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異獣ハンター  作者: 港川レイジ
6/35

異獣狩り

 「リンダ!」

 ベンの合図で銃撃を異獣に浴びせ撃つ。

 ずんぐりとした巨体に分厚く垂れ下がった皮膚、まるで機械の吸い込み口のような六角形の巨大な口をした異獣、ムンタム。

 こいつはただ何もかもを食らう暴食獣だ。植物も生物も飽き果てる事の無い食欲のまま食らい尽くす生きた災害だ。

 口だけで顔は無く、広がった大きな鼻だけが口の上に付いている。

 強固な鱗は持たないが分厚い皮膚は貫通力に優れた銃弾であっても貫通せずに止まってしまう。それでも撃ち続ければやがて死ぬが、それでは余りにも非効率だ。

 小回りの利くケンが前線で翻弄し、背後からヒュームがハルバードで身体を切り裂いて隙を作る。それを何度も繰り返せば皮膚も切り裂かれ身体へと届く。

 ハルバードを深々と傷口に刺し込まれムンタムは地の底から響くような重く低い絶叫を上げ口を大きく開いた。それを狙ってリンダは銃を撃った。

 体内に打ち込まれた弾丸は体内に命中すると炸裂して一気に燃え上がった。ムンタムは口から火を噴いて暴れ出す。巨体故に小さな地鳴りが響く。

 やがて全身が燃え尽きて動かなくなり、溶けて消えた。

 「燃炎弾・・・凄い」

 「こういう奴にはうってつけだ。どんなに外皮が強靭でも内側から燃えれば意味が無いからな」

 散々走り回ったケンとヒュームは疲れていたがまだ余裕を見せていた。

 「依頼はムンタム一匹だけだよな?」

 「そのはず」

 跡に残った異石は巨体とは不釣り合いの小ささだった。

 「分かっていてもげんなりするんだよな・・・」

 「文句を言うな。異獣狩りで得られる異石は基本こんなもんだ」

 重々承知しているが、それでも大異石ぐらいの物は望んでいる。正直もう少し懐を温かくしたいが、中々そうはいかないのだ。

 「ま、人のお礼が最大の報酬なんだけどな」

 依頼を出した村の人達が口々にお礼の言葉を述べて頭を下げる。人を助け、人が助かった。それが一番の報酬だ。

 帰り際、輸送車に揺られながらリンダは村をじっと見つめていた。

 「異獣がいても、住み続けた村って捨てられないんだね」

 「ネツクみたいな城塞都市を除いてある村や町は異獣が出現するより昔から続いている。そうじゃなかったら今時外で村や町を造る奴はいない。中にはハンターを雇っている所もあるが、協会への貸し出し料とハンターへの報酬は馬鹿にならない。だからああいう小さな村は依頼を出すしかないのさ」

 先祖代々住み続けた土地と言うのは、他人が思う程簡単に捨てられるものではない。積み上げてきた、築き上げてきた暮らしと文化がある。それを捨てて全く新しい生活をするなど簡単に出来るものではない。

 「だから僕達が必要なんだ。そんな人達を守る為に」

 「人、助ける。これ、とても大切」

 「うん!」

 何時の間にか二人の信念がリンダにも浸透していた。

 リンダと共に過ごすようになってしばらく経つが、ケンはまだリンダの顔を直視できないでいた。


                       *


 異獣ハンターは協会からの指令が無い限りは個人の判断で依頼を請け負い仕事をこなす。つまり仕事のペースは自分で決められる。一度ハンターになれば自ら引退を申告するか、問題を起こし不適格と判断されない限りクビになる事は無い。

 とは言え仕事をしてもらわないと困るので病気や怪我などの理由が無い限り最低でも月に一度は依頼を果たさないと資格剥奪となる。人材不足でもやる気のない者に協会の手当てを与える訳にはいかないのだ。

