第二十九話 行き倒れ
「この銃を使って実技試験とかで悪さをしたんじゃないの?」
「違うそんなことはやってない! これは自分の相棒だから、他人には預けたくなかっただけ! 本当だよ!」
と、銃を大事そうに、自分の恋人のように思い入れを込めて、リンシャウッドはそう弁解する。
もし違法な銃器が用いられたのであれば、少女の成績は。っきり嘘だということになる。
そうではないことを証明しなければ、彼女は魔猟師資格を剥奪され、二度と資格を得ることはできないだろう。
そんな内容を告知されて、リンシャウッドはあんぐりと驚愕に目を見開いていた。
「だからちがうって言ってるんじゃない! 私はそんな違法な行いはしていないってば! 確かにきちんと愛銃を預けなかったことは私が悪いけれど、違法行為なんてことはやってない」
「いやーそれにしてもなー。試験に挑む時点で自分の銃は全て預けるって言う話になってるから、一人だけ特別扱いっていうことはできないんだよねお嬢ちゃん」
「そんな……」
もはや抵抗する気も失せたのか、がっくりと肩を落とす彼女を見て、アニスは協会の人にリンシャウッドを突き出した。
そうこうしていたら、エリオットにも気づかれてしまった。
「アニス。今度は何を気にしているんですか」
「うーん……気になるって言うほどのことじゃないんだけど。あの二人何となく怪しいから」
「二人だけですか?」
「え?」
あっち、と隣の席に座ったエリオットが、親指の先で示す方向には10代後半の若い女性が座っていた。
あちらもアニスが最初、なかなか手練れだなーと感心していた四人のうちの一人だと気づく。
「トラブルを起こした黒髪の獣人と、あの男性、それから真紅の髪のあの女性。それぞれ別々の場所に座っていて距離は離れていたけど、実技試験の間とかお互いに意識していたみたいだし……。見知らぬ誰かということはないような気がするんですよね」
「よく見てるのね」
「ええ、あることであなたを見ていたから」
「あることって?」
それはどんなこと? 自分のスキルはなるべく隠して実技を終えたつもりだが、闇属性だということバレた……などなど考えていたら、全く別のことだった。
「かつての、数日前まで王太子妃補だった女性が、今この会場にいるっていう事実です」
「……。もう終わったんだからいいじゃない」
「世間はそう思いませんよ。俺もあなたとこうやってコンビを組ませていただいているから、はっきりと申しますが、面白くないと思っている国民なっているんです」
「エリオットは反対派?」
「新しい国王様に?」
青年は少しだけ視線を落とし、それはないですね、と明確に返事をする。
「上に立つ人間は清廉潔白の方がいい。あくまで理想像ですけれど。職人の世界も、騎士の世界も、みんな自分の利権争いでひどいもんでしたから」
「そう……。それは大変」
私も若い頃たくさん経験したわ、と言おうとして辞めた。
16歳。若い頃っていつよ? と自分で突っ込んでしまったからだ。
事務手続きの講習が終わり、二人がようやく資格試験から解放された時。
折よく、別の入り口からあの少女が出てきた。
「あー……最悪な奴に会っちゃった」
「誰が最悪のやつよ。あなたが悪いんでしょ」
「あなたがあんなこと言わなきゃ私は今頃こんなに苦労してないのに!」
不正をしたのは明らかなのに、自分は悪くないと言い募るリンシャウッドを見て、エリオットは呆れた顔をする。
アニスに至ってはもう関わりたくないという顔をしていた。
「あなたのせいで、罰金として余分に銀貨1枚取られたし! そのおかげで……うううっ」
ぐるるるーと盛大に、リンシャウッドのお腹が鳴った。
フードの中にある獣耳は垂れ下がり、尻尾は所在なさげにくるんっと丸まっている。
それ以上文句を口にする前に、獣人の少女は「もう無理」と目を回して、ぽてんっとその場に倒れこんでしまった。




