おまけ two-two 「屋台で買うのは味じゃなくて雰囲気 前編」
「安いですよー。いかがですかー。」
気だるげな呼び込みが、大勢いる人の波に飲まれていく。月が昇る街は現在、ちょっとした景気づけのイベントを開催中。一夜だけ復興の手を止め、飯と酒に溺れる特別なイベント。もちろん未成年や酒嫌いでも楽しめるように、有志が娯楽を用意してくれている。
劇場はより一層賑わい、賭場は光を強くする。一夜だけだからと言い訳をし、痛んだ心に薬を垂らす。そんな祭りが開催中。
先が見えぬほど立ち並ぶ屋台の内の一つ。テンションの低い場所があった。
「うまいよーうまいよー。」
棒読みの客寄せは当然効果を発揮しておらず、しかし良い雰囲気に当てられて気分が高揚した者は、食べ物の匂いに誘われ買っていく。繁盛しないけどちょくちょく来るくらいの、丁度いい塩梅で。
「焼きそばー焼きそばー。おいしいよー。」
トウガは鉄板の上にある麺にタレをかき混ぜる。
「はぁ・・・。なんでこんな日に俺らは屋台なんかやってんの?」
「しょうがない。あんな恐ろしい顔されたら断れないからな。むしろこんなんで許してもらえるんだから安いもんだ。」
今でも女医の顔が脳をよぎる。あんなに威圧を隠した笑みは、そうそうお目にかかれない。病院で騒いだ俺らが悪いけど。
「ってか、アメルのやつはどこ行ったんだ。トイレか?」
「すぐそこにいるぞ。」
ちらと隣を見てみると、こことは違う列ができている。そしてそこには、
「夏で蒸して暑い時期!ひんやりかわいいスライムちゃんを抱きしめてみませんか!?値段はたったの100!!試してみませんか!?」
元気に呼び込むアメルの姿と、台に置かれたミウの姿があった。
「変な商売してんじゃねぇ!!」
焼きそば屋台が二人でも回るからいいものを。逆になんで列ができているのかわからない。確かに喋るスライムは珍しいが、そこまで来るか?
よく見ると、台の上に看板のようなものが。
「抱きしめた時、スライムのミウちゃんが小さく魔法を撃ちあげたら、あなたは選ばれし10%!!さらにそこから1%でちっちゃな花火!!さらにさらに1%でシークレット魔法が!?見事に引き当てた方には、豪華景品をプレゼントいたします!!」
こいつおみくじやってる。
「わー!かわいいー!」
女の子がミウを抱きしめる。すると上空に、ピリッと小さな電気が走った。
「おめでとう!!はいこちら飴ちゃん。」
「やたー!!」
飴を受け取った子どもは、それでもミウを離そうとしない。不思議に思うと、看板の文字にまだ続きがあることに気づいた。
抱きしめた方には、ミウちゃんより神託が下されるでしょう。
「明日は新しい友達ができるよ!!」
「ありがとう!!」
その言葉を聞くと、やっと台に戻して去っていった。
「なんでちょっと宗教チックなんだよ。」
お次に現れたのはカップル関係であろう男女二人。料金を払った後、女性がミウを抱き上げてみる。
パンッ・・・!
「わ!花火!」
「おめでとうございます!!ではこちら駄菓子詰め合わせセットです。」
多分あの駄菓子詰め合わせセット、料金分もないぞ。
それでもご満悦のお二人。まぁ、10%のさらに1%を引き当てれば、景品がどうであれ嬉しいものか。それだけ低確率なら、神託とやらもさぞ良いことであろう。
「千年の恋も冷めるでしょう!!」
「え・・・。」
良いこと言えや!!一番言ったらダメなやつに言っちゃったじゃねぇか!もっと事前の打ち合わせ入念にしとけ!!
「ありがとうございました!!またのお越しを!!」
ゴリ押せねぇぞ?おみくじにまたのお越しをとかないからな?
