おまけ two-one 「入院中ってテレビ見るしかやることないよね」
目覚めたころにはもう、事は終わっていた。白馬獣人のハークンは、多数の大怪我により長期の入院が決定し、今もなお安静にしている。
いつもならこの時間は、担当の方が現状を確認しに来てくれるのだが・・・
誰も来ない。
仕方ない。呼び鈴押すか。
指定の位置にあるボタンを押すと、こちらからは聞こえないが向こうには届いているらしい。
ガララララ・・・・
病室の扉が開けられ、人が入ってくる。さすがに自分の今の容体は気になるため、聞いてみよう。後、飯も遅い。
医療関係者の服を着た者に声をかける。
「すいません。定期確認の方、お願いできますか?」
遅れてます、と直接は言えない。それでも向こうには伝わるはずだ。そうして相手の顔を見てみると・・・
「あぁ、悪い悪い。・・・バナナ食ってたわ。」
白髪緑肌の、見知った顔がそこにいた。
「なんでお前がここにいんだよ!!?おいら医者呼んだよな!?真逆の阿保が来たぞどうなってんだ!!?」
バナナの皮をむいて貪り食う男は、寝てるのをいいことにこちらを見下ろしている。
「んな怒るなよ。忘れてた俺が悪いけどよ。」
「そんなこと言ってんじゃねぇよ!!お前になんか死んでも検査されたくないわ!!なんで医者の服着てんだよ!!?」
清潔な白い服を、清潔じゃない男が来ている。
「人手が足りないから手伝ってんだよ。」
「そんなことあってたまるか!!!仮に一億歩譲ってそうだとしても、バナナ食ってサボってんじゃねぇよ!!仕事しろ!!」
「バナナ健康にいいから・・・。」
「知らねぇよどうだっていいよ帰れよ!!!」
反省を行動に移すどころか、まだバナナ食ってる男から目を離して呼び鈴を強く押す。他の人に来てもらうしかない。あわよくばこいつを追い出す。
ガララララ・・・・
「お客様、今日の夜食はピスタチオかミルクレープどちらにいたしますか?」
「医者来いや!!!」
お次は白衣着た金髪がお盆を抱えて現れた。
「ただいまから夜食の準備をいたしますので、オーダーと食器の方お預かりします。」
「あんま病人に夜食進めんなバカ。あと夕飯どころか昼食も来てないんだよ。」
ベッドのそばに近寄ると、お盆に乗せているメニュー表と書かれたものを手渡してきた。開いてみると、見開きにでかでかと"ピスタチオ、ミルクレープ"の字が書かれている。
「なんでこの二択なんだよ。」
「申し訳ございません。こちら当店ではお客様の階級に応じたメニュー表となっております。」
「お前さっきから病人を客扱いしてんな!!しかも人によって露骨に対応変える最悪なやつじゃねぇか!!」
急に世界の常識が変わったかのような展開で頭がこんがらがる。なんでこいつらいるんだよ。
「あんま暴れんな。バナナ注射すんぞ。」
「バナナ注射すんな!!誰のせいで暴れてると思ってんだ帰れ!!!」
こいつさっきからずっとバナナ食ってんな。今何本目?
「はいお薬注射するので暴れないでくださいね~。」
「大丈夫!!?なぁこの流れで注射って大丈夫なの!!?スポーツドリンクとか入れてないよな!!?」
健康にいいからって何でもかんでも体に入れときゃ良いってもんじゃない。刺す位置によっては死んでしまう。
「大丈夫ですお客様。」 「お客様って言うな。」
「なんてったってこちら効果がすごいんですよ!体の中にある悪い要素を片っ端から壊してくれる!今を逃せば手に入りません!!」
「売り込まれてる?」
キラキラした目で商品紹介に移りやがった。有料なの?金とるの?
「音。気になりますよね?」
「音・・・?」
するとどこからともなく人の子どもサイズの大きさをした、手足の生えている鮭の切り身が現れた。
「気になるぅ~!!」
「誰だお前!!!?」
そしてアメルはおもむろに注射器の上の部分を捻り、緩くなった位置で手を止めた。
「・・・行きますよ?行きますよ!?」
プシュッ・・・・!!