 「異獣ハンターってどんな施設も半額で利用できるんだね」

 三人はレストランで食事をしていた。他人が唖然とする程の料理がテーブルに並べられているがそのほとんどはヒュームが食べるのだ。

 「まあな。ホテルに日用品と衣服も一律半額だ。この代金は協会が負担してるんだ」

 「そうなの?」

 「僕達が協会に異石を渡すだろ?実は異石の報酬で手渡されるのは半分なんだ。残り半分は協会の運営資金とハンターの半額サービスに使われてる」

 「・・・それって、意味ないような」

 「意味はある」

 協会から戻ってきたベンが席に座った。

 「小さな異石でも普通の仕事の給料と同等の報酬が支払われる。大異石なら年収分は優に超える。異石にはそれだけの価値があるのさ」

 「やっぱり凄いんだ」

 価値は即ち必要性と需要を表している。この世界に異石は必要不可欠なのだ。

 「そう言ってもハンター用の武器とか弾は半額対象外だからあっという間に金は吹き飛ぶんだけどな。それに僕達は」

 ケンはちらりとヒュームに視線を送る。あれだけあった料理がもう無くなっている。

 「食費がかさむ」

 ヒュームは実に満ち足りた笑顔を浮かべている。幸せとはこう言う事を言うのだろう。

 ベンは依頼書を机に叩き付けた。

 「信念も良いがいい加減貯金を覚えろ。稼ぐ事を学べ。貸しを作ったままでは俺も困るからな。次はこの仕事だ。休んだら行くぞ」

 「今日もうやったのに!?」

 「ベテランは一日に五つの依頼をこなしたりするぞ」

 「僕達をそれにカウントするなよ」

 とは言え引き受けた依頼を拒否したりはしない。依頼は果たす、それもまた信念だ。

 食休み後輸送車に揺られ目的地へと運ばれた。

 草原を流れる綺麗な小川が見るも無残にどす黒く濁っている。粘り気のある黒い体液が下流へと流れ川岸には魚の死骸が散乱してる。

 「酷い・・・」

 ガスマスク越しだから四人は気付いていないが腐臭と水の腐った臭いが周囲に漂っておりとてもではないが息が出来るような場所ではない。

 「川や海にも異獣は現れる。被害が明確で甚大だから早急な討伐を求められる」

 「だから急いでいたんだ」

 このまま放置すれば川の水を介して土壌が汚染され甚大な被害が発生するだろう。

 「さて、そろそろお出ましだな」

 小川まで十メートルの範囲に足を踏み入れると水の中から異獣が飛び出してきた。

 それは子牛程の大きさのある蛙だ。全身イボ塗れで頭部には大小不揃いな眼球を無数に付いている。

 率直に言って醜悪だ。ここまでくると芸術品並みの気持ち悪さだ。

 「グルパウンドだ。あいつらは長い舌と強酸を吐いてくるから距離を取って戦え」

 「あいつらって」

 川の中から次から次へと這い出してくる。その数は優に二十を超える。

 「いやー!!」

 女性でなくとも絶叫ものの光景だ。取り乱して銃を乱射しそうになったがベンが腕を掴んで押しとめた。

 「才能はあってもまだまだ実践不足だな」

 ベンはグルパウンドの群れの中を指さした。群れの真ん中に球体のボールが落ちている。

 次の瞬間ボールが弾け鎧越しでも伝わる程の冷気が噴き出した。グルパウンド達は濁った声で鳴き、冷気を間近で受けた個体は身体の半分以上が凍り付いている。

 「さあ撃て!」

 凍り付いた身体は一撃で砕け半ば以上凍った身体は易々と砕け散る。あっという間に半分が片付いたが、冷気から距離のあった個体は銃撃を飛んで避け濁った唾を吐きながら気分が悪くなる声で吠えた。

