プロローグ
異獣ハンターは異獣を倒す人の事を指しますが、物語としては異獣ハンターを勤め上げるのではなくヒロインであるリンダを巡る話しが中心となります。話しの進行で当然異獣と戦いハンターとしての勤めも果たしますが、あくまでも主軸はリンダと周囲の人達の悩み、苦しみ、変化、成長を描いた物語となります。当然ですが、異獣の存在は蔑ろにしません。終盤に異獣とは何なのかちゃんと明かします。
私がこの作品を創作にするにあたって何よりも重視したのは既存と被らない事です。テンプレートな物語、敵、人種などを取り入れず一から組み上げました。異獣も元ネタはあっても姿形は私が作り上げたオリジナルです。
王道やテンプレは決していけない事ではありません。好まれているのなら喜ばしいのです。ただ、私はそこから逸脱したかったのです。生意気を申すようですが現在の創作において新しい風を吹かせたいと思いました。
異獣ハンターの物語を思いついた当初は自分なりに面白いと思いつつもすぐに形にする事はせず一年程自らの中で熟成させました。私自身、長編の物語を手掛けた際話しが纏まらなくなりその先が創れなくなった苦い経験があるので時間を掛け物語を組み換え、置き換え、慎重に構想しました。
私自身が得てきた知識、経験を全て詰め込み、皆様に楽しんでいただけるように創り上げる所存です。
『さあ皆さん。今日はこの世界の歴史について学びましょうね』
先生・・・。村で僕達に勉強を教えてくれた先生の声がする・・・。
『私達人間は古き時代、神々が自分達の姿を模して創られたと伝えられています。私達の心の中にある感情。優しさ、熱意、愛情、慈しみ。それらは全てそれぞれの神様が与え給うた力の一片なのですよ』
『先生!じゃあ俺達は神様の子供なんですか?』
『ええ。私達は古き時代から今に続く神の血筋を引く者なのです。それは誰であっても同じですよ。私達は言わば兄弟姉妹なのですよ』
『信じられなーい!』
皆笑う。僕も笑う。だって、そんなの嘘みたいだ。
先生は困り顔を浮かべる。でも注意しないで話しを続けた。
『私達はこの世界で生き、様々な地で様々な国、文化を作り上げ生活を豊かに、文化的に発展させてきました。
大きな争いも無く今日まで私達は平穏に生きる事が出来ました』
先生の顔に影が差した。
『今より三百年前、世界に突如として異形の化け物が現れたのです。それらは生物としてはあり得ない姿をしており、私達が知る全ての動物とも異なる存在です。
化け物はその場にいるだけで自然を破壊し、環境を穢し、全ての生物を敵視して命を奪おうとしてきます。
全ての命にとって忌むべき存在。この世界の異物であり、異なる世界から現れたかのような異形な存在。それを私達は異獣と呼びます』
子供だった僕も、周りの皆も知っている。
異獣は怖い獣だって。村の外に出ると異獣に襲われるって教えられた。
でも、この時は誰も異獣を見た事が無かったから実感がわかなかった。
『先生。異獣ってどんな姿なんですか?』
『形容しがたい恐ろしく悍ましい姿です。私達にとって、忌み嫌う姿をしています』
先生は青ざめた顔で震えた。
『先生は異獣を見た事があるんですか?』
『ええ。あの黒く濁った身体は、まるで醜悪なものが凝縮されたかのようでした・・・』
怖がってる。親に叱られる僕達とは違う。本気の恐怖。それが僕達にも伝わって泣きそうになった。でも泣くのは嫌だから僕は良い話しを振った。
『先生。でも、異獣は異獣ハンターが倒してくれるんでしょ?』
『・・・そうですね。人は異獣に対抗する為の力と知恵を身に付けました。異獣の狩人、異獣ハンターは私達の暮らしを守ってくれる英雄ですよ』
英雄。僕はその言葉に惹かれた。だから声高に質問した。
『先生!僕も英雄になれますか!?』
そしたら皆笑った。なんで笑うんだよ?ムッとして怒鳴ろうとすると先生が『駄目ですよ皆』って止めてくれた。
『ケン君。英雄とはただ異獣を倒すだけではありません。人を想い、人を敬い、人を守る。その心意気があって初めて英雄になれるのです』
『心意気?』
『力や実績だけではない、精神の強さが人を真の英雄にするのです』
その時僕は先生の言葉の意味を半分も理解出来なかった。ただ難しい顔を浮かべるだけだった。
『いずれ分かりますよ。今は深く気にし過ぎず過ごしましょうね』