浅草
午前中は秋葉原で買い物をした俺と少女。
といっても少女は視界を流れる光景に目を奪われ、それだけで満足していた。
そして俺たちは電車を乗り継いで"浅草"に来ている。
「ここが今の浅草」
地下鉄から出た少女がポツリと呟いた。
涼しかった地下からむわっとした夏の熱気を嫌になりながらも俺はそれを聞いていた。
「ここも燃えたんですよね?」
「らしいな。東京大空襲は軍隊の施設じゃなくて民間人が暮らす場所を狙ったみたいだから。浅草は東京じゃ人がいっぱい居た下町だったんだよね?」
少女は静かに頷く。
買い物に付き合わせてしまったのでスカイツリーでも見せてあげようと思ったら彼女は浅草を見たいと言ったのだ。
そこが自分が暮らしていたところだからと。
「凄いですね、人って。瓦礫と灰になってもやり直せるなんて」
少女は感慨深く街や歩く人々を見つめる。
浅草は空襲の前に大正時代に起きた"関東大震災"で大火に見舞われ、全滅と言ってしまえるほどの被害を受けた。それでも人々は生活を営むことを諦めず復興させた。
「わあっ! 仲見世ってまだあるんですね!」
それが幸運にも仲見世を現存させている。関東大震災の教訓を経て建物を鉄筋コンクリートにし、消防に尽力したためである。
だから俺と彼女の知っている仲見世の光景はさほど変わらないのかもしれない。
「正月とかお祭りの日には両親に連れていってもらってお菓子とか可愛い小物を買ってもらったんですよ」
「へー。やっぱり昔もそうなんだな」
だけど浅草は空襲で燃えたのだ。浅草寺に連なる建造物は焼失し、周辺の下町の家屋は木造であったためアメリカの爆撃機から落とされた焼夷弾により火の海にされた。記録によれば何度も行われた空襲のうち、東京大空襲では十万以上の人が亡くなり、百万人以上の人が被災した。
そして隣に立つ彼女もその被害にあったのだ。