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異獣ハンター  作者: 港川レイジ
10/35

世界への一歩

 輸送車の移動も異獣に襲われる事もあるが、幸いにも今回は異獣が現れる事は無かった。

 「何か、風が臭うな」

 「生臭い・・・塩の臭い?」

 「海よ海!」

 輸送車に取り付けてある窓に張り付いて外を眺めれば青く輝く海が一面に広がっていた。地平線の彼方まで続く海は空と解け合って世界を閉ざしてしまっている。その先にはまだ世界があるはずなのに、人の目ではその先を見通す事すら叶わない。

 自らの足で赴くしかないのだ。

 「赤髪のルージュがまるで子供みたいだな」

 同乗していた護衛ハンターが笑うのでルージュは恥ずかしそうに咳払いをした。

 「良いと思いますよ。楽しい事を素直に楽しいと思えるのは」

 「リンダ・・・。そうよね。細かい事を気にしてたら楽しめないわよね!」

 そんな訳で四人共身体の痛みも酔いも忘れて輸送車が止まるで窓に張り付きっぱなしだった。

 「さあポルトの町に着いたぜ!何時までも窓に張り付いてないで降りてくれよ!」

 窓に顔を付けていたからか皆片頬が赤くなっていた。

 「これがポルトの街か」

 ネツク程ではないが頑強な城壁に守られている。街には威勢の良い声が響き渡り所々から喧騒が聞こえてくる。沢山の人が行きかうのはネツクと同じだがここはより熱と活気を帯びている。

 「なんか、騒がしい」

 「ここは製鉄工業が盛んな街なのよ。異獣が現れるよりも昔から鉄を加工してここで暮らしていたのよ。今でこそ異獣の武器はエターナの専売特許だけど、異石の加工技術が見つかる前はここで武器を作って世界中に配っていたのよ」

 「そうなんですね。どうりで煤けた人が多いと思いました」

 作業着を着た道行く工場員達は身体が煤で汚れていた。

 「今は武器関連はエターナに譲ったから鉄製品の道具を作ってるのよ。異石は便利だけど高くて一般に普及させるには割に合わないからね。

 特に造船技術に関しては並ぶものはいないわよ。世界中の人達に武器を配る為に素早く頑丈で大きな船を造った技術が今、大きく進化してるのよ。何しろエターナも船に関してはポルトに一任するぐらいだからね」

 廃れない技術、廃れない物は存在する。脈々と受け継がれた技術は時代を経て更なる高みへと昇華するのだ。

 「それ、ベンから教えてもらったろ?」

 「ふふっ。少し得意げに話しすぎたわね。この辺りには依頼で来た事はあったけどポルトに入ったのは今日が初めてなのよ」

 街に連なる家々は鉄製だ。海に面したこの立地では錆問題が深刻に思えるが、特殊な処理が為されているのかどの家もほとんど錆が見受けられなかった。錆に強い技術もまた造船技術に一役買っているのだろう。

 「ベンが言うには海賊亭って言う宿がおすすめだそうよ。髑髏マークが目印の目立つ建物らしいけど」

 「あれ、そう?」

 ヒュームが指差す方向に堂々と海賊の髑髏マークを掲げた店が開いていた。海賊船を模した店はかなり目立つ。かなり繁盛しているようで遠目からでも沢山のお客さんが出入りしているのが見受けられる。

