強襲2
ゴンと鈍い音を立ててマントの人物の踵が鉄板でできた床へと突き刺さる・・・。普通こういうときの『床へ突き刺さる』という言葉はあくまで激しい攻撃のたとえとしてだされるのだが、この場合はたとえではない。実際に踵が鉄板を貫いて深々と床に突き刺さっているのだ。
『・・・なんて攻撃だ・・・』
しかも、二、三相手と打ち合ってみてわかったことだが、マントの人物は腕も脚も、もしかしたら全身が義手化・・・いや機械化しているのかもしれない。正直これ以上打ち合えば、僕の拳は持たない可能性がある。
そして、心配なことがもう一つ。
ギシギシと義足が嫌な音を立てていた。
『戦闘用の義足を付けてこなかったのは失敗だった・・・。油断した・・・このままじゃ確実に負ける・・・。何か起死回生の切り札は・・・』
周りに一瞬目を向けた、その一瞬を狙われた・・・。
バキッと音がしたと思った直後、僕は両手を床についていた。義足が完全にへし折られていた。狭い工房とはいえ、相手との距離は十分とっていたから完全に油断していた。
「・・・まさか、踵に刺さった鉄板をそのまま飛ばしてくるとは思わなかったよ・・・」
そう、マントの人物はその場で素早く回転して鉄板を引きはがし、回し蹴りの要領でこちらの義足に正確に板を飛ばしてきたのだった。
コツコツと音を立ててマントの人物が近づいてくる。
あれだけの動きができるのだ。もし、こちらが戦闘用の義足を付けていたとしても結果は同じだっただろう。
『こんなに強いとは・・・』
時間の問題だったとはいえ、完全に機動力を奪われてしまっては躱しようもない。だが、諦めるつもりは全くなかった。チャンスは一度きり、相手がこちらの間合いに入ってきた瞬間だ。
足音が近づいてくる。僕はゆっくりと顔をあげる。そして、マントの人物と目があった。
「うらあぁぁ!!」
腕の力で体を持ち上げ、逆立ち状態になると同時に思いっきり体をねじりながら折れた右脚の義足を相手の目にめがけて突き出した。
「・・・っ」
マントの人物はこの攻撃を躱すが、わずかに隙ができた。その隙を逃さず追い打ちをかける。右脚を引くと同時に今度は左脚の義足を突き出す。これは右手でいなされてしまったが、それは大した問題ではなかった。
真の狙いは、さっき見つけたかぎ爪のようなものを拾うこと。そして・・・
「あああぁぁぁぁ!!」
右腕一本で思いきり体を持ち上げ、左手で拾ったかぎ爪を横なぎに振る。
ギャリィィンと音をたてて金属と金属が擦れ、えぐれた。かぎ爪の先が当たったのは・・・相手の顔。
だが、マントの人物は少しひるんだだけで、一滴の血も流さなかった。
「・・・くそ・・・やっぱり全身機械化されてるのか・・・」
一か八かの賭けだったが、負けたようだ。
先ほど無理をしたせいで、右腕にはほとんど力が入らない。そのうえ機動力もないときた。さすがに手詰まりだった。
『ここまでか?』
そう考えた時、ザワザワと声が聞こえてきた。工房での物音に気付いた近くの住民たちが様子を見に来たらしい。
「だめだ!!逃げろ!」
そう声をあげたと同時にマントの人物は屋根を突き破り、どこかへ消えた。
『・・・退いた?僕以外に見られるのを避けたのか?』
まあ、理由がなんにせよ助かったようだ。
『おい、あんた大丈夫か!?』という驚くような、とまどったような声が薄れていく意識の隅で聞こえたていた。