 数体が上体を起こして黄色色の液体を吐いてきた。狙われたのはヒュームだ。大柄故に的にされやすいが、それ故に攻撃の予測はつく。

 横に飛んで液体をかわす。液体は地面に掛かり嫌な音を立てながら地面を溶かしていく。

 「気を付けろ。浴びたら鎧の買い替えだからな」

 「丈夫だね」

 だが安心は出来ない。守りは何時までも万全ではいられない。

 ヒュームはハルバードを投げつけ一体を処理した。

 口から勢いよく舌が飛び出してくる。その速さは目視する事も困難だ。鎧越しに直撃を受けるがケンは僅かに体勢を崩しただけだ。

 「その程度じゃ貫けないぞ」

 ベンは地面に一発の弾丸を撃ち込んだ。すると地面から電流が走りグルパウンド達は激しく痙攣した。

 後はベンとリンダが銃で半分を処理し、ケンとヒュームが近接で半分を片付けた。

 「この異獣、思っていたより危険だったね」

 「ああ。鎧で強酸を防げると言っても一度が限界だ。その上動きは鈍くなるし脆くなった鎧は舌の一撃を防げない。

 だからこれを使ったのさ」

 凍り付いた地面の上に先程の玉のパーツが転がっている。

 「凍結玉。内部に超圧縮された冷気を一気に解放させて異獣を凍らせる武器だ。さっきの電流弾もそうだが、対異獣用にこう言った武器も作られているんだ」

 「けど、ケンは使わないよ?」

 「使えないんだ。これ、物凄く高いから。僕達じゃ買っても割に合わないんだよ」

 「燃炎弾はまだ安いが、電流弾は一発異石と同等、凍結玉は大異石と同じぐらい金が掛かるからな」

 「そんな高い物使って良かったの!?」

 「後進の育成の為なら躊躇う事は無いさ」

 (気にするな)と穏やかな眼差しを向けてくる。

 「これでも売りに出された頃に比べれば大分安くなったんだ。初めの頃は軍隊しか使用できない割高品だったからな」

 「そうなんだ」

 そんな風に話している間にヒュームが異石を回収し終えた。

 「異石、沢山!」

 袋の中には異石が二十個も入っている。

 「これでしばらくはお金に困らないね!」

 悍ましい異石もこの時ばかりは輝いて見えた。

 「いや、この程度の金異獣ハンターなら一月で消し飛ぶぞ」

 「そうなの!?」

 「鎧や武器のメンテナンスもそうだが、俺達が常用する銃の弾やこういった特殊武器も半額対象外でその上割高だからな。

 けど、これぐらいを仕留めるのが普通なら貯金は充分出来る。大体のハンターは一度に十から二十体の異獣を仕留める。そうじゃないと稼ぎにならないからな。依頼人の報酬ははっきり言っておまけだ」

 「それじゃあ」

 ケンは微妙な笑みを浮かべて「帰ろうぜ」とヒュームと共に先に輸送車に戻っていく。

 「草抜きって言うのはそう言う事だよ。異獣は一匹でも人に及ぼす被害は甚大だ。だが異獣ハンターからすれば一匹の異獣を仕留めても全く利益にならない。むしろマイナスだ。

 人の為に頑張る。それは口で言う程簡単な事じゃないのさ」

 人助けとは労力と対価が釣り合わないものだ。それどころか無償で尽くさなければならない事もある。魚心あれば水心と言うが、必ずしもそれが出来る人などそういない。

 ましてやこの世界、狩りの獲物が少なければ不利益を被るのは自分達だ。だから実りの無い依頼は放置される。

 「どれだけ自分達が苦労しても人の為なら苦ではない。大した英雄だと思わないか?」

 「・・・うん」

 純粋にかっこよかった。ベンに促されなければこの場に夜まで立ち尽くしていただろう。

 ネツクに戻るとベンは一旦三人と別れて異石の換金と依頼の確認の為に協会に赴いた。依頼は基本的に早い者勝ちだ。一度引き受ければ自らが取り消さない限り他人が引き受ける事は出来ない。

 「ベン。あの子の調子はどうなの?」

 換金を終え掲示板を眺めているとルージュに声を掛けられた。

 「気になるのか?」

 「試験一位合格よ?気になるに決まってるじゃない。あなたが育ててるのなら、今期最高の有望株ね」

 「プレッシャーを掛けるなよ。俺はあいつらを自然に鍛えてるだけだ」

 「よく言うわ」

 掲示板から視線をルージュに移した。

 「それで、頼みはなんだ?」

 「察しが良くて助かるわ。あなたに手伝ってほしい事があるのよ」


                       *


 「私はベンに手伝ってほしいのであってこの子達に手伝ってほしい訳じゃなかったんだけど」

 集まった三人を見てルージュは苦言を呈した。

 「経験を積ませないと成長しないからな。何、俺とお前がいれば大丈夫さ」

 「そ、そう?・・・まあ、後進の育成は先輩の務めだしね」

 偉大な先輩に頼りになると言われれば嬉しくない訳が無い。ルージュはまんざらでもなさそうだ。

 「よろしくお願いします。ルージュさん」

 「あなたが新人のリンダね。どう?この二人の先輩は?」

 「尊敬出来ます。あたしも二人のような人になりたいです」

 憧れと敬意を抱いた眼差しにルージュはニヤリと笑みを浮かべた。

 「良い先輩してるようで良し」

 「ルージュさん・・・」

 立ち話しもそこそこに輸送車に乗り込んで目的地に向かう。

 「ところで、話しはベンから聞いてる?」

 「聞いてる。フォーベンの討伐だよな」

 「なら説明の必要も無いわね」

 「あの、どうしてベンさんを頼ったんですか?ルージュさんも一緒に戦ってくれる人がいますよね」

 ルージュは情けないと言いたげに肩を竦めた。

 「以前新種の異獣、テンレイドが出現したでしょう?それもレアスクに認定される程の危険な異獣よ。過去に出たレアスクは全て既存の異獣が長い時間を掛けて強大に成長した個体だけど、テンレイドは新種で何の情報も無いのよ。つまり、事前に打てる対策が限られている。

