幕間2-3 「別行動」
普段通りの街中、普段通りの道を行く。トウガは一振りの剣を携え、特に寄り道する気配がないまま目的地へ向けて歩を進める。
途中で方向を変え、細い道へと進路を変えた。寄り道をする気が起きたのではなく、ここが近道なのだ。できる限りの最短距離で進む。
細い裏道では、人通りが少ないと言えど人がいないわけではない。何人かと、なんともなくただすれ違う。
すれ違う人をちらと見てみるだけでも個性がある。よく見る動物の耳や毛が生えている人種や、コンセプトがわからないほど派手な服装を着ている者。もはや目立った点のない人ですら、それが個性と言えてしまうのかもしれない。
笠をかぶる男とすれ違う。彼も腰に剣を携えており、よく見ると立ち姿に芯がある。
薄暗い環境下であるため、顔までは見えない。
他と変わらずすれ違い、そのまま距離を離し・・・
きる前に、首筋に剣を突き立てた。
「お前、どこのもんだ。」
命を握られているにもかかわらず、抵抗はない。それどころか笑みを感じさせる。
「生ぬるい環境でも、腕は落ちちゃいねぇようだなァ。血時雨の狂剣・・・!!」
質問に答えろという怒りはあるものの、下手に大事にされては面倒。この場は最低限の関わり合いで事を収める。
「何の用だ。」
「そんな警戒しなくとも、事を荒立てるつもりはねぇよォ。こいつを渡しに来ただけだ。」
服から取り出した一切れの紙。内容が見える角度に調整し、一通り目を通した。
内容を見たのを確認した男は、その紙を丸めて口へ放り込む。そのまま間髪入れず飲み込んだ。
「それじゃあ、伝えたからなァ。」
言葉の通り、情報を渡すだけ渡して去っていった。奴がただの言伝人だとすれば、わざわざ追いかけて何かを問いただしても時間の無駄に終わりそうだ。
目的地に意識を戻し、重い足取りを進めた。
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たどり着いた場所はとある一つの宿。言ってしまえば、アメルが住んでいる宿だ。特に意味もなく来たのだが、期せずして、会う理由を作らされてしまった。
考え事をしていると、宿の入り口に見慣れた人が。
壁に寄り掛かっているその人物は、サリートだ。
アメルの部屋があるのに、受付前を待ち合わせ場所に指定する意味はない。つまりここにいる理由としては、そういうことだ。
「行くのか。」
「行かないなら行かないで面倒だろ。どうせ長くても一か月で済む。・・・・アメルとミウにもまとめて話すつもりだが・・・。まぁ、とりあえず長旅の準備はさせた方がいいかもな。」
「・・・それなんだがな。・・・トウガ、」
歯切れが悪そうに提案をしだす。
始めは困惑したが、俺は。
あいつらを。
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「ミウ。そうだ。もっと慎重に。動物の赤ちゃんを触るより慎重に。危険爆発物を運ぶくらい慎重に・・・!」
「お・・・おー・・・!」
今現在、ミウの頭の上には小さな虫がいる。触角を生やして黒光りしている、あの虫。マジでどこでも住めるんじゃないかと思えるあの虫。
「おわ!?」
「落とすなよ!!?絶対に落とすなよ!!?これで見失ったらもう最後、安息の地は二度と手に入らなくなる!!」
ゴキブリだ。正確にはゴキブリの形をしたなにからしいが、見た目は一緒なのでどうでもいい。
作戦としては、全開放した窓から外へ逃がす。たまたまミウの頭に乗っかって来たため、ゆっくり窓まで動いてもらい、外へポイ捨てする。完璧だ。
ミウは別に嫌ではないらしいが、俺が無理だ。現代っ子には虫が効果抜群。そんなの常識。
もうすぐ行ける。窓から漏れる景色を背景として、昼とは対照的な黒色の体が目立っている。さながら一つの芸術のようだが、こんな芸術であれば二度とごめんだ。題名は「地獄の使者」。
「よし、行けええええええぇぇぇッ!!!!」
さながら競馬のようだ。
ガチャ・・・
部屋の扉が開く。
「アメル、ミウ。ちょっと話が・・・」
トウガの顔に、なにかががべちゃっと飛んできた。
「なにやっ・・・!」
いつものイタズラだと考え、癖でツッコミの準備に入る。一瞬にして顔の汚れをぬぐい、にやけ面で立っているであろう二人を見て・・・。
「てんだろう・・・。」
変な光景が広がっていた。
黒光りした虫が、気持ち悪い物体をまき散らしながら部屋を飛び回っていた。アメルとミウが必死になって追い出そうとするが、飛び回ることによって逆効果。
やっと窓から飛び立ったころには、凄惨なものとなっていた。
一番焦り散らかしていたアメルを見ると、
「どんな顔だそれ。」
言葉では言い表せない顔をしていた。
一刻も早く終わらせるため、みんなで部屋を掃除することに決めた。いつまで経っても一名、顔が晴れない。
「人生が終わったかのような顔だが。大丈夫か?」
「・・・まさかゴキブリが、自分の体積以上のうんこをまき散らす超危険生物に進化しているとは・・・。」
クスニク達に追い詰められた時よりも酷い顔してる。
「うんこって決めつけてるが、うんこじゃないかもしれないぞ?」
「・・・うんこってことにしといてくれ。」
これ以上の最悪は避けたかったらしい。
まだ掃除の最中だが、話を進めることにする。
「アメル、ミウ。話があるんだが。」
「うんこの話?」
「うんこの話じゃねぇよ。」
ミウが噴き出す。うんこって単語が大好きなお年頃なのかもしれない。
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ある程度掃除が終わり、各々リラックスする座り方でくつろぐ。
「なるほどな。昔付き合いがあったやつから依頼か・・・。」
ところどころ軽く流している部分はあるが、嘘はついていない。そしてここからが
「あぁ・・・。それでな。」
嘘をつく場面。
「部外者は連れてくんなって言われてんだ。だから・・・・。今回の件、俺とサリートの二人で行こうと思ってる。」
話し合って決めた結果だ。二人をここに置いて行くことにする。一か月の間だが、冒険者のパーティを組んで未だ日は浅い。ひんしゅくを買うかもしれない。それでも、
「・・・・わかった。」
あっさりと肯定してくれた。ひと悶着あると予想していたが。
「色々気になるところはあるし、心配とかもろもろあるけど。・・・・・お前らなら大丈夫!」
まさか嘘がバレているのか。不信感を与えたのではないか。と脳をよぎったが、すぐに霧散した。
言葉の通りだ。信じられている。
「お土産、期待してるからな!」
「・・・・あぁ!」
絶対帰ってこい。これがリーダー命令だ。ならばパーティの構成員として、意向に従うまで。
「まだすぐ出発ってわけじゃないだろ?準備だってあるだろうし。」
「これからは長旅だからな。移動を除けば、数日間の猶予は与えられている。」
サリートが返答している。詳しく話したわけではないのに知っているということは、明確に二人に向けて届けたもの。
もしかしたら、あの嘘もあながち間違いではないかもしれない。
「じゃあ、ボウリングでも行くか!!」
休日くらいは、好きなように遊ぼう。




