第1話 魔神が生まれた日
ここはどこにでもある辺境の村”シーソ村”。誰もが農作をして細々と生計を立てる静かで穏やかな村であった。この日まではーーー
「おい!誰か!!誰かいないのか!?」
俺が暮らしていた家、育てていた畑、皆んなが笑って集まっていた広場、全てが炎に飲まれた。
視界に映るのは黒煙と火に包まれた、真っ暗で地獄のような光景であった。
「なんで……だよ……」
収穫した作物を町へと卸に行っていた。村から町へは歩いて2〜3日、一週間ほど村から離れていて帰ってきたら村がなくなっていた。
「誰か……誰かいないか!?」
俺の嘆きも虚しく誰からも返事は返ってこない。自分の家に向かうもあったのは瓦礫の山だけであった。そして、俺はこの村で一緒に育った幼馴染、アーリアの家へと駆け出す。
「……!!アーリアッッ!!」
アーリアの家の前の道にアーリアは居た。しかし、アーリアは胸を剣で刺されたのだろうか血を流し、すでに息を引き取っていた。
「アーリア!!起きろアーリア!!おい!!」
頭では起きるわけがないなんてことはわかっている、しかし俺は叫ぶことしか出来なかった。俺の目から涙が溢れる。その涙が彼女の胸に落ちた時。
「なんだ!?アーリアの身体が……」
突然光出すアーリアの身体に俺は動揺した。そして、固まってる俺にその魔法陣から声が聞こえた。
「娘に涙を流す人間がまだいたとは」
「誰だお前は!」
彼女から魔法陣が浮かび上がり、そこには魔神のような男が現れた。しかし、その魔神の身体は透けており、今にも消えそうであった。
「ワタシは魔界を統べていた魔王ガリオス・ヴィシュバールである」
「魔王……?あの御伽噺の?」
魔王なんてものは大人が子供を寝かしつけるための御伽噺、夜ふかししてると魔王に食べられちゃうぞーって。俺からしたらそんなものであった。しかし、その魔王と名乗る相手が目の前にいた。
「御伽噺などではない。魔王はここにいる」
「なんで魔王がこんな所にいるんだよ!まさかお前が村を焼いて……アーリアをっっ!!」
「落ち着け少年。村を焼いたのは”ザンドリア帝国”だ」
「帝国が……なんで……?」
村人の俺でも知ってる超巨大な国”ザンドリア帝国”。俺の村からは遠くてとても行ける場所ではない、噂話でよく聞く国である。
「その理由は2つ。1つはワタシが勇者に討たれてしまったこと。2つ目はこの子アーリアがワタシの娘であることだ」
「アーリアが魔王の娘!?」
「そうだ。ワタシが討たれたことでワタシの配下の魔物の力が弱まり、それを見た帝国が全軍を展開して我が娘を見つけ出し殺された」
「つっっ……」
認めなくなかった”アーリアが死んだ”という事実を突きつけられて言葉が出ない。
「しかし、まだ娘は生き返ることが出来る」
「なんだって!?出来るのかそんなことが!!?どうすればいい!?」
「お前がこの”魔王紋”を継げ。強い絆があれば魔族である我が娘はその紋章を通して生き返ることが出来る」
そう言いながら魔王は手の甲に浮かび上がる”魔王紋”と呼ばれる紋章を見せる。家族を失い、故郷を失った俺からしたら大事な幼馴染アーリアが生き返るというのであれば、出来る返事など一つしかない。
「あぁ俺が受け継ぐ!アーリアが生き返るならなんだってする!」
「素晴らしい答えだ。では、託したぞ我が娘を”世界”を」
俺の足元に魔法陣が広がり、光に包まれる。魔王が詠唱を行ったら俺の手に紋章が浮かび上がった。
「これで継承は完了だ」
「なんかさっき見た紋章と形が違う……」
何が起こるかと緊張したが、思ったよりもあっさり終わり内心少しホッとしている。ふぅと胸を撫で下ろしていると魔王が話を続ける。
「当然だ。この紋章は配下に置いた種族の数によってその形が変わっていく。そして重要なことがある」
「なんだ、重要なことって」
「娘は完全に生き返った訳ではない。あくまでお前の紋章、いわばお前の命と繋がった状態でギリギリ生きている状態だ」
「完全に生き返らせるにはどうすれば……」
「その紋章を完全に覚醒させろ。そうすれば娘は繋がったままでいる必要はなく、完全に生き返る」
「覚醒ってなんだよ」
「この世界を支配する8種類の種族を支配下に置く契約を結ぶのだ。さすれば紋章の全ての力は完全に解放され、娘を完全に復活させることが出来る」
魔王の身体が光の粉となり足から消えていく。わからないことばかりで、聞きたいことが山ほどあるが時間がなさそうである。そこで俺が理解出来る中で最後の確認を行う。
「とりあえず、いっぱい配下にすればいいんだな!」
「なにもわかっていなさそうだが、まぁそういうことだ」
「俺、やるよ。このアーリアを追放したこの世界、俺が完全に掌握してみせる」
「期待しているぞ。そして最後に……」
「まだあるのかよ!」
ただでさえ話を覚えるのに頭がパンクしそうだというのに、魔王様は本当に話が長い。
「娘はこの世に現界し続けるにはお前の魔力が必要不可欠だ。定期的に新鮮な精液を娘に注ぎ込むことだ。では」
最後にそう言い残し魔王は完全に消えていった。
「え……」
最後の最後、魔王の言葉で頭が真っ白になった。せ、いえき……?定期的?流し込む?それって???
「ん……あれ、ラウル?どうしてここに?私死んだはずじゃ……?」
放心状態だった所に声が聞こえた。それは慣れしたしんだ、ずっと聞いていた声。その声で一瞬で現実に舞い戻る。
「アーリア!!!よかった、本当に……本当に生き返った!!」
生き返ったアーリアに抱きつく。確かに生きている。体温がある、心臓が動いている、息をしている。
「もう、急にどうしたの」
アーリアは照れ臭そうにしながら、泣いてる俺に優しく抱きつき返す。
こうして、魔王紋を継承したラウル・ヴィシュバールの世界を統べる本当の魔王となる物語が始まった。