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異獣ハンター  作者: 港川レイジ
11/35

岩石の異獣

 パンハイムの護衛を請け負って二日。船が出るまでの間ポルトの街で過ごす訳だが何かやる事がある訳でもない。

 街を散策すれば確かに見る物全てが新鮮で楽しくはあるのだが、観光客気分で過ごせる程楽観的になる訳にはいかない。常に周囲に気を張るものだから特にルージュが疲れてしまった。

 「お前さん方は余裕が無い過ごし方をするのう」

 特大海老の蒸し焼きを豪快に頬張りパンハイムは哀れみを込めて言う。

 「呑気にはしていられないのよ」

 「気を抜く事も大事じゃ。常に背伸びをしていたらいずれ身体が壊れてしまうぞ。気を変える為にもポルトのハンター達を尋ねたらどうだ?きっと気分転換にはなると思うぞ」

 「ポルトにハンターがいるんだ。雇われてるんだっけ」

 「そうだよ」

 大盛りのシーフードスパゲッティを運んできた女将が答えた。

 「街の入り口に詰め所があるから行ってみたらどうだい?依頼はハンターに言伝と依頼量を協会に渡してもらって受けてもらうのが基本だけど、雇ってるハンターに頼む事もあるからね」

 「つまり、何か手伝ってほしい問題があるのね」

 「問題と言えば問題だけど・・・まあ行ってごらんよ」

 今一つ歯切れの悪い物言い。自分達に向ける冷ややかな視線。

 (ハンターがらみの問題か)

 出来れば楽しい思い出でポルトの街を過ごしたかったがそうもいかないようだ。

 食後、入り口にある詰め所に行けば四人のハンター達が難しい顔をして黙り込んでいた。

 「あいつら何してんだ?」

 「考えるより聞く事ね」

 ルージュは詰め所に入り「何をしてるの?」と声を掛けた。ハンター達は鬱陶しそうに顔を上げ、ルージュの姿を見て仰天し一人は椅子から転げ落ちた。

 「ルージュさん!?何でここに!?」

 「二日前からポルトにいるわよ。あなた達確か、中堅のノーマルハンターよね?何度か顔は見た事があるわ」

 「いやあ、覚えてもらっていて光栄ですよ」

 四人揃って乾いた声で笑う。何かを必死で隠しているのだがこれではバレバレだ。

 「それで、何を隠してるの?」

 「隠すなんて、人聞きが悪い」

 明らかに挙動不審な態度になる。悲しい程に演技が下手だ。

 「大人しく白状すれば黙っておいてあげる。黙るのなら連絡係のハンターに伝えるわ」

 護衛ハンター達は一様に青ざめ、観念したように項垂れ一枚の紙と金の入った鞄を持ってきた。

 「・・・あなた達ね、護衛は強制ではなく立候補制でしょ?自分で決めてなったんだから不正に手を出すんじゃないわよ」

 返す言葉も無く、反省して黙り込んでいる。

 「こいつら、まさか依頼をくすねとったのか?」 

 他人が請け負った依頼を横取りするのは違反行為にあたる。当然街の人がハンター協会に出す依頼を横取りするのも違反だ。直接頼まれたのなら問題は無いが、それでも協会を通すのが基本である。

 依頼はハンター協会が厳正な判断と調査の元ランク、人数、難度を示して提示する。勝手な判断で依頼を受けて挑んでも異獣の種類すら判明していないのだ。銃が通じない異獣もいる。特異な能力を有している異獣もいる。前情報も無く挑むのは危険なのだ。

 突っかかりそうになったケンを腕を出して制した。

 「護衛はね、ハンター協会と雇われている街から支払われる報酬しかないのよ。異獣の襲撃もそう頻繁にある訳じゃない。異獣は何故か村や街を余り襲わず、小集団でいる人を襲う、それは知っているでしょう?報酬金だけじゃ異獣ハンターとしては余りにも低賃金なのよ」

