飛行機
「おい、なあおい! 大丈夫か?」
少女が夏の空を見上げたままボーッと動かなくなった。
飛行機が頭上を通ってからこうなってしまった。
まさか!?
「大丈夫だ! あれは米軍の爆撃機じゃない。日本の飛行機だ」
俺は周りの目を気にせず彼女の肩を掴んで揺さぶる。
声が届いたのか、少女がゆっくりと俺を見た。
「弟が、弟は何処ですか?」
虚ろな瞳で少女が俺に訊いてくる。
「弟も一緒だったんです。橋が燃えて。だから隅田川を渡ろうって。だけど無理で」
俺はしゃくりあげる少女の肩を擦ってやる。
高いせいでとても近く見えるスカイツリー。その足元を流れる隅田川。
そこは船だって通るのだ。容易く渡れるものじゃない。
「目の前が眩しくなって。そのときに弟の手を離してしまって。気付いたらこの時代に来ていて」
情緒不安定になってしまう少女。
「今日は帰ろう」
俺は彼女の手を取る。
これじゃ初めて会った日と同じだ。
俺は彼女の悲しむことしかしていない。
「大丈夫かね、お二人さん?」
道中で少女が泣き出したからだろう。優しげなお爺さんが声をかけてくれる。
「ありがとうございます。もう大丈夫なんで」
「そうかい? なら良い、が……」
お爺さんが俺を見て固まった。
いや、少女を見ている。
「お姉ちゃん、なのか?」