 「良い趣味してる」

 「海賊船ってあれだよな?海の荒くれ者だよな?」

 「ヨーソロー!」

 ヒュームはテンションが上がって腕を振り回している。

 「危ないから落ち着こうね」

 興奮してはいるが、知識不足で落ち着いていられるリンダがヒュームを抑えていた。ケンは目の前の事に夢中だ。

 店に入るととても賑やかで威勢の良い声と笑い声が満たされていた。関係ないのに何故だか心躍る気分になる。

 時刻は朝飯時、朝食一番で力を付けようと言うのが工場員の人達ばかりだ。

 「いらっしゃい!食事なら悪いけど少し待ってもらうよ!」

 受付の女性は威勢の良い快活な声で応じた。褐色肌で結構な美人だ。細かい事を気にしない豪快な性格が余す事無く表に出ている。海の男ならぬ海の女と呼べるだろう。

 「いえ、泊まりに来たんです」

 「へえ?商人には見えないけど」

 ルージュはハンターのタグを提示した。

 「成程ね。色々と訳ありみたいだね」

 それ以上は何も訊かずに部屋の鍵を二つ渡してくれた。

 「部屋代はここを発つ時に払っておくれ。食事代も入ってるからね。早く来ないと席を取られるから気を付けなよ」

 「それは心得ておきます」

 朝でこれなのだ。昼や夜はきっと戦場のような光景になるだろう。

 「それと、男女別の部屋だよ」

 ルージュは苦笑いを浮かべた。

 四人は一旦一部屋に集まる。部屋に入って荷物を置くとルージュは「地図を開いて」と促した。ケンはテーブルの上に世界地図を広げた。

 「とりあえず、これからの方針を纏めましょう。地図も確かめて世界の事をしっかりと把握しておきたいし」

 「地図を見てなかったのか?」

 「見たわよ。あなた達と一緒に確かめるのよ」

 世界地図なんてものは超希少品だ。ベンが作った地図は七割がたしか制作されていないが、細かな詳細と細部を分かりやすく描いた図式は目を見張るものがある。価値にすれば大異石どころか下手をすれば異結晶と並び立つだろう。

 そんな物をほいほい人前で出す訳にもいかず今まで出さずに仕舞っておいたのだ。

 テーブルの上に広げられた地図を指さしながらルージュは説明を始めた。

 「世界には三つの大陸があるの。南西にある横に広い大陸がノマック大陸。広大な草原が広がる地で私達の先祖は遊牧民として暮らしていたのよ。私達は今この大陸にいるのよ」 

 「そうだったんだ。確かに、森とか山は少ないよな」

 「異獣のせいで最近は荒野も増えたけどね。

 海を挟んで真上にあるのがモント大陸。下を向いた三日月の形が特徴的よね。ノマックよりも大きな大陸で北には寒冷地が、西には砂漠、東には森林地帯が広がっているわ」

 「どうして三つに分かれているんですか?」

 「ベンによると異獣が現れる少し前に大異変があってその時に気候と大陸の形が変わったそうよ。大昔は三日月じゃなくてちゃんとした形の大陸だったらしいわよ」

 「大異変・・・」

 何かが頭に引っ掛かった。しかし何も思い出せない。今までと同じだ。無理して思い出そうとしても周囲を困らせるだけ、今は脇に置いて説明に集中する。

 「東に広がるのがマルクト大陸よ。国の名前がそのまま大陸の名前になってるなんて凄いわよね。世界一の大国は大陸に自らの国の名前を付ける事で世界に対して力と支配力を示したそうよ」

 「自己顕示力」

 「まあ、国ってそんな物だってベンは言ってたわよ。けど、マルクトが強大な力を有していたからこそ抑止力となって人同士の争いを抑え込んでいたのよ。何しろ絶対に勝てない相手だからね」

 絶対的な強者が君臨すると言う事は下の者達の暴動、反乱、抵抗を抑える力となる。力の支配者には何者も逆らえず、従順するしか生き延びる道はない。

 「そして世界に六ツある都市だけど、ネツクの隣にはティファレトがあるわ。モント大陸には砂漠にホド、寒冷地にケセド、森にビナーがそれぞれあるの」

 「マルクト大陸は広大ですけど、エターナ軍がいるから平気なんですね」

 「あれだけ広大な大陸を一挙に統治できるんだから、エターナ軍の力は並大抵のものではないわ。

 それで、私達はまずケセドに向かう事にするわ。マルクトの事は協会長とベンに任せておきましょう」

 「分かった。それで、どうするんだ?」

 「当然、船よ」

 

                        *

 

 ポルトには航海船が出ている。人々は航海船に乗って各大陸と都市を行き来するのだ。都市を繋ぐ港町に停泊しそこから輸送車で都市に向かう。それがこの世界の移動方法だ。最も利用者の大半は物資売買の商人だが。