 「だからって、依頼を果たせなかったら困るのは街の人だろ!」

 その言葉は直接殴られるよりも痛かった。

 「まさにその通りね。あなた達、依頼をくすねとったのは良いけど異獣に敵わなくて困っていたんでしょう?」

 「・・・はい」

 「それで何時ハンター協会に連絡が行くか怖がってた?これ、何時の依頼?」

 優しい言葉が余りにも恐ろしすぎて護衛ハンター達は失禁しそうになるぐらい震えていた。三十過ぎた大人達なのに情けなさすぎる。

 「同じ男として、恥ずかしい」

 止めの一撃は純粋な言葉だ。

 「ヒューム。それは、流石に言ったらいけない事だと思うよ」

 「こう言う事、言わないと駄目」

 リンダには流石に言い過ぎに思えたが、ルージュは呆れ顔を浮かべるばかりで何も言わない。

 「言わせておけよ。駄目な事は駄目って言わないと、伝わらないだろ」

 ケンの声は寒々しい程に感情が無かった。何故かリンダは自分が責められている気がして身を縮めた。

 「三日前だ。鉱山の中に異獣が出たから退治してほしいって事が決まって、俺達が依頼量を割り引く条件で受けたんだ」

 やがて一人の護衛ハンターが白状した。

 「成程ね。準備を理由に時間稼ぎか。日も浅いからまだ問題になっていないのね」

 呆れて物も言えないとはまさにこの事だろう。もう溜め息も出ない。

 「さっさと鉱山の異獣を倒しに行くわよ」

 「手伝ってくれるのか?」

 「ポルトの街には鉱山が必要不可欠なんでしょう?だったら早く倒す!放っておけば被害も出る!

 あなた達はここで責任をもってポルトを守りなさい。それが役目でしょう?護衛のハンターがいなくなれば街の人が不安になるんだから、しっかりしなさい」

 厳しい面持ちで自分達の勝手がどれだけ迷惑になっているかを教えると一様に申し訳なさそうな顔になる。

 「ごめんね皆。流石にこれは、放っておけない」

 「僕もだよ。こんなの見過ごせない」

 「俺、助ける」

 「困っている人は助けたいです」


                        *


 異石は燃料として世界中で使用されてはいるが、異石を得る為には異獣ハンターが命懸けで異獣と戦い手に入れなければならない。対異獣用の武具や各種道具の材料など用途は多岐に渡る。故にその価値は一般人がランプのオイルを買うように気軽に買える値段ではない。

 その為多くの場所では馬車や牛車が移動手段として常用されている。工業の街であってもそれは同じだ。四人は生まれて初めて乗る馬車に興奮していた。

 「輸送車よりも乗り心地が良いな」

 「お馬さん力持ちですね」

 完全武装した異獣ハンターを運ぶのはかなりの力がいるので馬は三頭駆り出された。

 今更だが、鎧は身体の関節に合わせて分解でき持ち運びがしやすいようになっている。パーツの繋ぎ目を嵌めれば完全密閉されるの。一般に鎧の買い替え時期は繋ぎ目が緩くなり隙間が出来始めた頃とされている。

 「この馬達は採掘された鉄鉱石を運ぶ為に鍛えられてるからな。けど、やっぱり効率は悪いんだ。何しろ人も物も運ぶので何度も往復するから馬が何頭いても追いつかないんだよ」

 「それは馬も大変ね」

 「異石はマルクトに持っていかれちまうからな。輸送車みたいに俺達でも気軽に使える乗り物が欲しいもんだよ」

 人を暮らす場所を繋いでも、このように遠くまで外に出かける際は不便で危険だ。

 「頑張れば、何時か出来ると思います」

 「何時かか。正直、エターナ軍が怖いから考えたくないんだよな」

 高価で価値の高い異石を使わずに輸送車のような乗り物を動かせるようになったら異石の価値が下がりエターナ軍は勿論、ハンター達も不利益を被るので黙ってはいないだろう。

 「異石は溶かす事は誰にでも出来るけど、武具も道具も全部をエターナが技術を手中にしてるから模倣は出来ないのよね。マルクトが最も強くあって不安分子を抑える為に技術を口外できないのだろうけど、余り共感は出来ないわね」

 技術を広めれば世界規模で大きな発展が望めるだろう。異獣に対しても強く出れるようになるし、危険な馬車で無く安全な移動手段も造られるかもしれない。

 「いずれ何かが変わってくれる事を祈るしかないな」

 それしか出来ない。大体の人は祈る事しか出来ない。世界がより良く変わるように待ち望む事しか出来ない。

 (祈るだけじゃ駄目なんだ。行動を起こさないと駄目なんだ)

