二章二十七話 「メサイア・パーティ」
騒動から翌日。
陽が昇る早朝の公園で、一人の子どもがそこにいた。誰かを待っているようで、自分はどうしたらいいかわからないようで・・・。
近寄る少年の姿があった。腕に包帯を巻いて応急処置をした痕跡があり、ところどころの傷が未だ癒えていないと想像できる。少年の目的は、立ち尽くす一人の子どもにある。
「・・・!!・・・兄ちゃん・・・!」
顔は晴れない。それでも知り合いが顔を見せてくれたことにより、口角がほんの少し上がった。傷は増えているが、生きていてくれた知り合い。
「え?・・・これ。あいの首飾り・・・。」
少年が片手に握りしめていたものは、本来の姿とは変形してしまっている。大幅な欠損、直りそうもないヒビの数々。しかし見ればわかるくらいには原形を留めているため、慣れ親しんだその子どもにはわかった。かつての友の形見だと。
「・・・・・・。」
声も出ない。それは絶望ではなく、怒りではなく、涙をこらえる我慢の沈黙だ。泣きたいときは泣けばいい。そう言われても彼は黙るだろう。自分を、みんなを笑顔にしたがっていた彼女が。彼が。頭を横切るたびに、笑顔でいなければと義務感を抱いてしまっている。
「ぁ・・。待って。兄ちゃん・・・!俺・・・!」
背中を見せて去っていく少年の姿は悲壮感であふれている。子どもに見せて良い姿ではない。では、どのような姿を見せれば良いのか。
「俺!!絶対約束守るから!!こっから兄ちゃんよりでっかい英雄になって、何倍も多く笑わせてやる!!!」
早々に立ち去って正解だった。恥ずかしい面を見せないように、語れるほどもない背中を向けて歩いた方がまだ良かった。
「・・・・ありがとう!!!」
世界で一番、心に突き刺さる言葉。達成感から来るものではなく、何もできていない自分を正当化してしまいかねないという恐怖。せめてその恐怖から身を隠すため・・・
俺は小指を掲げて、話を戻した。
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行く道の商店街はひどく荒れ果てており、改修作業に追われた人々が精一杯工事を進めている。外部テントでは住民に食料の配膳、怪我に対する医療行為が行われている。回復魔法を使える術師はここからが本番であり、この場の誰よりも汗を流して診療にあたっていた。
食料を待つ人々の行列を過ぎて人気のいないところへ。数多くある路地裏の一つへと行路を曲げる。
そこには手当をされて未だ傷の治らない、トウガとサリートの二人。傷があるかは見てわからないが、明らかにテンションの下がっているミウがいた。
「・・・何も、言ってあげられなかった。」
「期待を裏切ったのは俺たちだ。何かを言ったところで、何の薬にもならねぇ。」
トウガが静かに力強く言う。事実であるとともに、何も言えなかったアメルへの優しい言葉でもあった。
いつかは止むであろう暗い感情が、小さな路地裏を渦巻いている。沈黙が痛い。
「・・・こんな空気だが、俺から一つ!朗報がある!!」
この勝負、勝てなかったかもしれない。だが、負けきってはいない。全てを失うことはなく、こうして話し合える友が生きていた。だからこそ、もう失わないために。
「俺は、冒険者のパーティを結成することにした!!」
そんなことしてどうなる。ただの気持ちの整理だ。
「ひと騒動が終わったら、ギルドで手続きをして、そのとき晴れて冒険者の"パーティ"として活動するわけだ。」
志なんてものはない。そんなちゃちな集団として、新たに歩を進める。俺一人の力では、笑顔にできる人の数など高が知れているのだ。少ないより多い方が良いという単純な考え。
「・・・そうしたら。ここにいる皆で、一緒のパーティとして活動したい・・・!!俺の、仲間になって欲しい・・・!」
一番声をかけやすい身内のはずなのに、ひどく勇気が必要だった。恥ずかしさが爆発すると、ふと思い出して早口になる。
「いや、えっと!俺が手続きしたらリーダーの名義が俺になっちゃうよな!!そんなつもりなかったんだ・・!!手続きって面倒だからやりたい気持ちがあるうちに終わらせとこうかなって思いまして。もし嫌ならこの中でリーダーやりたい人~?・・・なんてな。ははは・・・。」
「「「・・・・。」」」
顔から火が出るほど熱くなる。変なこと言わなければよかった。
「・・・・今更何言ってんだよ。」
「・・・え?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、トウガの方を見てしまった。続いてサリートが。
「そもそも、最初に誘ったのはこちらの方だしな。改まって何を言い出すのかと思えば・・・。」
それは了承の意だろうか。存外、あっけらかんとしていて逆に不安になる。一連を見ていたトウガは小ばかにする笑みを浮かべて。