 三百年前に異獣が出現して以降、人類は異獣に対抗する為に世界に出現する異獣を徹底的に調べ上げた。多くの犠牲の果てに、私達は異獣に対する前知識を得る事が出来るようになった。言い換えればそれに頼りすぎているのよ。

 この近辺にいるテンレイドが何時、何処で襲ってくるか分からない以上、ハイは協会の指令以外で極力動こうとはしないわね」

 ベンは溜め息を吐いた。

 「ハイまでくればもう引退後は安寧な暮らしは約束されたも同然なの。つまり死にたくないのよ。命は一つしかない。大切にするのは当然だし悲しむ人がいるのも理解出来るわ。けど異獣ハンターとしては正しいとは思えないけどね」

 仕事には役割が存在する。その役割を果たしてこそ仕事に就いている責任が果たせるのだ。命を賭す仕事ならば、何時かくるその時に備えて覚悟を決めなければならない。

 「だけど責めたりは出来ないわ。誰だって死にたくない、私だって死にたくないもの。これまで関わってきた人達を悲しませない為に、生きる為に戦うのよ」

 「生きる為に戦う・・・」

 矛盾しているようで正しい。守るべき者、助けるべき者の為に戦う。それが異獣ハンターのあるべき姿だ。

 「だからと言ってハイハンターが怖がってたら異獣ハンターとしての示しがつかないがな」

 「まあね。でもそれは人だからしょうがないでしょ」

 何もかも完璧で優れた人など存在しないのだ。不満を漏らしてもきりが無い。

 「ルージュさんは、ケンと似てますね」

 「えっ?」

 突然似てると言われケンは豆鉄砲を食らったような顔になる。

 「へえ、私がこの子に似てるか」

 ルージュはじっとケンを見つめた。その瞳は外面だけでなく内面も見透かしているかのようだ。

 「確かに似てるかもしれないわね」

 クスクスと笑うルージュにケンは何とも言えない表情で頭を掻いた。

 長い時間車に揺られ、目的地に着いた時にはもう夜になっていた。懐中石灯を持って夜道を照らす。勿論これも異石を燃料に光を発している。

 車を降りると岩が転がる荒野が広がっていた。風が吹けば砂埃が吹き付けてきて兜の視界を悪くする。

 「随分と環境が悪い場所だな」

 「フォーベンはこういう荒れ地や荒野を好むからね。闇夜に狙ってくるから気を付けてね」

 「それで、どうするんですか?」

 「何もしないわ」

 信じられない答えにリンダは目を丸くした。

 「こんな場所で歩き回ったら私達にとって不利にしかならないわ。どうせ向こうは夜行性で飛び回るからあっちから来てくれるのを待つのよ」

 異獣を知り尽くしたプロの判断だ。知識もまた力なのだ。

 (でも、何も知らなかった出鱈目に歩き回って疲れたところを狙われるだろうし、そもそも夜行性を知らなかったら休んでいる所を襲われる。

 本当に、人は異獣と必死に戦ってきたんだ)

 今、自分達がこうした恩恵に与れるのは多くの犠牲の元に成り立っている。リンダは足元に無数の躯が積まれている光景を幻視した。

 「あたし達がしっかりしないと」

 先人達の為にも必ずフォーベンを倒すと決意した。

 今の状態は釣りに似ている。餌は自分達で獲物が掛かるのをただじっと待つのだ。それは楽なようで辛い作業だ。油断は出来ない。気を抜けない。張り詰めた神経は徐々に体力と精神を削り取っていく。