 故に、変える為に行動できる人は良くも悪くも偉大だろう。

 程なくして馬車は鉱山へと着いた。無数のレールが敷かれており採掘された鉄鉱石を運ぶ為のトロッコが無造作に置いてある。

 普段なら工夫達が働いて活気に溢れている鉱山だが、今は誰もおらず薄ら寒い雰囲気に包まれていた。

 「作業中突然異獣が鉱山内に現れたんだ。固い岩みたいな奴で、ハンターの銃も通じなかったそうだぞ」

 「任せておいて。

 ケン。ヒューム。リンダ。鉱山の異獣、アブゾーラーはあなた達が倒すのよ」

 「あんたは行かないのか?」

 「私が行ったら誰が護衛に残るの?何時も護衛のハンターがいるんでしょ?」

 何時なんどき異獣が襲ってくるか予測は付かない。突然、前ぶりなく異獣は現れる。防衛には遠距離で高い破壊力を持ち経験豊富なルージュが一番適任なのだ。

 「大丈夫。この子達の腕は確かよ」

 「けど、手練れのハンターも駄目だったからな」

 御者はそれでも不安そうだが。戦鎚を構えるヒュームの姿に圧倒的な膂力を感じ、それ以上は反論しなかった。

 そうして三人には鉱山内に足を踏み入れた。事前の話しではこの鉱山は正面に大きな穴を掘りそこから蟻の巣のように細い穴を掘り進めているとの事だ。その為真っ直ぐ進んで戻るだけなら迷う事は絶対にない。

 懐中石灯で道を照らし岩に注意を払いつつ進む。

 「アブゾーラーって確か鉱石に擬態する異獣じゃなかった?」

 「正確には自然に存在する岩や鉄なんかと同化出来るんだ。岩の異獣って呼ばれているのはそれが基本の姿だからで、ここでは間違いなく鉄だろうな」

 「けど、鉄なら砕ける」

 ヒュームは戦鎚を振るいぶおんと音を鳴らす。

 「そうだな。アブゾーラーなら」

 ケンはジャマダハルを構えると目の前の岩に突き刺した。

 「銃よりもこっちだ」

 岩は大きく震えると弾け飛ぶ。放たれた矢の如く勢いがあり、鎧を身に付けていない人間では岩の嵐を受けて原型を留めてはいられないだろう。

 通常、巨岩であっても岩ならば鎧にこの勢いでぶつかれば砕け散る。しかし岩は軽く欠ける程度で砕ける物は一つも無い。

 飛び散った岩は三人の背後で集まると巨大な目玉の形へとなる。岩は徐々に鉄へと変化していく。

 「擬態してたのか。大した知恵じゃないか」

 アブゾーラーを纏う岩はまるで生きているかのように蠢いている。三人を見据えるとアブゾーラーは自分と同じ目玉の形をした岩を飛ばしてきた。虫のような六本の足が生えている。

 「避けろ!」

 それは単純に回避する為ではない。頭に張り付かせるなと言う意味だ。

 ヒュームは戦鎚で目玉の一つを叩き潰し、ケンはジャマダハルで突き刺した。残りの一つはヒュームに張り付き気持ち悪い動きで身体を上って行く。

 「最悪の虫」

 クレイモアではたき落とし叩き潰した。

 アブゾーラーの岩が不愉快気に蠢いた。容易い獲物じゃないから苛立っている。

 「こいつは自分の分身を生物に取り憑かせて操れる。一度取り憑かれたら絶対に助からないし、鎧越しでも離れなくなる。

 本体は中心にあるが、それを周りの岩が守っている。普通なら大人数で銃を撃ち続けて外殻を砕くんだけど」

 ケンはリンダの方を向く。

 「任せて良いんだな?」

 「うん」

 あの時エターナの軍人を抑えつけていた力。リンダはあの力を今まで傷を治す以外に使ってこなかった。使い方を知らなかったから。

 この力を上手く扱えるようになれば今後の力になる。何より、リンダ自身も自分に何処までの事が出来るのかしっかりと確かめたい。

 鎧を脱いで上半身を露わにする。わざわざ身を晒した愚かな獲物を見逃さない。アブソーラーから目玉岩が飛び出した。

 リンダの右腕が肉となり広がり目玉を受け止め、一気に包み込むと肉の中で粉砕される音がした。肉から鉄の欠片が零れ落ちる。

 恐怖を抱かない異獣も、これには動揺を隠せず瞳を構成する鉄が激しく波打つ。

 「いくよ!」

 両腕を重ねると結合し花開くように肉が広がる。想定外の動きだが、本能で攻撃を仕掛けてくる。身体を弾け飛ばし鉄の砲撃が肉膜に激突する。人間の身体など一撃粉砕する勢いがあるのに肉膜は柔らかく衝撃を受け止め、アブゾーラーの抵抗は意味をなさず吞み込まれた。

