二章三話 「多勢に無勢」
何かに足を引っ張られた。肉体の感じがしなかったため、魔法かなにかだろう。魔物や植物にちょっかいでもかけられたかと思ったが、そんな期待は正面を見るとすぐに消え失せた。
「・・・・おいおい。"俺一人"に対してなかなかの大所帯だな。」
「一人?私はそこに積み上げられている魚人を知っているが、君のような少年に全滅させられるほど弱くはないはずだ。」
空気が重くなる。この感じは前にも感じたことがある。あの魔人と同じ威圧感だ。それが意味することは、圧倒的強者であるということ。ホラを吹いて正解だった。
暑さのことなど忘れて目の前の"軍団"に意識を奪われる。
不気味な笑みを浮かべて虫唾の走るような笑い声をする犬のような獣人。
こちらに興味を示さないと思いきや、時折こちらを忌々しそうに睨みつける魔人女性。
中でも文字通り頭一つ飛びぬけた体格をしており、鼻息荒く今にも暴れだしそうな赤いオーガ。
逆に極端に背が低く、黒衣眼鏡を被った、存在が不気味なゴブリン。
魔導士のようなローブを着こなし、手持ち部分が目玉で浸食されている杖を持つ紫色のゴブリン女性。
暑いからでは説明つかないほど汗をかいているにもかかわらず、シャドーボクシングをし続ける兎の獣人女性。
先ほどの犬獣人の真似をしようと同じ体勢をとるも、どこかぎこちない小柄の犬獣人。
普通の武闘家のようななりをしているのに、なにか底知れぬ恐怖を覚える人間。
ざっと目を通して気になったやつをピックアップしたが、後ろにはまだ見切れないほどの人数がひしめき合っている。"軍団"がそこにいる。
そして威圧感を放ち俺との対話をしてくれているのが、軍の中心を陣取る大きめの緑肌ゴブリン。黒髪を生やしており、筋肉はあらゆるものも通さないかのような頑強さが見て取れる。
間違いない。あれが頭だ。
「この際、君一人で殲滅したかは置いておこう。見たところ彼らで日陰を作り休憩していたようだが」
「あれは、・・・・・善意だ。」
「善意で全身を縛られて積み上がり日陰を作る馬鹿がどこにいる。」
指さす方は未だぐったりとして反応も返せないような魚人たちがいる。その陰に隠れているトウガとサリートは、引き続き気配を消していた。できればすぐにでも逃げてほしい。自分から見ても見苦しい時間稼ぎをしている。
「そんなことを聞きたいのではない。その方向は都市、エトカルディスがある。・・・彼らをどうする?」
連れて行った後の処遇を聞くのか?どう答えるのが正解だ。重い刑を答えれば仲間意識で殺されかねないか。軽すぎる刑を言えば逆に疑われるのかもしれない。いや、むしろ処分して欲しいのか。そもそも嘘が通じるのか?依頼は公式で出されている文書ゆえにごまかしが効く印象はない。
とりあえず地雷を踏まないことを最優先にしよう。
「ただの・・・チンピラへの事情聴取だよ。」
「"シャドウ"。やれ。」
「わかった。」
踏んだようです。
静観していた武闘家が合図とともに地を蹴った。身体強化魔法が間に合わず横腹に蹴りを一発入れられる。近くの木に激突して痛みが全身を襲った。
「が・・・ぁ・・!?」
体に響く激痛。アメルはこの一か月間、転生初日のような危険は一度としてなかった。討伐依頼も罠や行き止まりに追い込んで短剣で一突き。用意のない不意打ちに弱くなっていることなど明白である。
「もう終わりか。啖呵の割にはあっけない・・・・ッ!?」
ドオオォォン。
木に激突させられたらさせ返せ。胸元に強化全開で殴りを入れ、俺より2倍先の木まで吹っ飛ばしてやった。俺は、直進上にいる舐め切ったやつにはめっぽう強い。
「ほう。彼の言葉もあながち間違いではないか。」
「棚からぼたもちだ、ボス。信用が足らんシャドウを見極めるとともに"あれ"が本当か確かめる時。」
外野で頭と短身黒衣が話し合う。背後の有象無象は統制が取れていて声の一つもしないが、先ほどピックアップしたやつらは各々あくびをしたりと、つまらなさそうにしている。
「・・・!」
ゴッ!ガッ!ドゴ!ガンッ!!ドッ!
俺が意識をそらした瞬間に間合いを詰められた。とっさに左腕で守りに入るが、二撃目からは当然守りは避けられる。反撃の隙を与えないつもりだ。両拳で絶え間なくラッシュを叩き込んでくる。初撃に比べれば軽いが、それでも頭部が殴られれば目まいは起き、腹を殴られれば吐きたくなる。3,4発に一度くらいの頻度でしか守りは成功せず、何発も受けるうちに今すぐにでも膝をつきたい衝動に駆られた。
止めに取っておくつもりだったが、気絶したら元も子もない。
ザッ・・・!