 もっともそんな状態になるのはケンとヒュームとリンダの三人で、ベテランは落ち着いていた。

 「異獣がいなかったらこんな場所を旅してみたかったわね」

 「なんだ?お前、旅がしたいのか?」

 ベンは少々驚いていた。初耳だったのだろう。

 「こんな世界だからネツクに引き籠って十数年ハンターやってるけど、出来るなら旅をして、世界を観て周りたいわよ。

 その為には」

 闇夜の空に黒い影が走った。直後、ルージュは一発の弾丸を放ちそいつを撃ち抜いた。胴体が弾け飛びバラバラになった身体が落ちてくる。

 「こいつらを片付けないとね」

 地面に落ちてきたそれは大型の鳥だ。禿げ上がった頭部には円を描くように八つの目が付いている。身体は異獣体液とは異なる液でべたついている。

 「触れたら駄目よ。こいつの羽、見た目以上に重いから。一つ付くだけで肩が上がらなくなるわよ」

 「これがフォーベン」

 「そうよ。さあお出ましよ」

 夜空に異獣の鳥達が舞い、見つけた獲物に歓喜するように甲高い鳴き声を上げる。ガラスを引っ掻いたような声は聞くに堪えない。

 「折角の夜景が台無しでしょ!」

 ルージュの銃はライフル型だ。通常の銃は機動性と連射力、取り回しの良さが求められる。咄嗟の反撃、動きやすさ、連射による足止め、それがハンターの扱う銃の基本だ。

 どれだけ威力が高くても単発ずつしか打てないのでは確実に当てなければならない。外して隙を見せれば即ち死だ。

 ならばそれが出来る技術と腕があれば問題ない。暗闇を飛び交い闇に隠れるフォーベンを次々と撃ち落していく。一発も外していない。

 「す、凄い」

 息を呑む程の腕前だ。ケンとヒュームもその腕前に言葉なく称賛した。

 「流石だな。前よりももっと腕を上げたんじゃないか?」

 「お褒めの言葉は後よ!そろそろ援護して!」

 フォーベンは上空で激しく翼をばたつかせると羽が抜け落ちてきた。鳥の羽とは思えない勢いで落ちてきて地面に鈍く重い音を立てて落ちる。地面にめり込み羽が積み重なった岩は重量に耐え切れず砕けてしまった。

 銃を乱射して落ちてくる羽を弾き飛ばす。しかし的が小さい上に暗闇で見えない事もあり全ては撃ち落せない。自分達に向かって落ちてくる羽をヒュームが受け止めた。力のあるヒュームも羽が何枚も張り付けば重さに耐えきれず膝を付いた。

 その隙を逃さずフォーベンはヒュームに襲い掛かる。その脚は鳥とは思えない程に大きく太く、背筋がゾッとする程の鋭利な爪が生えている。硬質な嘴は力強く鎧に打ち付けても砕ける事無く固い音が響き渡る。

 ヒュームがこうして囮になる事はあらかじめ決まっていた。普通の人間なら鎧越しに持ち上げられ宙に攫われてしまう。しかし圧倒的重量の鎧を着こんだヒュームはフォーベンの力でも持ち上がらず苛立たし気な鳴き声を上げる。

 狙われる事が分かっていれば対処余裕だ。ヒュームに触れていたフォーベンは身体に電流が走り「キー!」と耳障りな悲鳴を上げ地面に落ちる。動かなければただの的だ。たちまちケンとベンに始末された。

 ベンがあらかじめヒュームに電流トラップを仕掛けたのだ。ヒュームも痺れるが、動かないのであれば支障はない。

(あの子、銃の扱いが上手いわ)

リンダはみだらに乱射せず、確実に命中するタイミングで銃を撃っている。こういった夜戦では異獣に利がある。黒い身体を闇夜が隠し、夜目に慣れない人は相手を補足できずとにかく撃ち続けてしまう。

それは、ベンのような熟練ハンターであっても同じだ。ある程度の予測、影の動きなどで攻撃は出来るがどうしても無駄は出てしまう。さりとて攻撃の手を止めれば死ぬ事になる。

ルージュとリンダは確実に、的確に、無駄なくフォーベンを仕留めた。襲い掛かってくるフォーベンは逆に的を晒す事になり、爪が届く前に撃ち抜かれて地面に落ちて溶けた。

ほとんどがフォーベンがヒュームに気を引かれた事もありルージュとリンダは実にスムーズに狩る事が出来た。終わってみればものの数分で片付いてしまった。

「ヒューム、大丈夫か?」

「このぐらい、平気」

「流石重圧な鎧だな。ほとんど傷が付いてない」

ヒュームは何事も無いように立ち上がり軽く肩を回した。

「皆助かったわ。流石に私一人でこいつら相手にするのはきつくてね」

「狩りは仲間とやるものだ。ハイでもノーマルでもそれは変わらない」

「そうね。それに、良いものが見れたし」

ルージュはリンダの肩に手を置いた。

「あなた見込みがあるわ。コモンであの銃の腕前、凄い才能よ。どう?私の特訓受けてみない?」 

「えっ?えっと・・・」

突然すぎて戸惑った。

「受けてみれば良い。才能を見出してもらったのなら鍛えてもらえ。銃の腕前だったら俺よりもルージュが上だ。ここ何日か見ていて俺も気づいていたからな」

「あなた、もしかしてこの子を見せる為に手伝ってくれたの?」

「助けにはなっただろ?」

「本当に・・・」

才能を引き出し、心身を伸ばし、才能をある者を伸ばせる者へと引き合わせる。優れた指導者とはそう言うものだ。

「なあ、早く異石拾って帰ろうよ!」

「あっと、忘れる所だったわ」

異石は暗所であっても鈍い独特の輝きを放つ。故に暗闇であっても物陰に落ちても問題なく拾う事が出来るのだ。


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