六匹の子猫
霜月透子事務局長の『ひだまり童話館』の6周年企画『6の話』に参加しています。
✳︎
うちのミケが子猫を産んだ。段ボールにフカフカのバスタオルを敷いて、そこで子猫がわちゃわちゃしたり、寝たりしてる。私は、ちょっと離れたところから見ている。
本当は、そばで見たい! でも、段ボールハウスの前にずっと座って見るのを禁止されていた。子猫はかわいいけど、ミケが神経質になってはいけないからだ。
でも、ちょうどミケがいないので、子猫をゆっくり見られる。子猫たちが大きくなって、ミケもたまに段ボールから出てのんびりしたいみたいだ。子育ては大変みたい。
先ずは、一番大きくて白い子猫を抱き上げる。
「いっちゃんは、片耳だけ黒い。だからいっちゃん」
いっちゃんは、段ボールハウスに戻ると、くるんと丸まって寝だした。白いボールに片耳だけ黒い。
この調子で子猫に名前を付けよう。ミケがいると子猫たちはお乳を飲んだり、わちゃわちゃしてる。どれがどれだかわからなくなる。二番目に大きい子猫を抱き上げる。
「ふーちゃんは、背中と尻尾に茶色いシマ柄がある。だから、ふーちゃん」
ふーちゃんは、抱き上げても寝たまんまだったし、下ろしても寝たまんまだ。隣のミケ猫を抱き上げる。
「みーちゃんは、ママ猫のミケと同じミケ猫。だからみーちゃん」
みーちゃんは、片目を開けて『フミ』と鳴いた。なんだか、安直な名前だと抗議されたような気がする。
そんなの気にしないで、次の子の名前を決めよう。
「よっちゃんは、背中に四つ黒の模様がある。なんだか四葉のクローバーみたい。だからよっちゃん」
「ごえもんは、手足と尻尾が黒い。それに男の子だからごえもん」
よっちゃんとごえもんも二匹で戯れていたので、一気に抱き上げて名前をつけた。この二匹はよく動く。きっと、段ボールハウスから家出するのも早いだろう。
六番目の子猫を抱き上げて、少し考える。どうしようかな?
「ぐじゃぐじゃの模様。サビ柄。ミケの子猫とは思えないぶちゃいく。でも、愛嬌はある。ろくすけ!」
ろくすけは、不服そうな半眼で私を見ている。ぶちゃいくと言ったのが気に障っのかもしれない。
「ろくすけは、ずっと一緒にいられるよぉ」
本当は子猫を誰にもあげたくない。でも、そんなにいっぱい猫は飼えない。だから、子猫は飼い主を見つけなきゃいけない。
「ろくすけ、ママのミケと一緒だもん。良いじゃない?」
きゅと抱きしめたが、ろくすけは『ブブ』と不満そうに鳴いた。
そりゃ、私だって不細工だなんて言われたら嫌だもん。気持ちはわかるよ。
「ごめん、ろくすけは可愛い!」と言ったけど、きっとろくすけは選ばれず、家に残るんだと思っていた。
✳︎✳︎
子猫の貰い手を探し始めて、すぐに何人かの申し込みがあった。条件は家飼。うちのミケも家飼いだ。なのに何故か妊娠しちゃってた。
外で自由に遊ばせたい気持ちはあるけど、車に轢かれたり、帰って来なくなったら困る。
乳離れもすみ、トイレの躾もできた頃、子猫の貰い手が訪ねてきた。お父さんの仕事の仲間やお母さんの友達だ。土曜日に一気に貰い手を決めちゃうみたい。
「わぁ、可愛い!」
そりゃ、そうだ! うちの子猫はどの子も可愛い。
ミケは毛を逆立てて警戒している。だから、ケージに入れているんだけど、落ち着かないのか、うろうろ歩き回っている。
「ミケ、良い人のところに貰ってもらうからね」
宥めてみたけど、考えてみたら子どもが他所に行っちゃうんだもん。ミケがナーバスなのも当たり前だ。
私も本当は他所に子猫をあげたくないので、貰いに来た人に背中を向けてミケの相手をしていた。だって「嫌だ!」って叫びそうになっちゃうんだもん。
