おまけ two-five 「魔法ってつけとけばなんでもありだと思ってます」
街の中心地から少し離れた場所。一般的に工房通りと言われる場所では、いつも通り機械音が鳴り響いていた。
その中でも一際目立つ・・・わけではないが、普遍的な一つの工房がある。建物には"魔道具"の文字が書いてある看板が掛けられていた。
煤にまみれた一人の女性が、その場で胡坐をかき作業に没頭している。するとふと何かに気づいたようで、作業から一旦手を離した。
「そういやぁ。今日の依頼は・・・。」
思案にふけっている頃だった。工房の前に馬車が一台停車する。鼻息が異常に荒く、体のそこかしこに傷を負った一頭の黒い馬が、その馬車をよりいっそう強く見せている。
ドサァ・・・・!
馬車の中から数人がはじき出され、地に押し倒された。入口にはグラサンをかけて筋肉の盛り上がった男が一人。
「次ケーキの上に乗ってるいちごだけ先食ったら、こんなんじゃ済まねぇぞ!!」
停めていた馬車を発進させる。工房の前に人を放置し、誰も知らぬどこかへと去ってしまった。
「だって・・・。食べにくいじゃんかよ。」
その声でまだ生きていることを確信し、訳が分からない状況を確認しに行く。そこにはボコボコにされた人が3人とスライム一匹がぶっ倒れていた。
「大丈夫かい・・・あんたら。」
呼びかけに気づいた一人が、見下ろしているこちらを見るとともに看板が目に入ったようで、一枚の紙きれを取り出す。
「本日の依頼・・・・お願いします。」
正式な依頼券がその手に握られている。今まで様々な客と相対したが、満身創痍でぶっ倒れながらモノを頼まれたのはこれが初めてだ。
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アメルたちは今、魔道具専門の工房に来ている。それぞれの家で壊れかけだった家具を、まとめて修理してもらおうと訪れていた。担当してくださるのはマリメントさん。
「ふむ。冷暖房に防犯グッズ、それと照明だな。すぐに終わる。」
「お願いします。」
家具を受け取ると定位置について作業を行う。
何年もこの仕事で研鑽を積んできたのだろう。傍から見たら凄技な動きを迷うことなく連発していく。一つ一つ、1秒の動きでも意味がありそう。
「おー・・・。」
ミウなりに邪魔にならなそうな位置で、マリメントさんの技術に感嘆の声を漏らす。しかし魅力に取りつかれた心理的状況では、正確な距離感が分からなくなるもの。徐々に体が近づいていた。
「坊主、危ないぞ。・・・興味あるか?」
そう言うとミウに専用の作業服を着せてくれ、より近くで見れる態勢を整えてくれた。
「おー・・・!」
スライムには目がないので適しているかは疑問だが、目をキラキラさせているかのようだ。
「いやホントご迷惑おかけしてすみません。」
「気にするな。ちょうど在庫があったんでな。」
ミウ一人ここに残しておくこともできないため、三人は各々床に座ったり壁に寄り掛かったりと、自由に過ごしていた。
「・・・お前ら、なんであんなことになってたんだ?」
作業に余裕がでてきたのか、先ほどの状況の説明を求められた。
「100人単位の抗争に巻き込まれまして。祭りの延長線のようなもんですよ。」
「怖・・・。この街の出来事かそれ。」
ケーキには生クリーム派とチョコクリーム派がいて、派生派閥としてイチゴクリーム等。みんなに共通する点としてケーキに一番合う果物ってイチゴだよねって話を進めようとしたら暴動が起きるし、開き直って全部のクリームを塗りたくって平和的解決を図ろうとしたら、先に上に乗ってるイチゴを食ったことがバレてボコされるし。散々だわ二度と行くかあんなとこ。
「む・・・。お前ら、悪いが今日は帰ってくれ。」
急に手を止めたと思いきや、突然の終わりを告げられた。理由を尋ねてみると、
「とある部品の在庫が切れていたのを失念してな。買い足しと準備とで、今日中に終わるめどが立たなくなった。」
椅子から立ち上がり、買い足しに出かける準備を始める。
「だからお前ら、今日は・・・・」
~♪~♪~♪~♪
ドレミファドレミファ♪ファッファドレミファ♪
だ~れにも~内緒で~おーでーかーけーなーのよッ♪
ど~こに行こうかなッ♪
OK!! you got it !!!
