表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殿下、貴方が婚約破棄を望まれたのです~指弾令嬢は闇スキル【魔弾】で困難を弾く~  作者: 秋津冴
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/69

第六十二話 黒狼の暗躍

 三人が駆けだしたその瞬間を狙ったように、ローズ・ローズの足。ぶっとい根っこが、炎の巨人の左わき腹をめがけて繰り出される。

 それは見る見る間に伸びていき、伸びた先でさらに幾本もの根が巻き付いてゆき、鋼鉄のワイヤーを束ねたものよりも強靭で、破壊力があり、更にちょっとした炎程度では焼き切れないほどの、耐火性に優れていた。


 ブォンッと鞭のようにしなる一撃をまともにうけ、炎の巨人はその勢いを受け止められず、側に流れている河へと片手片足をついてしまう。


 すると凄まじい熱を帯びた蒸気があたり一面を覆い、水辺でどうにか炎をしのいでいた木々は敢え無く、燃え尽きて倒されてしまう。

 

 その様を悲しんだのか、ローズ・ローズはさらに数本の足を生やすと、その半数を使って炎の巨人に向かい、足を鞭代わりにして猛威を奮った。


 巨木を中心として、触れただけで骨を砕き肉を抉るそれをローズ・ローズは回転を加えることで、さながら木製の回転するチェーンソーのようにガリガリガリガリ、と炎の巨人の側面を頭を、足を、下腹部を削っていく。


 回復が追いつかず、またアニスたちとの闘争によって幾分か削がれていた炎の巨人の魔力が、いよいよ凄まじい勢いで低下していくのが、はた目にも分かった。


 ぐぅいいいいんっ、と上に伸びた回転する刃が、ずんっ、と巨人の首と本体を切断してしまう。

 まるで回るギロチンだ、と思いながらリンシャウッドは上から落ちて来る溶岩だの、巨木だのをうまく避け、時には闇の炎を吹かして安全地帯へと逃げ延びていた。


 他の二人、オネゲルとアルテューレもまた、優れた身のこなしをもって、落ちてきたり、襲ってくる熱波や肉を切り裂く、鞭の一撃からうまく身を躱してリンシャウッドの後に続く。


 数分かけて安全地帯にたどり着いたとき、そこには大勢の人々が待っていた。

 魔猟師協会や冒険者協会の人々だった。彼らは協力して、自分たちの周りに防御結界を張り巡らし、巨人たちの猛攻の余波を受けても死なない程度に、安全な場所を確保していたのだった。


「早く、こちらに!」


 入り口に誘導されて、オネゲルとアルテューレはその中に真っ先に逃げ込んだ。

 どうにか生き延びた……と、息も絶え絶えに全力で疾走してきた二人がようやく息を整えてみると、見える範囲にあの黒狼がいない。


 結界の中で治療を受けているのかとも思ったが、探しても見当たらないでいた。

 どうやら、偉そうなことを言うだけ言って、さっさと他の場所に逃げてしまったらしい。


 二人はそう決めつけると、これからどうしたものかと頭を付け合わせて、今後の予定を決めた。

 ローズ・ローズと炎の巨人はそんな二人をほっといたまま、すさまじい大魔獣決戦ともいえるべき一大戦闘の真っ最中で、魔石をその身に宿しているローズ・ローズの方が、どうやら炎の巨人よりも有利の様だった。


 魂が宿っていればまた話は別だったのだろうが、肉体だけでは本能的な動きしか出来なくなる。

 攻撃も防御も、ローズ・ローズの方がいろいろと有利だった。


 四百年間貯めて来た魔力をここぞとばかりに使用して、巨人が放つ灼熱の魔弾だの攻撃だのをうまく反らしていくのだ。

 その分、周囲の被害は甚大なものとなるが、燃えた焦土すらもローズ・ローズの養分となった。


 根がそこかしこに向かって伸びて行き、それは王都の外壁とその前を流れる運河の支流にまで達していた。

 ローズ・ローズは支流から大量の水を根で吸い上げると、凄まじい水圧をかけて鉄砲水のようにして、それを炎の巨人にぶちかましたのだ。


 炎、水、溶岩、炎、水、溶岩、ときどき咆哮、緑の鞭、飛んでいく巨人の腕。炎、水、熱波が夜空を白く染め上げ、その中で巨人の口から噴き出された炎が、闇夜をオレンジ色に染め上げる。


 しかし、雄たけびと共に放出された轟炎で覆われたローズ・ローズの本体は、頭上から運河から吸い上げた水を放射してシャワーのように浴びせかけ、あえなく鎮火してしまう。


 そんな状況がさらに十数分続き、いよいよ、炎の巨人の魔力は底を尽きかけて、片足を地面に堕とした。

 リンシャウッドはその隙を見計らい、自身の全身を闇の炎で防御して、あのポシェットを回収すると、四つ足で闇の空を駆け抜けてローズ・ローズの本体へと殺到する。


 本物の黒い狼のようにローズ・ローズにたどり着いた彼女は、ローズ・ローズの肉体にできたいくつもの裂け目からその中へと身を滑り込ませた。


 魔石まで行き着くと、自身の命である魔石を守ろうとするローズ・ローズのツタや根っこなどを闇の炎で焼きながら、一抱えほどもある魔石を、ローズ・ローズの本体から強引に引っぺがそうとする。


 だが、木面と魔石が癒着しているのを見て取ると、闇の炎をまるで鋭い切っ先の刃のようにして、木の部分から無理やり引きはがしてしまった。


 暴れ狂うローズ・ローズの本体から振り落とされまいと、体内で四肢を必死に広げがら、あのポシェットへとローズ・ローズの本体から引きはがした魔石を滑り込ませる。


 ひぎゃうううっ、とローズ・ローズの断末魔が世界に響きわたるのと同時に、炎の巨人が魔獣に抱き着き、最後は両者ともに全長十メートルほどの移動する火柱となり……それは、膨大な水流が流れ込む運河の支流にまでたどり着いたところで、水中に没した。


 吹き上がる水蒸気が王都そのものを真っ白なもやで覆ってしまう。

 王都でも比較的高い建物で知られるホテルギャザリックの最上階から、これから戦場に向かおうとしていたアニスやエリオット、聖女たちは呆然として神話で語られるような魔獣と精霊の大決戦の終幕を見届けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