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英雄作成  作者: えいぶる
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人形技師

 カンカンと硬いものを叩く音が響く。青年が金属のようなものを槌で何度も叩き成形している。

 ここは三種族が暮らす城壁の中でも比較的安全と言われている区画「マタク」だ。もともとはどの区画に住んでいても安全であったのだが、魔人王と真王の登場と人王の不在によって、人族は城壁の中でも肩身が狭くなっている。区画によっては搾取の対象となる場所すらあるのだ。

 今では人族が安心して暮らせる区画はここマタクと、もう一ヵ所になってしまっている。そして、その安全圏に暮らすことが出来るのは基本的にキュラのように戦場にて戦果を挙げてくるものや、金持ちだったりするのだが、この青年は精悍な顔つきはしているもののススで顔は汚れ、脚は両方とも金属の棒のようなものになっている。この両脚は義足である。

 明らかに金持ちには見えず、そして義足ゆえに戦闘も行えなさそうなこの青年がなぜ安全区画であるマタクに住んでいるのかと言えば、彼が魔物と戦いで間接的に大きな戦果を挙げているからである。


 彼の名は「ケージ」という。年齢は十九、職業は人形技師である。人形技師とは義手・義足を造る職業の者をいう。昔はその名の通り精巧で、自律稼働する人形を造っていたらしいが、その技術は失われて久しい。


 「ふう・・・完成か」


 ケージは額から滝のように流れる汗をタオルでぬぐった。この青年はすでに世界で最高峰の技術を持つ。

 自分の義足を造ったのが十五の頃。元々は戦士として十歳の頃から戦闘訓練を積んでおり、実力も高く将来を有望視されていたのだが、初陣の際に両脚を失ってしまった。その際に世界で最高の腕前を持つという人形技師に義足の作成を頼んだのだが、彼はその技術に愕然とした。

 義足を付ければもう一度戦うことが出来ると思っていたのだが、完成品は歩くのがやっとといったものだった。

 「もう一度戦える」そう思っていた彼は激昂し、義足を滅茶苦茶に壊した。そして、ひょんなことからさびれた小屋に住む今は亡き老人のもとで半年間技師の基礎を学び、そこから独自の方法で当時加工が不可能と言われていた「ナンク」という鉱石を加工する技術を生み出した。

 このナンク鉱石を加工する技術は公開されているのだが、加工までの行程が難しく、また、火の加減を間違えると小規模な爆発を引き起こすため人族以外の多くの技師は怪我を恐れて加工をしていない。頑丈な肉体を持つ人族だからこそ、実験に実験を重ねることができた素材だともいえる。

 キュラのように武勇に優れていない人族の多くは人形技師となることを目指している。技師になればヒトから必要とされ、さげすまれることも、搾取の対象となることもなくなるからだ。

 こうして、ある意味人族の救世主となった彼はキュラからマタクに住むようにと工房を造ってもらいこの区画に住んでいるというわけである。


 

 「邪魔するぞ!」


 バン!と扉が開いた。


 「・・・またイライラしてドアを壊さないでよ」


 開いたドアの外からキュラが入ってきた。今日もいつものように荒れている。三種族会議があった後はいつもこんな感じだ。


 「・・・コーヒーでも飲む?」


 「いらん!キースといい、コウライといい、なぜああも態度が大きいのだ!人族とて徐々に戦果をあげているだろうが!」

 

 ドンと机を叩きキュラは憤る。

 確かに魔人や真人に比べると人族の活躍はまだ微々たるものだが、キュラの言う通り、人族は確実に戦果を挙げている。特にここ最近では魔人に近い討伐数を上げることもある。

 ただ、英雄という人族の力を増大させる者、または進化させる者の存在は確認できない。人族の活躍が面白くない魔人と真人としてはそこを突き、嫌がらせをしているのだろう。簡単に言えば「調子にのるな」ということだ。


 「キュラの言う通りだけど、英雄が出てきてないのも事実だから、僕が頑張らないとね!あと、何度も言ってるけど、僕の前ではその口調じゃなくてもいいから」


 「はあぁぁ・・・ごめん。またあたった・・・。」


 「別に気にしてないよ。一番大変なのはキュラだから・・・。本当は僕も付いていければいいんだけど、それだと余計迷惑をかけちゃうからね」


 三種族会議に出席できるのは、あくまで「実際に戦闘を行える者」と決まっている。

 以前キュラに付き添って行った際、直接戦わないものの、すなわち現場の状況を知らないものは出席しても無駄だと追い返された。少し頭にきたが、その時はキュラをなだめることに苦労した・・・。ただ、自分のために本気で怒ってくれるヒトがいるというのはうれしかった。だから頑張ってこれた。


 「まあ、僕もそろそろ戦えるようになると思うけどね」


 「え?ということは、ついに完成しそうなの!?」


 「もう少しだけ時間はかかるけどね」


 今、注文の合間を縫って、僕は自分の義足とキュラの鎧の新調を行っている。それがもうすぐで終わる。


 「キュラ先生にしっかりと訓練されているから、義足さえできれば十分に戦えるよ。しっかり背中を守ってあげるから、キュラもよろしくね」


 「うん!もちろん!そうなればケージの力を十分にお披露目できるね。でも、無茶だけはしないようにね?」


 キュラが心配そうに僕の脚を見る。


 「わかってる。もう無茶はしないよ。」


 僕は初陣の時、無理に仲間をかばって両脚を食われた。だから、次は気を付けようと思う。気を付けてヒトを助けるつもりだ。

 ・・・ただ、キュラがピンチになれば、無茶でもなんでも守る。そして、恐らくそれはキュラも同じだろう。だから僕は自分の命も守らなくてはいけない。矛盾しているようだが、キュラの・・・大事な人の命を守るためには絶対に必要な考えだ。


 「・・・今日は疲れたでしょ?こっちも終わったから帰ろうか!」


 「そうだね!帰ろう!」


 僕たちが出会ってからもうすぐ一年経つ。普段戦闘で疲れている彼女のために何かプレゼントでもしようと考えながら一緒に家路についた。

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