「なんだなんだ!?なんで横並びしてんだ!?」
こちらは全員、出発する準備は整っている。
「競争。」
「いや、4つも買うもんないから。」
くだらないと切り捨てる直前、視線を感じた。下から、スライムのキラキラした目線が、直接脳に突き刺さるように感じている。
「・・・じゃあ、これね。」
ミウにメモ書きされた紙切れを渡す。しかし未だ、ミウの目のキラキラは収まらない。
「・・・金髪の少年、エナジードリンク。緑の少年、弁当。マフラーの少年、トイレットペーパー。」
指さしで次々とお題を与えていく。全員にお題が行き渡ると、ついにミウの意識がスタートラインの先を向いた。
「よし。よーい・・・・・ドン!!」
あっという間に静寂が訪れる。マリメントは作業をして待つことにした。
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十分後。
ふと時計を見ると十分しか経っておらず、待たされた時の時間の流れの遅さを実感していた。
先ほどミウが脱いで行った作業服を眺める。
「まさか、また使う時が来るとはな。」
スライム専用に仕立て上げたこの服は、長い間倉庫に眠っていたもの。処分できずに放置していたものである。
感傷に浸り、何とはなしに外を見た。
平和な夏日。自分と同じような工房が立ち並ぶ道であるので常に音が鳴り響いているのだが、それが今は心地いい。
次の瞬間、何もない道に砂煙が舞った。
猛スピードで視界の中心に現れた金髪の少年が、その手にエナジードリンクを握りしめてこちらへ方向転換する。
次の一瞬で視界の端に弁当を持った緑の少年が現れ、前へ躍り出ようとするが、あと一歩及ばない。
背後にいることを察知した金髪の少年は、後ろ蹴りで差を離そうとするが逆効果。すんでで避けられ、胴を掴まれ、地面に向けて思いきりバックドロップ。一気に一位へ。
視界後方にある工房の屋根から、トイレットペーパーを持ったマフラーの少年が飛び込み最前へ。しかし勢いが足りず、このままでは失速して追い抜かれてしまう。そこでちょうど後方にいた緑の少年の頭をふんずけ、スピードを取り戻した。
頭を使われた緑の少年は背中から地に倒れ、向かいの工房一歩手前まで押し飛ばされた。
これで一人勝ち。と思われたその時、マフラーの少年と並走して飛ぶ物体が二つ。遠くから投げ飛ばされたエナジードリンクと弁当だ。モノが届けば勝利。最期の一手に賭けた。
三人のデッドヒート。このまま誰がゴールするのか。そこで前方を確認する。
看板が目の前にあった。
勢いをつけすぎたのだ。このままでは激突する。当然、共に並走しているモノ二つも。一巻の終わりだ。
マフラーの少年は看板へ激突した。
そしてモノは。
上空から降りて来たスライムが三つのモノを回収し、そのゴールテープを切る。
マリメントの前にモノを置き、高らかに勝利宣言したことで、この戦いは幕を閉じた。
「・・・・。」
展開が速く、気づけば不思議な光景が広がっていた。
一人が地に突き刺さって下半身だけが飛び出ている。一人が登場時のようにボロボロ状態でぶっ倒れている。一人が上の看板に突き刺さったようで、視界の上部から下半身がうなだれている。
目の前のスライムは、エナジードリンクと弁当とトイレットペーパーを手前に出して勝ち誇った様子だ。しかし・・・
「・・・頼んだ部品は?」
「どこにあるかわからなかった!!」
「一番大事なの買えてねぇじゃねぇか!!!」
立ち上がったトウガが突き刺さったアメルを引っこ抜き、突き刺さったサリートは自力で這い出る。
「競争なんてしだしちゃったからだな。今度は一緒に行くか。」