 「ケセド行きの船が出ない?何があったの?」

 航海船にはチケットを買い乗るのだが、受付の管理人から信じられない説明をされてしまう。

 「実は、ケセドに続く港町ナメルの近海で巨大異獣が出現しまして、異獣が討伐されるまではモント大陸への航海は禁じられたんです」

 「妙に街に人が多いと思ったのはそのせいなのね。

 じゃあ、今は船が出ていないの?」

 「ティファレトに続く港町リメーンへは行けますけど、どうなさいますか?」

 「どうって・・・どれぐらいで片は付きそうなの?」

 「それは分かりかねます」

 海に出現する異獣と相対した事は無い。しかし、船上の限られた足場で海の地の利を得た異獣と戦うのは相当に不利だ。相手が小型ならまだしも大型となると下手をすれば討伐に何ヶ月も掛かるかもしれない。

 ティファレトにいく予定など無い。さりとてここで無駄な時間を過ごす訳にもいかない。答えあぐねていると間から一人の老人が割り込んできた。

 「すまんねお嬢さん。後ろがつかえとるよ」

 「あ・・・」

 ルージュは軽く頭を下げて列から離れた。

 待っていた三人に事の次第を説明した。

 「そうなんですか。じゃあ、ティファレトに行くんですか?」

 「行ってもね。時間とお金を無駄に浪費するだけじゃ」

 行く事に意味が無い訳ではない。異獣ハンター協会に話しは通せるし、もし裏でエターナ軍や七つの鐘と繋がっているのなら見過ごす訳にはいかない。しかし、当然リスクが伴う。それらの組織に対して必要以上に警戒させる事になる上にどうしても目立ってしまう。

 「僕としては、ティファレトの異獣ハンター協会を見てみたいけど」

 「気持ちは分かるし私も同じよ。けど今は、現状を解決する方が先よ」

 自分達は狙われている身なのだ。ハンター協会の改革はしたい。しかしそんな事を今していたら敵に付け込む隙を与えるだけだ。それに、現状の問題を解決すればそれが大きな一歩となる。ここで意地を張る程ケンは頑固ではないし、それも理解している。

 問題は一歩を歩む為には大きすぎる壁が立ちはだかっている事だ。悠長にしていられないし、さりとて他に方法も思いつかないし思い当たらない。

 どうするべきか悩んでいると後ろから「もし」と声を掛けられた。先程の老人だ。

 頭にターバンを巻いた小男で身長はケンの胸ぐらいしかない。顎に生やした髭は手入れがしてあるのか滑らかで癖なのか手で撫でている。結構な年寄りに見えるが腰は曲がっておらず真っ直ぐ立っている。深い皴が刻まれた顔には仏のような柔和な笑みを浮かべていた。

 「あんたらケセドに行くのかい?」

 「え、ええ。そうですけど」

 「やめておいた方がいいよ。あそこは他所の人が行っても受け入れられる場所じゃない。わしも行商の為に何度も赴いているが、あそこだけは行きたくないと気が重くなる程だ。何しろ耳にタコが出来る程勧誘されるからな」