子猫は段ボールハウスから出て、部屋の中を歩き回っている。
そっと後ろを振り返ると、それぞれ気に入った子猫を決めたようだ。やはり大きないっちゃん、ふーちゃん、それにミケ猫のみーちゃんは、貰い手がすぐに決まったみたい。
よっちゃんとごえもんは、二匹でふざけ回って、部屋を走り回っている。元気が良いのは良いけど、抱っこもし難いのかな? あと、やはりろくすけは人気が無いのか、クッションの上ですやすや寝ている。知らない人がいっぱいなのに、なかなか堂々としたものだ。
「あれっ?」
そのろくすけの横でお父さんの仕事仲間さんが、愛しそうな目で見ている。
「この子が良いな」
ちょっと! ろくすけはうちの子なんだよ。
「へぇ、変わってるな」
お父さん、何て事言うの! あっ、でも私も初めはそう思ったんだよ。でも、今は違うよ。
「ええっ、可愛いじゃないか!」
そっと、その人はろくすけを抱き上げた。あっ、この人は本当にろくすけが好きなんだと思った。
『フミィ』ろくすけも満更じゃなさそう。気が合うんだろう。
ろくすけが残ると思っていたんだけど、どうやら残るのはよっちゃんかごえもんみたいだ。良いんだよ。よっちゃんも、ごえもんも大好きだ。
「この子達、とっても仲良しなのね。離すのは可哀想だわ。うちで飼っても良い?」
お母さんの友達がとんでもないことを言い出した。
「駄目! 一匹はうちに置いて良いと言ったじゃない」
これまで大人しくしていたけど、このままじゃ、一匹も残らない。
「ええ、そうだったかな?」お母さんはとぼけている。ミケだけで十分だと思っているんだ。私だってミケは好き。だけど、ミケの為にも一匹ぐらいは残して欲しい。
「ミケが可哀想じゃない!」と自分の為にミケを前に押し出した。
「そうねぇ……」お母さんは折れた。だってミケはケージの中でうろうろしているんだもん。
「どちらかにしてくれない?」
お母さんの友達は悩みに悩んでごえもんを選んだ。
「よっちゃん!」
ごえもんから引き離されて、よっちゃんはわちゃわちゃしている。けど、私はぎゅっと抱きしめた。
✳︎✳︎✳︎
朝には六匹もいた子猫。でも、昼過ぎには一匹だけになった。ミケは家中を鳴きながら探している。
「ミケ、他の子はみんな貰われていったのよ」
お母さんがミケを抱き上げて宥めている。
『ミュウ』よっちゃんの首をミケは咥えて、段ボールハウスに連れていった。よっちゃんは首を咥えて運ぶには少し大きくなってて、脚が床に引き摺られている。
「ミケ、よっちゃんはずっと一緒だよ」
段ボールハウスの中でミケはよっちゃんの身体を舐めまわしていた。今までは六匹分舐めていたのに、一匹だけなのでめっちゃ長いこと舐めまわしている。
『ブブ』よっちゃんはどちらかと言うとやんちゃだ。あまり長いこと舐めまわして欲しくないみたいだ。
でも、ミケは舐め回すのをやめない。
「ミケ、よっちゃん嫌がっているよ」
私が止めさせようとよっちゃんを抱き上げようとした。
『シャー!』
びっくりした。ミケがシャーと怒るの初めて見た。
「ミケの好きにさせてあげましょう」
その夜、ミケはよっちゃんの側から離れなかった。でも、次の朝は普段のミケに戻った。夜中に家の中を見回っていなくなった子猫を呼んでいたが、ここにいないと諦めたようだ。
「ミケ……」私は、リビングの出窓で丸まって寝ているミケを見て泣いた。なんだか、とっても悲しくなったのだ。
『ミュウ』出窓によっちゃんが飛び上がり、ミケの側に横になった。
二匹が寄り添って寝ているのを見て、私は「これで良かったんだ」と自分に言い聞かせた。
おしまい