お茶の世界の合言葉
「そうそうそう、ひじから動かして。茶筅は左ひざをかすめて。いやいや、もっとゆっくり。」
私は月に二回、お茶のお稽古をしている。
先生は元気なおばあちゃん。
ちょっぴり天然で、笑顔がすてき。
いつも私の名前を呼び間違えちゃうけど、大好きだ。
「そうするより、こっちに動かした方がいいでしょ。全部、自然体で。」
自然体。先生の口癖だ。
「お茶の世界だけじゃなくてね、何もかも、自然体でいることが大事なの。」
先生はいつもそう言って、滑らかにお茶をたてる。
「それと、素直でいることね。そうすれば、人が寄ってくる。」
先生のたてるお茶は、柔らかくて、甘くて。
何より、その手つきが美しいのだ。
気付けば、吸い寄せられるように見入ってしまう。
「おお、こんにちは。やっとるねぇ。」
そう言って入ってきたのは、先生の旦那さん。
もちろん、お茶の経験者。
雰囲気からかっこいい、優しいおじいちゃんだ。
「お父さん、ちょっとお茶碗もう一つ取ってきて。足りないわ。」
先生はいつも旦那さんに厳しい。
膝が悪い旦那さんを、平気でパシる。
「私がとってきますよ。」
そういっても、紳士な旦那さんは「大丈夫。」と言ってお茶碗を取りに立ち上がる。
「いや、お父さんそれじゃない。テーブルの下に置いているお茶碗よ。」
「えぇ?分かったよ。」
いつでも素直で、自然体な先生だからこそ、こんなに素敵な旦那さんに出会えたのだろう。
「ちょっと、先に服紗さばきでしょ。」
お茶の腕前はまだまだだけど、先生から学んだことはたくさんある。
この時間は、私を人として成長させてくれていると思う。
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