二・五章一話 「変わりゆく環境」
目を開けるとそこには、一人の少女がいた。頭に二本の小さな角が生えた女の子。黒にほんの少しピンクが混ざったツートンカラーの髪色。
シングルベッドで二人きり。簡単に触れ合うことのできる距離感で彼女は、甘い吐息を投げかける。
「おはよう。汗すごいけど、どうしたのかな。・・・・もしかして。変なこと、想像してる?」
状況の判断が間に合わず、次第に鼓動が高まる。その場所には、丸っこくてかわいいスライムがいたはずだ。かわいいことに変わりはないが、あまりにも状況が変わりすぎている。
「いいよ。私のこと、好きにして。」
少女の優しく包み込むような笑みに、気をとられる。前しか見えない。後ろや、さらに前のことなど、今の俺にとっては見えやしない。
手がのびる。この状況に、湧きあがる欲望に、もう我慢ができない。
本人が好きにしてと言っているのだ。何の抵抗があるというのだ。
言葉の通り、好きなように。本能の赴くままに・・・。
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「いや~。とんでもねー性癖もってますね。まさかここまでSだとは・・・。」
「いいからなんで家に上がり込んでんの。不法侵入だぞ不法侵入!」
とりあえず部屋にあった椅子に紐で縛り付け、侵入者を確保した。
案外大人しく捕まってくれたが、一体何の意図を持って侵入してきたのだろうか。歳的には近そうなので、興味本位か。さすがにいくら俺らでも、見ず知らずの家に不法侵入はしないと思うけどな。・・・たぶん。
「なんもかんもないですよ。あなた様に忠誠を誓うために、この体を張った所存です。」
俺が知らないだけで、冒険者という業界には色仕掛けによる潰しが横行しているのか?だとしても不法侵入なんて犯罪を犯してまで行動に移すのは、デメリットの方が大きい気がする。
「回し者とかではありません。あなた様のことが、心の底から好きになってしまったのです。きっと運命とは、このことを指すのでしょう。」
もし本当にただのイタズラだとしたら、ウチを選んだのは無作為か。その場合、まずは何をしたらいいんだ?騎士に直接引き渡すのもいいが、それだと本人が嫌がるかもしれない。特に物がとられているわけでもないし、親御さんについて聞き出すか。
「聞いてる?」
しびれを切らした少女が思考を断ち切る。
「おぉ。悪い。じゃあ・・・なんで家に上がり込んできたの?」
正直に話すとは思わないが、ヤバい奴かどうかは判定できるはずだ。とんでもないこと言い始めたら、騎士に直接引き渡す。
「なんとなく。」
「よし。イタズラだな。」
俺が考えている間に何やらごちゃごちゃ言っていたようだが、たぶん嘘だろう。
「次嘘ついたら、女の子の命である髪の毛を静電気で逆立ちさせるぞ。」
「ムゴい。」
頭上十数センチに手のひらをかざし、いつでも小さな雷魔法を放つ準備を整える。あの一件から進歩がないわけではない。魔法の制御が少しだけうまくなったので、静電気くらいなんとかなる・・・はず。
「で、どうやって入って来たの?」
少女は無言でちらと横を見る。話しにくくて視線を逸らしたわけではない。そこに答えがあるのだ。
ここにいない時点でなんとなくわかっていたことだが、一応聞いてみただけだ。最初の時に周りを見渡しても、扉や窓が壊された形跡もなかった。
つまり、ミウが入れたのだろう。無断は困るが、ミウが上げたのであれば悪い人ではないと確信が持てる。だからこそ・・・
別人がいたことに驚いた。
スライムのような青く透き通った体はしているが、形がまるで違う。人の子どものような形をしている。何やらもじもじと恥ずかしがる見ず知らずの子どもが、そこに立っていた。
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「まさか3Pをご所望だったとは。」
「やかましいわ!!まさか複数犯だとは思わなかったよ!なんだ。鍵開け師か!?その歳で?すごいね!!」
もう一人も椅子に縛りつけた。まさか悪戯っ子を郵送する手間が倍になるとは思わなかった。もう騎士に引き渡そうかな。
「ボクだよ!!ミウだよ!!」
聞きなれたかわいらしい声が聞こえた。先ほど縛り上げた青い子どもからだ。
「え?」
あの丸くてかわいいスライムが、かわいらしい子どもの姿に変わったと言うのか。かわいいには変わりないが、ベクトルが違う。一緒か。
「色々いじくってたらなっちゃった。」
「えぇ・・・。」
生き物としての構造を変化させたのに、色々いじくってたらで済ませないで。ただ、そうなると気になることが。
「・・・なんでもじもじしてたの。」
「結構攻めた服を買って初めて着て見せるときって、恥ずかしいもんだよ。それと一緒。」
「一緒か?」
