第二十五話 相棒
魔猟を行うのに大した技術は必要ない。
弾丸を打ち出す銃器の扱い、魔法の罠が内包された仕掛けの扱い、魔獣に関する基礎知識、そして応急処置。
当たり前に考えれば怪我をした際には最も重要な項目とされるはずの応急処置が一番最後にまわされているのは簡単で。
いまどきの魔猟はチーム単位で行う。
それも各々が資金を出し合い、大勢の追い手と称される人員を雇って、魔獣を巣から追い立ててつつ、雇い主が待つ場所まで追い込むからである。
至近距離に近いところまで魔獣が追い込まれ、銃口を向ければ標的は即死する。
それだけ威力の高い弾丸を打ち出すのだし、たとえ失敗したとしても、魔猟師の目の前にはあらかじめ設置された魔法による防御障壁が張り巡らされているのだ。
こちらからはいつでも殺すことができて、あちらからはどんな攻撃をしてもこちらが傷つくことはない。
安全なゲームだから怪我をすることもあまりないのである。
例えば、整備不良による銃の暴発とか。
あまりにも強大すぎる魔獣の前に防御障壁が、打ち砕かれてしまったとか。
後者の場合、ほとんどの参加者が死ぬことになるわけだけど、命のやり取りをしているのだからそれはまた致し方ない。
そういった理由で応急処置なんてものは、目の前でささっとやってしまってそれで終わり。
呆れたものだわ、とアニスは隣に座るエリオットにだけ聞こえるように囁いた。
「アニス様!」
「本当のことですので。死傷者が出たとしても回復魔法が使える魔法使いがいなければ、助かる見込みはないでしょうね」
「……人に聞こえますから」
「聞こえるように言っているもの」
「俺を巻き込まないでください」
灰色の瞳に青いものをにじませて、エリオットは悲鳴を上げる。
祖父のボブから、おまえの人生を大きく変えてくださる御方だ。粗相がないようにな。
……と言い含められてきたものの、これから先が随分と思いやられそうだった。
「もうあなたとは同じ仕事をする間柄。私はあんな感じにはしませんから」
「あんなって」
「たくさんの人間を雇って魔獣を追いだし、安全圏から狙撃して殺すような真似はしないと言ってるのです」
「いやしかし、それではお嬢様が」
「お嬢様はやめてちょうだい。アニスって呼ばないんだったらもうコンビ解除するわよ」
「……アニス」
「そうそれでいいの」
身分の差を恥じてか、エリオットはうつむきがちにそう言った。
アニスは満足感を覚えたが、前の列に座る例のフードコートの少女、そのフードの中にあるだろう獣の耳が、ちょこん、とこちらの会話にうなずいたように揺れたのを、アニスは見逃さない。
興味本位かしら。金持ちが粋がっていると思われた? それとも、サフラン派の報復、ということも考えられる。
スイートルームの中ならばいざ知らず、一度外に出てみれば周りは敵だらけ。
「今のあなたにそれほど高価な魔石は重要ではないでしょう?」
「は? それは確かにそうですが」
「だったら、大金を使って人を雇いレベルの高い魔獣を狙う必要はないと思うの。そういう意味よ」
「はあ……」
フードの彼女の獣耳も、そうだそうだ、というようにちょこんと折りたたまれていた。
座学を終え、めいめいが銃を借りだされてその扱いについて説明を受ける。
面白いことに、アニスより先に来ていた連中は、元騎士団見習いだったエリオットも含めて、銃器も罠も、魔獣に関する基礎知識の筆記試験も、応急処置のやり方だってそう。
その場にいた四十数名のうち、彼ら五人は魔猟に関しての基礎的な部分で、異彩を放っていた。