「お前らマジでタフだな。」
今回の反省を生かして、次は仲良く横並びで出かける。
「・・・騒がしい奴らだ。」
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十分後。
懐かしい写真立てを見つけた。ここに飾ってあった写真は燃え尽きてしまったが、せめてガワだけでも残しておきたい。
感傷に浸り、何とはなしに外を見た。
そこには、不思議な光景が広がっていた。
一人が地に突き刺さって下半身だけが飛び出ている。一人が登場時のようにボロボロ状態でぶっ倒れている。一人が上の看板に突き刺さったようで、視界の上部から下半身がうなだれている。
「なんで!?」
ただ一つ違う点として、スライムが置いたモノは新しく購入したエナジードリンクと弁当とトイレットペーパーだけでなく、目当ての部品もあったことだ。
「ちゃんと買えたよ!!」
「合ってるけど・・・。もうその3ついらないし。競争辞めたんじゃなかったのか?」
全く同じ状況だったので、柄にもなく時間逆行なんて変なことを考えてしまった。
「ちょっと遊んでただけですよ!」
上半身が埋められた足だけ人間が話しかけてきた。
「どうやって喋ってんだあんた。」
遊びでこうなる関係性では、命がいくつあっても足りない。
そして、立ち上がったトウガが突き刺さったアメルを引っこ抜き、突き刺さったサリートは自力で這い出た。
「まぁ、結果として約30分しか経ってないな。足早に購入を済ませてくれたのは良いが、結局完成は後日だぞ。」
「え。」
「そりゃそうだ。こちらにも手順があるからな。」
どうせなら早めに終わらせてもらおう作戦が失敗した。
「・・・・帰るか。」
暑い日の光が差しこむ中、ボロボロの3人の背中が少し痛々しく見えた。
~♪
しょげないでよBaby
眠ればなおる
ママのわがままは心配するなよ
しょげないでよBaby
さんぽへ出よう
おみやげの花束探してお家に帰ろう
「・・・・緑の少年。」
帰り途中の内一人を呼び止める。
「お前、ケッテツのとこにいる少年だろう。」
「・・・知ってんのか?」
からくり技師ケッテツ。先日の事件で重傷を負った、影の功労者の名だ。
「もう随分会ってないがな。魔道具の良さを知ろうともしない、あんな頑固親父。」
「頑固か、そりゃ言えてる。」
魔法には頼らんと言い続け、手を出す者が少ない機械のみの技術に傾倒する偏屈な人だ。
「俺にとっちゃ、機械も魔道具も大差ないけどな。」
「何を言う。大ありだ。この機会にでも教えておいてやろう、いいか?機械と魔道具の一番の違いが、魔力の率だ。与えられた役目を全うする原動力として魔法を、魔力を用いる率が5%未満となるのが機械、それ以上が魔道具。魔道具を用いる利点として最も見られるのが圧倒的安価であるということ。また」
「もういいもういい!!十分伝わったよ!!」
長くなりそうな話を強制的に断ち切る。
「・・・・。」
「・・・・そういやぁ、そっちにもスライムがいただろ。ジジイから聞いた。」
「・・・あぁ。妙に懐かれてな。」
トウガが、ポケットから一枚の紙を取り出す。
「!?」
「今、ジジイは遠い病院にいんだよ。それで巡り巡って俺に来た。復元したんだと。」
それは作業中、近くで見たがっていたスライムに作業服を着せて近くで見せていた場面を写した写真であった。写真立てに入っていた、一枚の写真。
「・・・・あの子のこと、大切にしろよ。」
「おう。」
いつか失くした、大切な宝物。もう二度と失くさないように。
おまけ two-six の更新は未定です。