例えるなら、俺がいきなり犬になって四足歩行になるようなもんだと思うけど。恥ずかしさよりもガチ焦りする。
「女の子だもん。恥ずかしくなっちゃうよ。」
「そうなのか?・・・似合ってるよ。」
「男だよ!!」
たまに間違われるが、ミウは男の子だ。スライムに性別があるかと言われれば疑問だが、性の自認がそうだから男なのだ。
「・・・まぁ、この子がミウってのはなんとなくわかった。だけど!まだ話は終わってない。」
こんなにもドタバタしているのは、不法侵入してきた少女がいるからだ。結局ミウが家にあげたのはわかったので、対処に移る。
「家はどこにあんの?場所が遠いなら送ってくから。もし言えないなら騎士に直接」
「帰る場所はない。」
「・・・・。」
あっけらかんとした態度に、思わず言葉が出なくなった。身寄りがないのだとしたら話が変わってくる。孤児院か何かに所属しているのだとしたら、逆に探しやすくなるのか。
縛られたままの少女は、そのまま話を続ける。
「私は"メイラ"。見ての通り魔人族で、戦闘なら十分役に立てる。だから」
嬉しさではない。外見による不安ではない。真っ先に来たのは不気味さだ。この話し方だと、冒険者として活動している事実を知っていることになる。D級は、お世辞にも有名とは言えないはずだ。
「私を、仲間に入れて。」
身元が割れている。
一体、何の理由を持ってダークホースなのか。つけられていたとしたら、トウガやサリートあたりが気付きそうなものだが。
始めからミウの友達という線もなくはないが、おそらく違う。誰かに勧められるような綺麗な活動をしているわけでもない。
部屋まで割れている。特別冒険者が多い宿というわけでもない。完全に狙い撃ちだ。
冒険者なら誰でもよかった?その可能性もゼロではない。
どちらにしろ、警戒すべきだ。
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戸が叩かれる。
「フューザック・レイペンド様。第二騎士団の"ガンレット"です。」
「どうぞ。」
整頓された机で仕事に取り掛かっていた男、レイペンドが応えると、その戸は開かれた。紺を基調とした制服で身を纏う黒髪の青年、ガンレットが姿を現す。
「今回、我々第二騎士団が担当した調査について、報告をしに参りました。」
作業する手を止め、一つの資料に目を落とす。
「確か、魔の禍を呼び起こすとされる"魔禍の神"について、だったか。」
魔禍の神降臨の時、生み出された全てのものが無に帰す。
この言葉だけが世に広まり、あることないこと囁かれている。神なんて大層な名を付けられるほど真実かどうかも疑問なこの文章なのだが、レイペンドはこの文章について調査を命じていた。
「邪縁の森で突如起こった魔力の奔流。研究員から入手した情報によると、魔禍の神についての手掛かりは一切掴めませんでした。」
「・・・そうか。」
もし上記の内容が本物なのであれば、この程度で済むはずがない。嘘の可能性を視野に入れたのだが、今回は徒労に終わったようだ。
「しかし一つ。不確定ではありますが、気になる情報が。」
そう言うと、懐から一枚の写真を取り出す。
「ここ最近、冒険者として登録した人物。名を"アメル"。彼がこの一件に携わっていたことが判明しました。」
「・・・ほう。」
聞き覚えのある名前に表情を締め、話の続きを聞く。
「彼は登録から一か月。時期は都市襲撃の翌日に、チーム名黒馬としての登録を完了しています。彼を代表とし、その他構成員としてトウガ、サリート、ミウの三名。事件との詳しい関わりは不明です。」
「トウガ、サリート・・・。」
聞き覚えのある名前であった謎が解けた。都市襲撃での最中、進化の石が保管してあった地下にて姿を見た少年二人の名前が、トウガとサリート。機密であるはずの進化の石の保管場所を知っている団体は、それだけで不安材料となるため、独自で調べてはいた。
そして、その団体の代表がアメル。その時点で名は覚えていた。
濃いメンツの中で一人だけ一般人であり、逆に異質な存在ではあったが、ここに来てその名前が出ると話は変わってくる。
「では今後は冒険者、黒馬について調査を進めてくれ。」
「了解しました。」
報告の内容も終わり指示を受けたため、部屋から退出しようとするガンレット。
「期日は気にしなくてもいい。そもそも、騎士とは民の平穏な暮らしを守るのが仕事だからね。どんなに小さな声だとしても、調査なんかよりそちらを優先して欲しい。頼んだよ。」
「はい。失礼します。」
戸が閉まる。
一人残った部屋で、彼は不吉な予感を感じ取っていた。
あああああああああやらかしたあああああ
二章十六話「反撃の狼煙」にて、フューザック・レイペンドの名前をフューザック・エイペンドと書き間違えました。訂正しましたので許してください。




