二章二十五話 「無名 vs 残党 ②」
「樹印 ・ 瑠詠嶽槍・・・!!」
ガアァン・・・!!・・・バキッ!
いくら武器を取り出そうと所詮木製。一度打ち合うだけで焼き切れてしまう。大振りに合わせて体に打撃を打ち込むも、痛がりはするが決定力がない。トウガのように膂力が強くも、アメルのようにドーピングができるわけでもないのだ。
「火剣・燗濃・・!!」
ゴオオオオォォォ!!
「ぅぐ・・・ぬぅ・・!」
切られた肩から血が流れるとともに、傷口が発火した。地面に転がることで消火はしたが、このままではジリ貧である。
燃える大剣で次なる一手が来る。彼はトッカでありトッカではないため、シャドウ自身にこちらの手の内は公開されておらず、愚直にも向こうから攻めてきた。
であれば迎え撃つ。拳を握りしめて距離を詰め、咄嗟の対応ができていない彼の腹部に一撃を打ち込んだ。剣を振り切ることで追い払おうとしてきたため、横へと飛び込む。
地に片手をついてバネの要領で空へと飛び、空いた顔面へ蹴りをかました。怯んでくれればいい。少しの隙さえあれば武器が焼かれずに済む。
だが、そこにおいて相性が不利なのだ。
「ぬううぅぉおおおお!!」
簡単には怯んでくれない。理由として、トッカはフィーオとラキという二人の後衛を守りながら、たった一人の前衛として活動してきた。すなわち根性が強い。
シャドウに乗っ取られたことで戦闘センスは受け継がれていないのに、技術と打たれ強さはしっかり盗られている。ますます厄介だ。
武器が焼かれ、打撃は急所に入らず。背中をとれる状況でもなければ、後方に下がっても武器が通用しないため意味がない。なんとか一瞬のミスを見逃さないようにと敵の前方に張り付くが、防戦の一方だ。
一方、背後でも戦闘が行われている。身体強化により攻撃を加えようとするが、リッツァの巨大すぎる腕にすべてを阻まれて疲労だけが溜まっているのだろう。アメルの動きは徐々に雑さを極めて今にも事故が起こりそうだ。
両者後ろへ追いやられて詰められる。相性で敵わない。技術が足りず、物理的に届かない。
ついに背中合わせで挟み撃ち。燃え滾る大剣と風を切る化け物の拳。ツートップの破壊力が二人の命を潰しにかかった。
・・・相性が不利なら、補え合えばいい。
「オオオォ・・・!!」 「ぬううぅ・・・!!」
並の打撃では怯まないシャドウの腹には、重い速さで不意を打てるアメルが。針の穴のように通しにくいリッツァの体には、足先に武器を取り付けられて技術もあるサリートが。
互いに息を合わせて敵を後退させた。そして、今までとは反対方向へと歩を進める。
「「そっちは任せた。」」
チームとして勝利を掴むため、敵にはこだわらない。
新たに更新された敵と、互いに向き合う。そこである違和感を感じ取ったシャドウが、口を開き尋ねた。
「・・・貴様確か剣を持っていたはずだが、どうした?」
「あら。バレちゃった?」
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「オオオオオオオォォォォ!!!」
ガガアアァン!!ギィィン・・!!ガガガギギギガガガ!!!
初撃が防がれたのち、できうる最高の速度で得物を振る手を休めない。もどかしげに様子を眺めるクスニクだが、何もできはしない。一方向にのみ放たれる力。それは"攻め"か"守り"のいずれかしかできず、永遠と守りをしなければならない状況下では、永遠と攻めができないからだ。
しかしそれは、攻めを怠った時点でトウガの負けを意味する。同時に、守りを解除させなければ勝つこともできない。そんなジレンマの中、あてもなく剣を振り続けた。
「疲れ果てるが先か、隙を突かれるが先か。選択肢は二つに一つ。いくら馬鹿でもわかるだろう。たかが一介の戦士ごときに私は負けはしない。」
彼を倒すためだけに、大規模な策を投じなければならない。彼を倒すためだけに、犠牲者を生み出さなければならない。この力の真骨頂は摩訶不思議による殺傷能力や妨害ではなく、その生存能力にあるのだ。
己を守ると決めれば誰も首には届かない。これほどまで、戦争に特化した能力があるだろうか。
「だからこそ、乗り越えがいがある!!」
ゴオォォ!!