 「ご忠告どうも。けど、私達はケセドに行かないといけないんです」

 「何故だ?お前さんら、見たとこ七つの鐘の信者とは思えんが」

 随分と深く尋ねてくる。内心疑問を抱きつつも「理由がありますので」とルージュは短く告げた。

 老人は目を細めて一人一人見定めるように見つめると突然ニカッと笑顔を浮かべた。

 「お前さんら、わしに雇われてみんか?」

 「はあ?」

 「わしはパンハイムと言う者でな。各都市を巡り長年商売をしておる。村や町も巡り品物も捌いておる。七つの鐘の教祖とも、エターナの将軍とも顔見知りよ。

 わしと共におればケセドにおいても怪しまれる事無く行動する事が出来るぞ?無論、雇う以上はわしも金は支払う。どうかの?ルージュ殿」

 「私の事は知っているのね」

 「知っておるとも。名うてのハンターは全て承知しとるよ」

 「ティファレト行きの船は何時出るの?」

 「五日後だ。しかし乗船券は今日までしか買えん。考えるなら夕方五時までに決めるのだな。わしは海賊亭の宿で待っておるよ」

 老人が去った後四人は場所を移しとあるカフェで話し合った。

 「怪しすぎる」

 開口一番ルージュは疑念を孕んだ面持ちで言った。

 「確かに」

 「まあ、流石に怪しいですよね」

 こんな都合の良い事が起こり得るのだろうか?繋がりがあるのなら、むしろ怪しく思えて仕方ない。

 「ヒュームはどうなんだ?」

 「俺は、良いと思う」

 「どうしてそう思うの?」

 「良い人に、見えたから」

 ヒュームは不思議と自信ありげな様子だ。

 「まあ、見た目はね。けど、今は他人をそう簡単に信用して良い時じゃないのよ」

 神経質に過ぎる程に過敏にならなければいけない。ここはエターナ軍、特に七つの鐘は何処に信者が潜んでいても判別など出来ないのだ。

 「じゃあ人に聞いて確かめるのか?」

 「繋がりがある人の助力が得られるのは嬉しいけど・・・」

 逆に言えば敵と通じているとも言える。安易に人を信じては寝首を掻かれる事態になりかねない。

 「けど、あたし達は何も繋がりが無いから、パンハイムさんみたいに繋がりのある人はとても心強いと思う。

 ベンがいてくれたら、よかったと思いますけど」

 ルージュの名前も海を越えれば通じないだろう。横繋がりの無い者がいきなり組織に突っ込んだら間違いなく戦う事になる。悪人ならともかく、信者や軍人は普通の人だ。そんな事態は極力抑えたい。

 「ベンか・・・」

 ルージュは何かを思いついた様子だ。

 「ちょっと試したい事があるから会いに行くわ。あなた達も来てくれる」

 「何か思いついた?」

 「それはお楽しみ」

 

                        *

 

 宿に戻るとパンハイムは一階のレストランでお茶を飲んでいた。

 「おお。決まったかの?」

 「もう少しね。少しいいかしら?」

 「構わんよ」

 パンハイムの泊っている部屋はケン達が泊っている部屋のすぐ隣だった。部屋の中には手提げの鞄が二つに背負い鞄が一つあるだけで商人とは思えない程に荷物が少なかった。

 「あなた、本当に商人なの?」

 「わしは本当に必要な物しか売らんからな。

 それで、何を確かめたいのだ?」

 パンハイムはこちらの意図を見抜いていた。

 「あなたの前に、一人の少女が倒れているわ。少女は喉の渇きに耐え兼ねて倒れている。このままでは乾いて死んでしまう。あなたは一人分の水を持っている。けれどその水は、故郷で水を待つ妻に与える為の水。

 少女を助ければ妻は死ぬ。妻を助けたければ少女は死んでしまう。あなたはどうする?」

 (この問答は何?こんな酷い選択肢、あたしは選べないよ)

