第三十八話 魔法植物
それは一定の土地から出てしまえば、あっという間に炎の精霊が捕食して焼き尽くしてしまう、というものだった。
「そんな便利な呪いがかかっているに、どうして今更、この魔法植物の討伐が検討されているんですか?」
「どんな生物にも植物にも一つの土地で生きるには限界というものがあるだろう?」
「ほう」
「聖女が呪いをかけてからもう四百年近くになる。魔法植物が生きる糧としている魔素だって無限に湧き出すわけじゃない。土地、土地によってその場所に生きる生物が全てを吸い上げてしまい、魔素が枯渇して種の存続に関わることだってある……っていうのが、魔猟師協会の提供してくれた情報だね」
と、いうことは……と、アニスは考える。
あの土地にローズ・ローズがいることは知っていたが、上級貴族の自分が立ち寄ることなんてまずありあえないから、どんな被害があるかも知らなかった。
土地の管理者という立場でもない。専らその土地は戦女神ラフィネの神殿が管理しているようだが、活動が活発化して凶暴化しているのなら神殿が出ていくべきだ。それなのに下部団体に当たる魔猟師協会に依頼が来るなんてどういう状況なのだろう、と気になっていた。
「かつて聖女様が張った土地の結界は、まだ機能している?」
「もちろん機能しています。しかしそれはあくまで対象となる魔法植物が外に逃げ出さないようにするためのものですから。人が入ったり、野生の動物が出入りすることまでは」
「制限できないと。もしかして、結界のすぐそばに大量の生地が存在してる?」
「そうなんですよ。おまけにこの花は根っこが続く限りの距離まで、自分で立ち上がり、歩き出すという」
「まるで呪いの薔薇だわ」
エリオットは重々しく肯いた。
ローズ・ローズは群生地の中央にその本体を持っている。
土地の魔力が枯渇するのはもちろん、その真下の地面からになる。
分身が根の続く限り遠方まで移動できるとしたら、本体はどうやって命をつなごうとするだろう。
「分身である花を届く限りの距離まで移動させ、そこで植生させ、ある程度まで成長すると本体がそこに意識を移して新たに繁殖する、を繰り返してきたらしくて」
「結界と外側の境界線で、ローズ・ローズは密集した状態で生存を続けている?」
「もう少し状況が悪いです」
エリオットは二枚目の書類を指さした。
数枚の写真が添付されていて、燃え盛るローズ・ローズの花と飛び散った火の粉を浴びて、本来なら安全なはずの結界の外側にある農耕地の作物が大炎上している様子が映っていた。
猛る炎に、黒々と上がる巨大な煙の影。
それを見ただけでアニスにはなんとなく察しがついた。神殿は下部組織に委託したのではなく、ローズ・ローズを一掃する掃討作戦を展開しようとしているのだ、と。