目の前の男が攻撃の手を止めた直後、その手から視界を一瞬だけ埋め尽くすほどの小さな火の魔法が放たれた。気づいたときには周りに誰もいない。まだ守りを解除するのは早計だ。
今の瞬間で姿など消せるだろうか。痕跡があるに違いない。守りは解除せず、辺りを見渡してみる。
「・・・お前らを、チーム結成の旗揚げに使わせてもらう!!」
空だ。剣が一本空を舞い、小さな花火のように、その存在感が引き立てられていた。
「お前らが刈り取った命の分、精々派手に散ってくれ。」
囮だとすれば、武器のない男の拳による殴打となり、痛みしか伴わない。ならば狙う先は一つ。囮に見せかけた一撃がただ一つの負け筋ならば、未だ空で舞う剣こそ、焦点を合わせるべき目標だ。
守りを解除した。
「 刀 ・ 迅断 」
来る。剣にのみ視線を当てて、一撃に備える。
・・・なぜだ。なぜ剣をとらない。それではまるで・・・
「 馬閃堕期 !!!!」
ザン!!!!
意識と鮮血が、天高く舞い上がった。
「悔しいが、俺の勝ちじゃねぇ。・・・チームの勝ちだ。」
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「・・・なんで、各々で戦い始めてんの・・!?」
リットオッドは行き場を失っていた。三人漏れなく近距離で戦っており、魔法を撃てば味方もろとも吹き飛ばしてしまう。
ふと気づいた。クスニクの不気味な力は、いかなる魔法も防ぐのか。いや、いっそのこと防げなくてもいい。味方全員に。敵もろとも吹き飛ばす魔法をやたらめったらに撃ち込めば勝利ではないか。
「あ、、足手まといなんかじゃないぃ・・・!!私が!!最後に私だけがこの戦場に立つ!!!」
持ちうるすべての魔法を解き放つ準備をする。上昇雷(ポ二グロム)、灼熱、暴風。都市さえ飲み干すリットオッドの集大成。
「集大成!!」
「特大大花火ぃぃ!!!」
ドッッッ・・・。ゴオオオオオオオォォォゥゥゥ!!!!
渾身の一撃が、ミウによってただの塵と化した。
「・・・なんで?私の杖は、全て見えているのに。あなたの使える魔法は全部使えるはずなのに。・・・なんで私の全部を止められるの!?」
「どぉりゃああああぁぁ!!!」
ミウは一直線に突撃し、体当たりを試みる。杖につく歪な無数の目玉が、スライムを捉えた。咄嗟に杖を握りしめて衝撃を受け止める。
ドッ・・・!!!
とてつもない力が杖越しに伝わってくる。本来打撃向きではない杖はひん曲がっていき、目玉たちは血走る。
「うぎぎぎぎぎぎ・・・!!!」
目玉が泣き叫ぶ。痛いよって言う。苦しいのは嫌だって言う。そんなこと言われても今更遅い。あなたは何人殺したの?私は何人殺したの?
あ・・・。今、死ねって言った。
・・・・・。
・・・
「・・・。おーい!・・・。魔力切れ?」
口を半開きにして放心状態となったリットオッドは、地に膝をついている。杖は半ばから折れていた。
「・・・・・・なんか、煮え切らない。」
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巨大な腕による打撃の応酬を、紙一重でかわし続けている。致命傷には違いないが、その弾道には精細さが欠けていた。
「力に頼った結果、技術をかなぐり捨てたな。」
避けて槍で刺し、避けて飛び道具で傷をつけ。そんなことを何往復も続けるうちに、相手が打たれ弱くなる。
「がっ!?」
腕に飛び乗り顔面を蹴る。あからさまに怯む姿は、彼女の体力の限界を感じ取れた。
「好きなだけ自慢の腕を振るうがいい。全てに反撃を加えるがな。」
「殴る殴る殴る殴る殴る殴りたい殴る殴る殴りたいぃぃ!!!」
わかりやすい後隙を縫うように差し込もうとした次の瞬間。片腕を振るって大きな土煙を起こし、視界を奪った後にもう片方の手で頭を掴まれた。
ドオオォォン!!