 「凄いな」

 「鎧越しでも、吹き飛ばされる、人いるのに」

 ゴムのような弾力があるのだろうか?傷を治せる事といい、ますますもって人知を超越した力だ。

中からは聞こえてくる鉄が砕ける音と共にアブゾーラーの金属音の悲鳴が聞こえてくる。坑道内で反響してわんわんと響き渡る。聞いていて良いものじゃないのは言うまでもない。

「後は本体だけだけど、どうする?」

「一応、直接止めを刺すか」

まさか異石を砕くとは思えないが、念の為だ。それに、何もかもをリンダに任せっきりにしたくはない。

肉膜が開くと鉄の瓦礫と共に蜘蛛の足を生やした鉄の塊が転がり出た。地面に下りると鳥肌が立つ足の動きで逃げようとするがリンダの肉で身体を縛られているので逃げる事は出来なかった。

「これがアブゾーラーの本体」

「小さいだろ。こいつは単体じゃ弱いから岩を操って自分を守る殻にするんだ。そして岩に自分の破片を埋め込んで分身にする。群生体に見えたのも相手を欺く為の擬態だ。

そうして岩から別の自然物を取り込んで性質を変えていくんだ」

「ダイヤになった、アブゾーラーもいる」

なんて贅沢な能力を持った異獣だろうか。

「そのせいでお宝がアブゾーラーだったなんて事もあるんだけどな」

「それはとてもガッカリするね」

「逆に言えば近くにお宝がある証拠なんだけどな」

ケンはジャマダハルでアブゾーラーを突き刺した。岩でも溶けて消えるのは同じだ。その後に残っていた異石は灰色が混じっていた。

「まじか、異玉じゃんか!」

「異玉!?」

「凄い!初めて見た!」

同じ土地に長く生きた異獣の異石が土地の色と同じに染まった物だ。大きさは異石と変わらないが宿しているエネルギーは大異石と同等だ。それ故に価値も相当に高い。

「けど、そんなに手強くなかったよね?これで異玉なんだ」

「いや、手強いんだよ。ノーマルでも僕達より歴の長いハンター達が協力しても駄目だっただろう?こいつは強いんだよ。

外殻をいくら破壊しても本体に届かなかったら意味が無いし放っておけばまた元に戻ってる。鎧越しなら操られる心配は無くても鎧と同化して離れなくなるから買い替えを余儀なくされるし、あの炸裂もまともに受けたらヒュームはともかく僕なら吹き飛ばされてる。それにアブゾーラーは周囲の景色と同化できるから追い詰めても逃げられる場合も多い。

厄介な要素が多すぎるんだ。多分こいつも、そうやって生き延びてハンターを返り討ちにしてここに流れ着いたんだろうな」

「だから、長く生きた証、出来てる」

「そうなんだ・・・」

自分の腕に力を込めると内側で肉に力が籠っているのを実感する。

厄介とされている相手をこうも容易く仕留められる自分は、それ以上に厄介な存在ではないのだろか?自分で自分が怖くなる。

「リンダ、よくやった。アブゾーラー、人操る。操って、人を襲わせる。とても危険。被害無い内に倒せた、それが一番。

リンダ、怖くない。リンダは良い人。人の為に頑張った」

「ありがとう」

そう、自分は本能赴くまま人を襲う異獣ではない。ちゃんと心を持っている。自分自身がなんであれ、それを忘れなかったらきっと大丈夫のはずだ。

「それじゃあ帰ろうか。ルージュさんも待ちくたびれてるだろうし」

「そんな事はないだろうけど」

先を行くリンダの後から二人は行く。

「ケン。どうして何も、言わないの?」

「・・・・・・」

「まだ、駄目なの?」

「僕は、駄目だな・・・」

あの後姿を見ると、昔の景色が目の前に再現される。

目を合わせられるようになった。少しずつ慣れてきた。それでも、妹の姿と重なってしまう。言葉が出なくなってしまう。感情が荒れ狂って爆発しそうになる。

「駄目じゃない。ケン、ちょっとずつ、歩み寄ってる」

「ヒュームのお陰だよ」

ヒュームはにこりと笑みを浮かべた。

その様子を入り口からルージュが眺めていた。暗闇でも一流スナイパーは見通しが効くのだ。

(アブゾーラーが全く相手になってなかった。話しに聞いてたけど、本当に凄い力ね。リンダは良いとしても、世界に後三つ落ちたんでしょ?それは人間の味方になってくれるのかしら?もしそれが敵になったとしたら・・・

これから先、もし戦う事になったとしたら、私達は勝てるの?)