なんやかんや言いつつ焼きそばより人来てる。雑だから当然っちゃ当然。
「あ、あのすいません。焼きそば一つよろしいですか?」
「すいません少しよそ見を・・・お?」
変な商売に見入っていると客が一人。慌てて対応しようとすると、なんだか見覚えのある顔が。
「メクじゃねぇか!よく俺らに気づいたな。」
「は、はい。たまたま目につきまして・・・。」
髪で顔の上半分が隠れている女性。今回の件で共に戦ってくれた者の一人だ。ハークンは未だ入院中だが、メクはすでに退院している。
「お、お恥ずかしながら、私も自分の屋台を持っているんですよ。場所も近くて。」
「そうなのか!?暇な時間がありゃ見に行けたんだが・・・。」
ヘマやらかしてお仕事中。これから一日中焼きそば作らされそうな勢い。
「ワンマンでは厳しいな。二人交代ならば行けるだろう。」
「あ・・・サリートさん。」
少し気まずそうに名前を呼んでいる。言われた本人は分かっていなさそうだが、なにかあったのか。
二人交代であれば、少なくとも変な商売はやめさせなきゃいけない。その上で、
「待ちな・・・!!」
後ろから声が聞こえた。振り向いてみるとそこには、
「おめぇらは頑張ってくれた。後はこっちに任せろィ!!」
手足の生えた鮭の切り身が、こちらに親指を立てていた。誰だアイツ・・・。
「みんなで屋台。周りてぇんだろ?」
「そりゃそうだが・・・。いいのか?」
「こんな俺にも頼れる仲間ってもんがいるからよ!!・・・おめぇはおめぇのダチ連れて、行きな。」
こんなにも、鮭の切り身がかっこよく見えたことなどあっただろうか。いや、ない。
「助かる・・・!」
「いいってことよ。」
変な商売やってる二人を引っ張る。そのまま俺らは夜の街へ繰り出した。屋台を任せきりはあれなので、ある程度時間が経ったら戻ろう。それまでの間は、楽しめばいい。
もう祭りは楽しめないと思っていたから嬉しい誤算だ。鮭の切り身には感謝してもしきれない。誰かは知らんけど。
・・・・
よく考えたらあいつも怒られたうちの一人じゃね。逆に今までどこ行ってたんだよ。
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たどり着いた先は同じような屋台。しかし周りも含めて食べ物ではなく、雑貨等を売る場所のようだ。
「お、お疲れ様です。」
メクはある一つの屋台に挨拶をした。多分ここが、先ほど言っていた場所だろう。何やら本を売っている。アメルは表紙を見ながら聞いた。
「何売ってるの?これ」
「BL本です!」
「Oh。。。」
知らない世界が現れた。表紙の絵柄を見るとなんとなくわかる感じがする。種類は漫画から小説まで様々だ。
「本だー!」
ミウが台に飛び乗ってどの本を読もうか選んでいる。最近、漫画を読むのにハマっているので、こうなることは予想できた。
「ちょっと待て!!」
だからこそ読み始める前に止める。気になることがある。
「メク。・・・ここに18禁シーンが映る漫画はあるか・・・・」
「え、えと。大丈夫だと思います。」
「よし、GO!!」
「わーい!」
見た目からは何歳かわからないけれど、多分見せちゃいけない。そもそも恋愛系のジャンルが合うかはわからないが、経験だ。
「・・・屋台に本って、売れるもんなのか?」
トウガが純粋に疑問を抱いた。普段から屋台は食べ物かミニゲームしか見てこなかったので、事情は一切わからない。
「い、意外と・・・?」
「こりゃどっちの反応だ?」
意外がどっちの意味かすら分からず、さらに疑問符があることからその意外すら反転している可能性もある。つまりわからない。
「・・・・」
さっきからメクの態度が気になる。サリートを見るたび、いそいそと目線を外すのだ。
「・・・なんかあったのか?」
「いや、知らん。」
本人もわかっていないということは、喧嘩ではないようだ。
「ご、ごめんなさい!これは私の問題なんです!!あの・・・なんと言いますか・・・。」
申し訳なさそう感がある。何か気分を損ねることをしたのかと考えたが、本人がわかってない時点で違いそう。
メクは助けを求めるように、後ろにいる女性に向けて振り向く。一緒に屋台をしている友だちだろう。だが、その人は先ほどから信じられないと言うような顔でメクを見ていた。
「め、メクが・・・。」
「・・・?」
「メクが男連れて来た!!しかも複数!!」
「ち、違います!!勘違いです!!」
ガチ慌てのままサリートに向き直り、スピード感のある土下座を披露した。
「助けてくださいッ!!!」
「勢いすご。」