なにがきっかけで冷静さを取り戻したのか、突然の工夫により地に沈められる。さらに追撃をかけようと大きな両腕を引き絞り、潰しにかかった。
「オオオオオアあああアァぁあぁ!!!」
ザクッ!!!
「がぁ!!!??」
リッツァの武器二つを、槍二本で貫いた。すぐさま背後に回り、背中を蹴り飛ばす。
「ヴッ・・!!」
「仲間に任されたんだ。負けては格好がつかんだろう?」
前のめりの姿勢を起こそうとする姿を、隙を逃がしはしない。
「殴ぅうううぅぅぅ!!」
「 樹印 」
かかとに木製の武器を取り付け、天高く振り上げる。
「らせッ・・・!!」
「 信義桜蔭 !!!」
ダアアアァン!!!
地を沈め、意識を沈めた。
「・・・死んではいないが、敵討ちはこれで十分か。」
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少年は今、男の目の前に立っていた。未だ大剣を燃やし、それと同じ色のした頭髪は風に揺れている男の前に。かつては友であったはずが、他人となり果てた男の前に・・・。
「革命、だったか。何を変えたがってるのかは知らねぇが、ここまでする必要、本当にあったのか?」
「一丁前に説教か。言っておくが、俺自身に革命の意思はない。誰もかれもが同じ信念を抱いて行動しているわけではないからな。」
彼には彼なりの、別の目的があると言う。であればなおさら、ここまでする必要があったのか。人が死ぬことを、正当化できる用事などあるか。いや、あってはならない。そしてそれを許す英雄像なんてものも、あってはならないのだ。だからこそ倒す。
「・・・これは、一人の英雄の物語だ。」
「!?」
マズイことなど何もないのに、図星をつかれたかのような感情に襲われる。ただ不意をつかれたからだと信じたい。
「かつては仲間と共に悪の王を倒し、世界の平穏を願った。だが後にその者は、国の闇を知る。厄を払ったはずが変化なく不公平を被る民、暮らしに不満はなくとも見えざる目に押しつぶされ続ける民。」
淡々と話す男の声は、ナレーションのように頭に入り込んでくる。
「ただ漠然と、現状を変えたいと願った。己が悪と線引きした境界を越えずに済む手段で。だがその者も所詮、ただの民の一人であった。自らを驕っていた。夢を見ていた。」
立ち尽くす男の姿が頭に映った。
「決意した。あの頃のように、これを討つと決意を固めた。かつての敵の残党と手を組み、同志を集め、他集団と同盟を組み、情報を集めて裏で手を廻す。最終到達点は、英雄だ。」
血を流すことになったとしても、目指すべきものがある。
「過程なぞどうでもいい。有象無象が死のうとも、背後から悲鳴が立とうとも、今と未来を憂いて、国をあるべき姿に変える。少数を犠牲として」
「多数を救えってか?」
声に熱がこもる。
「・・・それが英雄というものだろう。」
そう冷たく言い放つ。既に彼の中で出ている結論を、確かめる行為であった。
「・・・湿度が高ぇ。」
「は?」
ずっと変化のなかった目が動いた。こちらを訝しむような目に変わった。
「どう言いつくろっても、結局誰かを不幸にしてんじゃねぇか。誰かがわりを食ってんじゃねぇか。」
「未来を見ろ。未来に存在する者を合算すれば、その数は計り知れぬ。」
「だから!今、お前らは失敗してんじゃねぇか!!それともあれか?これも作戦のうち~なんて言うんじゃないだろうな?」
この期に及んで何も悪びれない。
「こっちは友だち殺されてんだよ・・・!!泣き顔見せられてんだよ!!これで革命が失敗すれば、お前らはそいつらをなんて言う?尊い犠牲か!?運命か!!?冗談じゃねぇぞ!!!」