長年の経験が告げる。リンダには勝てないと。リンダに勝てないのなら、他の赤い星に勝つ術はあるのだろうか?

まだ時間はある。その術を見出さなければならない。


                    *


四人が発ってすぐに協会長はエターナ軍の将軍に連絡を入れた。無論、先の一件の真偽と目的を問い質す為だ。

『そのような件に我々は関与していない』

「しかし将軍、対人用の煙幕弾はエターナ軍しか保有しておりません。七つの鐘に殺されていた者達もエターナ軍の軍服を着ておりました。

ここまで物的証拠が揃っていれば言い逃れなど出来ませんぞ。あなた方はなんの目的でネツクに忍び込み、市民を誘拐しようとしたのですか?」

『我々を脅すと言うのか?』

怒り交じりの低い声に協会長は狼狽えたが臆さず言葉を返す。

「あなた方が行った行為は明らかな破壊行為、人に仇為す行為です!エターナ軍は人類の為の軍であり、その力は人には振るわない。あなたはそれを破った!

一体どう言うおつもりなのですか?はっきりとした理由を語らなければ、この一件は各都市に報告せざるを得ません」

『・・・大義だ』

しばらくの沈黙の後、確固たる意志の宿った言葉が返ってきた。

「大義?」

『我々は絶対の大義を見出した。貴様ら凡百の人身では決して無しへぬ大義だ。その為ならば我々は如何なる犠牲を払ってでも大義を果たす』

ゾッとした。本気で、とんでもない事をしようとしている。

「将軍、あなたは何を」

通話は切られた。協会長は意見を求めるように同席していたベンに視線を向ける。

「エターナ軍は人類を異獣から守る為に作られた軍隊だ。今も昔も、異獣から人を守る理念で動いている。だから俺達に武具を降ろしてくれる。技術こそ独占してるが、それはマルクトが世界一の軍事国家である為に必要だからだ。異獣の脅威に晒されているこの世界、何時人の心が壊れて争いが起きてもおかしくない」

「ああ、そうだ。つまり大義とはそう言う事だ」

「将軍のあの言葉、それ以上の意味を感じたな。一体何に至ったんだ?」

大義とは人を守り、世界を守る事。その先には何がある?

「そもそも、彼らはリンダを攫おうとした。私達が正体を知らないように伏せてはいたが、わざわざ彼女を攫うとは彼女の正体は勿論、その力についても知っていると言う事。

将軍はどうやってそれを知ったんだ?」

「可能性があるとすればマルクト近辺に落ちた赤い星だな。それが何か影響を与えているんだろう。リンダが赤い星だと知ったのは何日もネツクで潜入調査をしていたからだろう。

しかし、将軍は一体どうしたんだ?以前はこんな事をする人じゃなかったはずだ。まるで人が変わったようだぞ」

「前に話した時はもっと落ち着いていてこちらが納得できる話しをしてくれた。あんなに威圧的で脅しともとれる発言をするような人じゃなかったが」

考えても答えには至らない。分からない事は何も分からないのだ。

「やはり直接会ってみない事には話しは進まないだろう。七つの鐘は私の力が及ぶ範囲外だ。少しでも早くお前が人に出れるようにネツクを落ち着かせないとな」

「ああ、頼む」

異獣ハンターとしては正しくない在りようだが、今はそんな事を言ってはいられない。

「しかし、四人はあのままケセドに向かって大丈夫なのか?ベン、お前頼りになる伝手ぐらいいるだろう。紹介できなかったのか?」

ベンは渋い表情で頭を掻いた。

「一人いる。いるにはいるが・・・どうにも信用しきれないんだ」

「どう言う意味だ?」

「良い奴だよ。間違いなく善人だ。何度か一緒に旅もした。人脈も広く七つの鐘の教祖ともエターナの将軍とも顔見知りだ。俺の知り合いの中で、これ以上頼りになる奴はいないだろう。

ただ、底が見抜けないんだ。何か、得体の知れない不気味さがある。この一件は本当に信用できる相手以外の協力は求めるべきじゃない」

「お前がそう言うとはな。一体どんな人物なんだ?」

「見た目は年寄りの老人だよ。砂漠のホド出身らしいが相当長い生きらしい。何よりも、初めて出会った時から今に至るまでの十年間、全く衰えた様子が無いんだ。歳を取っているのかも疑わしい。

年寄りが十年間も現役で商人が出来るか?」

「それは確かに、得体が知れないな」


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