよ!!命張る仕事だ!それと、これ以上はウチの家計に響く・・・!」
メイラが手を目いっぱい延ばすが、アメルはその呼び鈴を押されまいと距離を離す。
「力なら証明した!拘束した紐を自力で破ったじゃん!・・・・今だミウ!」
「力だけが全てじゃない!そんなポンポンと引きずり込んでいいような業種じゃないんだよ!・・・・あ、しまった。」
先ほど椅子に縛り付けた紐は、内側からの圧迫で引きちぎれた。戦闘で役に立つとは言われ、それを実際に目にはしたが、同い年くらいの子を無責任に危険にさらすわけにはいかない。
机に乗り上げたミウが呼び鈴を押す。突然人の体を持つと距離感がわからなくなる。それはそうと机に乗ってはいけない。
「そ、そもそもなんですが、なぜ冒険者なんですか?アメルさんたちと一緒にいたいだけであれば、他の選択肢があると思うのですが。」
メクが話を切り出す。攻防が収まり姿勢を正し、これに答えた。
「冒険者じゃなきゃ駄目なの。なんでもいいわけじゃない。」
呼び出された店員に、ミウとメイラは注文をする。暇してたハークンもそれに乗じて注文をして、質問を投げかける。
「なにもD級じゃなくてもいいんじゃないのか?なんなら目の前にいるメクはC級だしな。」
「それは・・・できない・・・・。」
詳しい理由を言うのは厳しいのか、濁しつつ答える。
「・・・・どんな理由だとしてもなぁ。」
深掘りする意味はない。トウガやサリートも、人に言えない秘密を一つや二つどころか無数にありそうだからだ。そんなとこは重要ではない。
「くっ・・・。こうなったら色仕掛けするしか・・・!」
「絶対、公衆の面前ではやんなよ。」
少しふくらみのある胸部分をはだけさせようとしたため、咄嗟に辞めさせる。冗談だとはわかっていてもひやひやする。
「・・・じゃあ、こうしよう。」
注文した特盛サラダが目の前に置かれたハークンは、とある一つの解決策を思いつく。
いや、解決策とは言えない。
「ミウを一番喜ばした方の言うことを聞く!!勝負だ!!」
「お?」
ステーキをむさぼっていたミウは、唐突に話の主軸にされたため追いつけてない。
「は?いやそりゃ」
「よし!!それがいい!!」
こんな好都合な展開、メイラ側が放っておくわけがない。ノリノリで乗じてきた。
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「そ、それでは!!第一回、ミウちゃんを喜ばせ大会!!・・・スタートです!!」
おそらく打ち切り待ったなしの大会が始まった。不正は行われないよう、外野の二人が審査員として付く。だが主な判定員はミウ本人だ。
「お先どうぞ。」
メイラが先攻を渡してきた。
変な流れにはなったが、ぶっちゃけ言うとこの勝負は負けようがない。
なぜなら人を喜ばせるというのは、情報戦だ。場所、雰囲気、その他もろもろ、全てが情報を持っているかどうかで決まる。
そして俺は、この勝負において最高の情報を所持している。
好みだ。
俺は、ミウがなにを好んでいるかを知っている。
メイラよ。自信満々に意気込んでいるところ悪いがこの勝負、先攻を握った時点で価値が確定したも同然だ。本当に悪いと思ってるよ。・・・なんで?別に俺悪くなくね?
「一番最初の場所は・・・ここだァ!!」
漫画喫茶。
「おー!!」
ミウは今まで俗世に触れてこなかったからか、漫画を一度も読んだことがなかった。それで漫画に夢中になったわけだが、どれくらい夢中かと言うとメクのBL本にも迷いなく手をかけるほど。漫画ならなんでもいいと思ってる節があるかもしれない。それが目の前に広がっているこの場所こそ、まさに正解だ。
さぁ、ここで時間制限まで居座ってもいい。最低でも一時間は離れないだろうな。ウイニングロードを歩くとでもしますか。
「ミウ~!これ面白そうだよ。一緒に読も!」
「よもー!」
今更頑張ったって意味などないだろう。必死になって楽しませようとしても、知識がものをいうこの勝負において決着は・・・・。
違う!!
まず前提をはき違えていた。場所なんてどうでもいい。判定するところはそこじゃない!
~私のために、場所を選んでくれてありがとう・・・!
~この勝負、行く場所は正直言ってどうでもいい。むしろ何が好きなのかもわからない現状だと、こちらが先攻になっても持て余すだけだ。
~判定するところは、"どれだけ喜ばせたか"!場所選びとかなんとかかんとか、デートの勝負とは話が違う。わざと先攻を渡すことで、場所決めから勝負が始まっていると勘違いしてくれた。
「お。ここだ!」
「よし。次行こっか。」
しかも読んでるものが漫画じゃなくて、ミッケみたいな見つける系!?漫画喫茶ってそういう本あったっけ?持参してきた?
「む。意外とわかんない。・・・お?」
「ほれ。気休めのグミだ。これ好きだっただろ?」
「ありがとー!」
~ほぉ?漫画喫茶まで来て食べ物で釣って来たか。しかし結局は優しいで終わる。ここからの勝負は、
時間内にできるだけ本を持ってきて、できるだけ長い時間一緒に遊ぶこと・・・!!