今にも嗚咽が漏れそうだ。何かが逆流してきそうだ。
「お前らが今やってんのは、高尚なもんでもなんでもねぇ!!積み重ねてきた人生を、努力を、全部壊してるだけだ!!無駄死にを増やしてるだけだ!!」
死に、高尚も何もない。
「何が決意を固めただ・・・!!こんな方法しか思いつかないてめぇの頭の弱さを正当化してるだけだろうが!!!」
少数を犠牲にして多数を救うなど、虫唾が走る。
「そんなんが英雄になるほど、人は落ちぶれちゃいねぇよ・・・!!」
怒りは粗方吐き出した。今は戦場だ。もう少しだけ冷静でいろ。
「・・・貴様の方が、よほど湿度が高いがな。」
「・・・夢見ていいだろ。」
俺の常識には収まらない。そんな世界が目の前に広がっているのだから。
「この世界には、"魔法"があるんだからよ。」
サブ連載 < 魔人っ子の平和(?)な散歩道 >
三十二話 「魔人っ子の誤解(?)な逮捕状」
私は今、連行されていた。馬車の中に乗せられて。
「・・・いやに大人しいな。そのまま抵抗はするなよ。」
「ん。」
このまま待つつもりだ。膝に乗せたクーラーボックスの上に置いてある、アイスが溶けない内に着くといいな。
「・・・ん?・・おい、待て。待てまておかしいだろう!なんでクーラーボックスがここにあるの!?どっから持ってきたのソレ!!なんでアイス中に入れてないの!?冷凍するなじゃないから!!抵抗するなって言ったんだけど!!」
「ん。わかった。」
とりあえずクーラーボックスにアイスを入れて床に置き、もう一つ懐にあったものも置いた。
「線香するなじゃないから!!そんなの取り上げる気ないから!!お墓参りはちゃんと行っときな!?それ規制する権限はないからね!!」
「わかった。私は私以外のものに、傾くことはない!」
「傾倒するなじゃないから!!いい加減にしてくれる!?マジでしょっぴくけど!!こっちはどうとでもできるけど!!?」
「じゃあ、本当は捕まえる気なんてなかったんだ。」
「・・・・。」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔してる。変なからかい方しちゃったか。
「・・・わかった、降参!説明が遅くて悪かったよ!けど許して欲しい。こちらもやりたくてやってるわけではないんだ。」
むすっとした顔つきは変わんないけど、なんとなく優しいんだろうなってわかる。
「あの子は、お偉いさんの娘。昔ある出来事があって、事が事なだけに完全にはもみ消しきれなかった。彼女の両親は、彼女のことを半ば捨て気味でな。それであの子は自ら、躍起になって身代わりを探してんの。もう一度や二度のことではない。」
あぁ、そういうこと。そいで外での遊びを覚えちゃったわけだ。
「両親が身代わり探しを咎めようとしないということは、まぁ、そういうことだ。関係のない君を巻き込んでしまい申し訳なかった。」
そうなると手詰まりだなぁ。運行停止は本当のことだろうし、どうしたものか。
「・・・本当に、取り乱しはしないのだな。こちらが言うのもなんだが、裏切られたのだぞ?なんの感情も湧かないのか?」
「んー。まぁ、嫌な思いはしたけど・・・。」
なんだかんだ言って、楽しかった。
「楽しかったなら、なんでもいいかなって。」
「不思議な奴だな。・・・では、自宅を教えてくれ。こちらで送っていこう。」
・・・お、そうだ。
「・・・なんだ、その手は。」
「茶番に付き合ったお礼金!でも現金でじゃなくて、体で!」
「・・・騎士からねだるか。良い根性しているな。何が目的だ?」
「南西の都市エトカルディスまでの運送。お願いね!」