「ウぐッ!?」
むしろここが絶好のタイミングだったかもしれない。ラッシュに気をとられた武闘家は、だんだんと勢いの増す拳を止める選択肢はなかった。構えた短剣に右手が深く突き刺さっている。握る力の残されていない俺は、敵に振り回されぬよう短剣から手を離した。
武闘家はさすがに突き刺さる痛みには耐えれなかったのか、大きく後退し短剣を抜く。血がどくどくと流れ落ちていく様を見ると、もうその手は使えなさそうだ。
敵方に余裕はなく、額に冷汗までかいている。だが余裕がないのは全身打撲を受けたこちらも同じ。決定打があればいいが。・・・
思い返せばやつは直線的な攻撃ばかりだ。搦め手に弱いどころか自分で使っているところを見ていない。所詮俺に対応されるレベルのラッシュを終わるまで続けようとした。次も真っすぐだとわかれば案外簡単な話。
動きや読みあいはプロなようで、こちらの動きを細部まで見られている。相手はノーモーションで突っ込んでくるかもしれない。そこでためらいなく
「身体強化全開・・・」
全力の前方蹴り。その場のため本来は空を蹴ることになるが、間合いなら向こうが詰めてくれる。
「ゴオォッ!?・・・ぉぉ」
二度目のカウンターが見事決まり、腹部を足が抉る。今度は置きに行かず、全身全霊だ。これには武闘家も悶絶し、地に倒れこむ。
ふぅ、と気張った息を整え、ーーーーーん?おかしいな。俺はいつの間に空中を飛んでいるのだ。鼻血まで出ている。・・・そうだ、顔を蹴り上げられたような感覚があって、それで。
目の前、若干上を向いているはずなので高い位置、左手をかざして気張る武闘家の姿があった。やらせてはいけない。
「サンダーボールッ!!」
直撃させるも歯を食いしばり左手を構え続ける。全身に電気が走る中、俺の胸元目がけ
「必技・発勁!!!」
ズゥン! ゴオオオォォン!!!
勢いよく地面に叩きつけられた。体の感覚がない。意識も遠のいてきた。ダメだ!まだ時間稼ぎをしないと追いつかれる可能性もある。もう少しでも動くことができたら・・・頼む。動いてくれ!!
「ハァ・・・ハァ・・。まだ立つか!?貴様ぁ。」
「はぁ・・ぁ。はは・・!俺ぁまだ動くからよぉ。。まだ、まだ続きを」
瞬間。どこかを起点にするわけでもなく全身が破壊されるような錯覚を覚えーーー
地形とともに意識まで刈り取られた。
サブ連載 < 魔人っ子の平和(?)な散歩道 >
十一話 「魔人っ子の絶対(?)な裏ルール」
ひょんなことから出合った私たちは、一つ屋根の下でお茶をすすっていた。のどかなり。
「・・・窓から覗いてくるゾンビたちを除けば・・・。」
考える頭がないのか室内には入ってこない。ただ気は散る。カーテンがあればすぐにでも閉めたい。
「我慢しろ。気色悪さを乗り越えた先に得る物もある。」
「ないよ。気色悪さの先には後味の悪さしかないよ。」
少なくともゾンビなんて見たくない。足を掴まれる感覚も二度と味わいたくない。
そうそう。人肌なのに妙にひんやりしていて、体の中の何かが吸われていきそうなこの感覚。
・・・・。
「またいる!!!?」
変にねっとりしていて嫌だ!家の床を突き抜けてまで私の足首を掴みたいの!?
「この村にいる限り、油断はするなよ。結界などという便利なものはないゆえ、通り放題だぞ。」
「姐さんすっごい冷静!!あとたぶん遅い!!もっと早く言って!!」
引っ張ったら顔まで床を突き抜けてきた。目がだらんとして顔の形も歪んでいる。おそらく、元男性の死体だったのだろう。
!?
「南無三!!!!」
さっさと画面外へ行け!!
「どうした?焦りすぎだぞ。」
「このサブ連載で男性は出しちゃいけないんだよ。抹殺しなきゃ。」
本編のシリアスを中和する目的と、女性キャラの少なさを誤魔化す目的で作られたこのフィールドにおいて、守るべきルールがある。三章からなら出ても良いから。
キュー!!
お!ドリュウ〇も手伝ってくれるのか!!出禁ゾンビの顔にモザイク食らわせてやれ!!
・・・待って。食らわすっていうか食らってるっていうか。ゾンビ食べてる!?
「そんなもん食べちゃダメ!!」
キュー・・・。
なんでちょっと悲しそうな顔・・・。
「・・・・。随分と珍しいものを飼っているな。」
確かに色んな意味で珍しいけど・・・。