「あぁ~~!!健康の音ぉぉ~~!!!」
「よそでやれ!!!!」
刺激物のような音を立てた容器の中身をよく見てみると、なにかある。微妙に色が違うそれは、どこか見たことある形をしていて、まるで、
「・・・ねぇ、中身スライム入ってる?」
「ミニミウです。体の中を走り回って、悪いもん全部壊します。」
表情がわからないから、どういう感情を持って薬品になっているのかわからない。小さくて声が聞こえない可能性もある。
ゴポゴポ・・・・
!・・・なんか喋ろうとしてる。
「・・・染みる・・・。」
「染みる液体使ってんの?」
ますます劇物感が増した。ピュッと飛び出た液体が鮭の切り身に当たり、悲鳴を出して悶絶する。
そういえばまだ昼食届いてないんだった。さすがにお腹すいてきたな。こんな変な奴らに構う意味ない。
さっさと呼び鈴押して本物に来てもらおう。で、絶対こいつら追い出そう。
「わざわざ呼ばなくても、近くにいるぞ。」
!?呼び鈴を押す寸前、どこからともなく声が聞こえた。周りを見渡してもバナナ食ってるバカと危ない液体で遊ぶ三バカしか見えない。
「ど、どこにいるんだよ!?」
「まだまだだな。・・・・教えてやろう。」
ベッドで仰向けに寝転がっているのに、死角なんてないはずだが。
「お前の後ろだ!!!」
「どこだよ!!!?」
そもそも後ろってどっちだよ。寝てるなら地面になるの?方向的に頭上になるの?
するとベッドの横部分が吹き飛んで、中からサリートが現れた。このベッド中に人入れたんだ。
「お前いつからいたの?」
「簡単なことだ。わずか一ミリの隙間に一瞬で入り込むことなど。」
「無理だよ。人じゃねぇよそりゃ。」
汚れの一つもつけず、表情を変えず登場する姿に、もはや当たり前が塗り替えられる錯覚さえ覚えた。
「・・・・ってかおい!!なんで!なんでさっきから白衣着たお前らが呼び鈴鳴らす度にくるんだよ!!?もはや何しに来たんだよ!!」
いつの間にか騒がしくなった部屋を見渡す。整列してみると五分の三が白衣で、五分の二が人外。お見舞いにしてはおかしい。
「待て・・・!」
鮭の切り身が深刻そうに声を上げた。何事かとそちらを見る。
「・・・足りないんじゃないのか?」
「一人多いんだよ。」
なんで友達面してここに立ち寄れるの?知らないよこんな奴。自分の顔をちぎって、僕の顔をお食べ。なんて言って渡してきた。死んでも食べたくない。
「・・・ハークン。」
サリートが無視して話を進めた。
「ここで目を覚ました時、お前は浮かない顔をしていただろう。」
「!・・・それは・・・。」
思い当たる節はある。
「まるで、大きな後悔を抱えた顔だ。」
今回の作戦において、自分ができたことなど多少の雑兵を倒したくらいだ。兎の獣人に負け、その後やつらを見つけて追いかけても、ただ殴られ続けるだけだった。
「俺らがどんな言葉をかけても、直りそうもなかったからな。」
結果的にメクに危険が及ぶかもしれなかったし、自分が人質として扱われるかもしれなかった。全部、考えなしに突っ込んだから。
「だから、俺らが看病してやろうと思ってな。」
「・・・え?」
「根気強く、お前は頑張ってくれた。と伝えれば、いつかは届くだろ?」
「・・・。」
なんだ。それじゃあ自分は・・・。気を使われたのか。
「まぁ、あわよくば元気づけようとしてたわけだが・・・。」
ごめん。その言葉が出そうになった。けれど多分、みんなは望んでない。しかしありがとうと、面と向かって言うのは、なんか嫌だ。
でも、それでも。
「あ・・・ありが・・・・と・・・う?」
こちらを向くみんなに向けて、一言いれようとした。しかし、その後ろが気になってしまった。
白衣を着た女性が、すごい形相で立っている。
「そんなこと許可した覚え、ありませんけれど・・・?」
声を聞いた一同は、顔中に冷汗を流しながら後ろを振り向いた。
「こちらの不手際で、対応が遅れてしまいました。申し訳ございません。すぐに担当の者が伺いますので。」
「あ・・・はい・・。」
こちらには人が変わったかのように謝罪し、直後五バカに暗い笑みを落とす。
「お友達を元気づけるためにお見舞いをしに来るのは、とても良いことです。しかし・・・。」
ふと気になってベッドの側面を見てみると、直っている。その後にサリートを見てみると、一際汗を流して後ろ手に工具を握りしめていた。
「ベッドの横と下。壊しましたね?」
「・・・はい。ごめんなさい。」
怒りは伝わってくるのに、顔は笑顔のまま。とても恐ろしい。
「話があるので、表、出なさい・・・?」
いそいそと慌てて来た担当の者とすれ違いに、五バカは外へ連行された。