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一時間後。
「次こんなのど?」
「意外と絵本にも面白いもんとかあるぞ!」
「見せて見せてー!」
二時間後。
「謎解きとか持ってきたよ。」
「お、いいじゃん。」
「ナイスー!」
三時間後。
「あれ?ここどうやんの?」
「・・・?え。ムズイ。」
「・・・あ。わかった!」
四時間後。
・・・・。
「おい。おいメク。」
「・・・あ、あれ。漫画読んじゃってました。」
審査員が二人して空気に飲まれてしまい、勝負が長引いてしまった。久しぶりに様子を見てみると・・・。
「・・・寝てんじゃん。」
三人が肩を並べて眠りこけていた。たぶん途中から、勝負などどうでもよくなって楽しんでる。
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「つ、次は私の番!」
寝てしまった・・・。
結局ミウが勝敗を付けられないということで、延長戦にもつれこんだ。ということで、後攻が場所選び。
なのだが。
「女性の味方、化粧屋!」
明らかにミウ向きではない。少し先行きが不安になってくる。
店内に入ると、数多くの商品が奥までずらりと並んでいる。見たところどれも同じような見た目をしており、顔パックに似たものが売られている。
「ここはお試しで使えるものばかりなの。」
店を進むと試着室のような場所があり、一つ一つ区切られている。中には洗面台と鏡が置いてある。
「・・・けしょう?」
ミウには馴染みがなく、メイラに化粧の存在を聞く。お試し用のものを持ってきて説明した。
「これを顔につけてはがすだけで、綺麗になるの!」
顔パックのようなものを顔にはりつけ、数秒したらはがす。すると、あっという間にメイクアップが完了した。
さすがのミウも相当驚いたようで、興味津々になる。
転生前の世界と比べると、メイクアップにかかる時間が圧倒的だ。詳しいことは知らないが、ものの数秒で完了するような世界ではなかったはず。しかも同じような製品が大量に並んでいるため、商品の数だけメイクアップの種類があると考えると、とんでもない。
気づいたらミウも色んなものを試して楽しんでる。マズイ。化粧なんてからっきしだぞ。終わった。
入り口付近に、悪寒を感じる。
「なぁんだぁ~?ロクな女がいねぇぞぉ~?」
恰幅のいい男が一人、大きな声で入店してきた。すぐさま女性店員が対応に向かったが、数秒と持たず横になぎ倒されてしまう。
「ここなら少しはマシな顔したやつがいると思ったんだがなぁ。」
下卑た笑みで周りを見渡す。ものを見繕うかのようにじっくりと。
店内を歩き回る。商品にぶつかってモノが落ちることなど一ミリも気にせず、女性の物色を続けている。
まだ視界からは遠いものの、嫌な緊張感が流れる。
周りからの目もまるで気にしない。どんな環境下であれば、こんな奴が育つのか。
男の視界に映った。
にやけた顔が、遠い視界の中でもはっきりと見える。
それから周りには目もくれず、その重い足を確実に前へと進めてくる。視線の先は二人の女性。メイラとメクだ。もしかしたらミウも女性に見えているかもしれない。
さすがにヤバい奴すぎると判断し、前へと出ようとする。
しかし、男の視界には別の存在が映っていた。
恐怖ゆえに店の外へ、そそくさと移動する女性の姿だ。
「・・・斬れ。」
ザンッ・・・!!
いつの間にか入店していた一人の人に、女性は切り捨てられた。この場では、生死は不明。
緊張感が何倍にも膨れ上がる。
ただのヤバい奴ではない。さらに証拠として、次々と同じ姿をした人が入店してきていた。
「ねぇ~。君可愛いねぇ。特別に僕の妻にしてあげるよぉ。」
「やだ。」
肝が据わっているのか、メイラは即答する。気づいたら、メイラは喋りが苦手なメクの前に立ちふさがっていた。
「・・・・。まぁ、いいや。せっかくここまで来たんだし、なんか収穫がないとねぇ・・・。気が強い女は嫌いだけど、背に腹は代えられないかぁ・・・。」
手が延びる。メイラの頭を目がけて、鷲掴みする勢いで手を延ばしてきた。
我慢ができない。
メイラはその拳を握りしめ、反撃の準備にかかる。幸い、後から入って来た人らは反撃の準備には気づいていない様子だ。
髪に手が振れる寸前。
メイラが拳を振りかぶった。狙うは顔面。紐をちぎるほどの力で殴れば、一般人の顔程度であればどうとでもなるだろう。
パンッ・・・!
メイラの手が止まる。当たるすんでで受け止められた。
受け止めた相手は、アメルだ。
驚愕した顔に向けて視線を送る。
何が起こっているのかわからない男は、それでも止まる気配はない。
アメルは男をにらみつけ、思いきりその拳を振るった。
ガアアアアアアァァン・・・!!
男は店の壁に激突し、商品をなぎ倒した。
「がぁ!!?僕が誰か知っての狼藉かぁ!!!と、捕えろぉ!!!この男を捕えろおおおぉォ!!!」
十数人に取り押さえられる。抵抗する間もなく、店の外へ連行された。
男は痛みに顔を抑えながら、従者であろう一人に肩を支えられ外へ出る。
ミウが飛び出そうとするも、ハークンとメクに止められる。メイラはその驚愕の顔が変わらないまま、静かに行く末を見ていた。




