2話 あかつき編集部
【小説 あかつき】。
薫が勤務する出版社、【集新社】が誇る文芸誌であり、その歴史は長い。
しかし、文芸というジャンルに1ミリも興味もなく、普段活字の本も読まない薫にとってはまさに未開の地だった。
だからこそ、あかつきの編集室に入る際、緊張で足が震え、不安でいっぱいだった。
「し、失礼しまーす」
観念して扉を開けると、規模は大きいものの、そこはファッション雑誌の編集室にいた薫にはまさに無色と思うほどに花のない空間だった。
「やあやあ、君が相川さんね」
薫の存在にいち早く気づき、慣れた愛想笑いで手を叩いて歓迎したのは入り口から一番手前のデスクに位置していた笹川という眼鏡をかけた中年男性だった。
どうやら、当分の指導係は彼が担当するらしかった。
「はじめまして、来月からお世話になります。相川薫と申します」
笹川は薫の外見をじっと見つめた後、わざとらしく歓声をあげた。
「さすがファッション雑誌の編集者さんだね。想像していた以上に花があって素晴らしい。これはゴミの掃き溜めみたいなうちの編集室にもようやく春が来たってこった!」
薫が身を縮めて苦笑いをしていると、薫と同世代らしき女性社員がこちらに近づいてきた。
「セクハラですよ、笹川さん」