 どちらかを選べば、どちらかが死ぬ。残酷だ。だが現実とは無慈悲に選択を迫る場面も存在する。今のような世界ならば尚更だろう。

 「わしなら少女に血を飲ませる。わしのような年寄りであっても童の喉を潤すだけの血はあるだろう。そして少女を家に連れて帰り介抱する」

 「自分達で暮らしていくだけで精一杯だとしても?」

 「助けた者には責任があるのだ。命を生き永らえさせても童には過酷な自然、一人で生きてゆく事は到底できまい。

 他者を見捨てて何も感じずにいられるのは人でなしの外道のみじゃ」

 大真面目にパンハイムは語る。

 「次よ。

 あなたは大金持ち。けれどあなたの暮らす街は貧乏で貧困に喘いでいた。ある日あなたは街の人達があなたを襲撃して金銭を奪おうとしている事を知る。

 その時あなたはどうする?」

 選択肢は与えず、どのような答えを紡ぎ出すか窺う。

 「余す事無く民に富を差し出す」

 パンハイムは即答した。思考停止の答えではなく、確固たる自分の意思を宿している。

 「けれどあなたは今まで街の人達を蔑ろにしていた。謝って償っても殺されるかもしれないわよ」

 「それが己の業ならば甘んじて受け入れよう。もし許されるのならば命尽きるまで償うと誓おう」

 淀みなく語る。

 ルージュはじっとパンハイムの目を見つめる。パンハイムは目を逸らさない。

 「良いわ。あなたに雇われる。でも信用する訳じゃないから」

 「構わんよ。かのハイハンタールージュに護衛をしてくれるのなら願ったり叶ったりじゃ」

 「僕らはおまけかよ?」

 ケンは物凄く不服そうに自分の指に親指を当てた。

 「おお、すまんすまん。おぬしらも頼りにしとるぞ。ベンの弟子なのだからの」

 「知ってるのか!?」

 これにはルージュも驚いた。

 「ベンには色々と世話になっての。あ奴が世界を渡り歩いていた時も度々共に旅をしたものじゃ。弟子であるおぬし達の話しをしていた時のベンはなんとも誇らしげだったぞ」

 「・・・そうか」

 「ベンの、自慢の弟子」

 ベンはキチンと自分達の事を褒めて伸ばしてくれるタイプだ。それでも人にそうやって自慢してくれていたのは嬉しくて恥ずかしくて照れてしまう。

 「少し前までわしもネツクにおっての。ベンと共にノマックへとやって来たんじゃ。赤い星がネツクの傍に落ちた時は大変じゃったのう。

 お前さん方は赤い星を調べに行くのだろう?ならばこそ、わしの力は必要になるぞ」

 「その時は頼りにさせてもらうわ」

 「任されよ。おぬし達も護衛を頼むぞ」

 

                       *


 「さっきの質問でパンハイムさんの事を測ったんですか?」

 部屋に戻り一息つくとリンダはさっきの問答について質問した。

 「半分は当たり。半分は外れ」

 「半分?」

 「嘘を付いているかどうかを見ていたのよ」

 「嘘?」

 ルージュは自分の顔を指さした。

 「ベンほど人の裏を見抜く眼は無いけど、それでもある程度の嘘なら見抜けるわ。人はね、嘘を付くと表情や目に微かな動揺、不自然な面が現れるのよ。分かりやすい人もいれば本当に極僅かな変化の人もいる。全く出ない人もいる。

 私が確かめていたのは人間性と嘘つきかどうかよ。その点で判断すれば、大体は大丈夫だと言えるわね」

 「大体、ですか?」

 「情けないけど、私にはパンハイムを見抜けなかったの。彼、相当に腕の立つ商人よ。あれを見抜けるのはベンぐらいなものね。

 ベンと旅していたと言ってたけど、ネツクにいたのなら二人の事は簡単に知れるから証明にはならないわ。大体って言うのはそう言う事よ」

 口では何とでも言える。表情はいくらでも仮面を被れる。態度など自由に作り出せる。人生の卓越者であればある程、狡猾で老獪になるのだ。

 普段であればこれ程人は疑わない。今は神経質すぎるぐらいでないといけないのだ。

 「ルージュさん。あたしは、ヒュームを信じます。ヒュームを信じる人を信じます」

 「どうしてそう言えるの?」

 「ヒュームを信頼しているからです」

 ルージュは小さく溜め息を吐いて微笑を浮かべた。

 (それはとても素晴らしいけど、そんな言葉で纏められるような状況じゃなのよね。私がしっかりとパンハイムの事を見定めないと)

 大人として、年長者として、先輩としての責任が自分にはある。気など決して抜けない。

 「ルージュさん。あたしも自慢の弟子になれますか?」

 「なれる・・・いえ、もうなってるわ。ベンが弟子にする子は皆自慢の弟子よ」

 リンダはぱあっと明るい顔になる。そんなリンダを前にして和むと同時に役目の重大さを改めて痛感した。


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