「敵の面前でチーム名まで言っといて、なんでそんな赤い顔できるんだぁ?女への告白だってもうちょいマシにできるぜ?」
「俺たちは。の修飾付きでな。」
彼らにとってはなんの大事でもなかった。ちくしょう。二人して徹底的に苛め抜きやがってぇ。
「ちくしょう!!今の忘れろコノヤロォ!!」
赤い顔をさらに赤らめて反撃に出るも、体が痛くて動けやしない。思えば、一日くらい寝ていなかった。眠気を吹き飛ばすほどの力の絞り出しからようやく解放されたのか、どっと疲れが襲ってくる。
ミウが一言も喋っていない。
「・・・・ミウは、どうしたい?」
「・・・え?」
痛い体を引きずって近づき問いかける。すると、今までの元気っぽさとは違う不安げな声を出す。
「ボクも・・・。いいの?」
「・・・?なにが?」
顔のパーツはなくとも、声からにじみ出ている。どこからか底知れぬ不安がこの子を襲っているが、意味が掴めない。
「・・・ボクは・・・。すらいむ、だよ?それで、その・・・。」
次の言葉が出ていない。なんともざっくりとした不安感に駆られている。
当然、二人も真意が理解できていないようで、
「変な心配してんのな。んなこと気にする奴らに見えるのか?」
「人ではない異形とパーティを組む冒険者など、今時珍しくもない。探せばすぐ見つかるぞ。」
横行していた差別か何かだろうか。俺は転生者だから、なんの事情も知りはしないし、世界の過去に思い入れなど一ミリもない。
「・・・言った通り、ここには馬鹿しかいねぇんだ。周りが何を言おうとも、影響なんてされはしねぇよ!!・・・・俺の仲間に、なってくれ。」
一緒にいたいから誘う。俺は、ただそれしか考えていない馬鹿だから。断られたら、友達からとでも言おう。・・・いや、マジの告白じゃねぇかこれじゃあ。
「う・・。うううぅぅぅ・・・!!」
「ミ、ミウ!?」
丸いからだがぷるぷる震えて、なにかの液体が広がっている。涙なのか?これは。
「うわああああああぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!」
うわあぁ!?体を広げて飛び込んできた!?
「わぶっ!?」 「ぐおぉ!?」 「む・・!」
一匹のスライムにまとめて倒された。道で、三人が横並びで倒れ、上から抱かれているかのようにミウが体を押し付けてくる。
「な"ぁか"ぁま"ああ"ああぁあ"あぁぁあぁ"ぁ!!!」
おそらく号泣しているであろう声が大きく響く。
「イ"テェ!!イテェ!!まだ傷が治ってねぇんだよ!!」
苦しそうにもだえるトウガは、それでも無理やり振りほどこうとしない。
「・・・これはしばらく動けそうもないな。」
不服そうな言い方をしているサリート。目が笑ってますよ。
「・・・ぷっ。ハハハハハ!!!好きなだけこうしていよう!!」
昇り切った朝日が暗闇を照らし、住民を輝かせる。いつもと変わらない朝日が暑さを振りまき、いつもと変わらない汗を流させてくれる。
陽の輝きは、たとえ残酷でも現実を映し出し、涙さえ隠してくれない。
それでも、その涙をともに分かち合える人が映し出される。残酷な現実を、ともに歩いてくれる仲間が映し出される。
いつもと変わらず、太陽は照らしてくれる。
今日も陽は暑い。
サブ連載 < 魔人っ子の平和(?)な散歩道 >
三十四話 「魔人っ子の平和(?)な散歩道」
この旅を通して、わかったことがある。
ロソロちゃんとの一日。姐御とのゾンビ村復興。シララちゃんとリィウさん姉妹と夢の話。ラっちゃんの嘘。そして、ドリュ〇ズとの楽しい旅。
誰しもが一言では言えない事情があって、悩みを抱えている。どうしようもないと思って一人で解決しようとして、結局行き詰まる人もいる。それでも、必ず周りには頼りになる人がいる。助けを欲する人がいる。
私はできるだけ助けていきたい。助けを求めてくれるなら、なおさら。
「待てアメル!!また俺の団子食っただろぉがぁ!!」
誰かが走って来た。
「違う!!俺じゃない!!サリートだ!!あいつクールキャラっぽいけどめっちゃいたずらっ子じゃねぇか!!ちくしょう!!」
なるほど、あの人が。
標的。
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二章の盛り上がり部分は終了です。
ですが、幕間でもストーリーは進行しますので、見ないと訳が分からなくなります。
そこのところ、ご了承のほどお願いいたします。
また、サブ連載 < 魔人っ子の平和(?)な散歩道 > も、これにて終了となります。本編でのメイラの活躍をご期待ください。
三章には三章のサブ連載を用意する予定なので、今後とも後書きの確認の程、よろしくお願いします。




