秋葉原
「やって来ました、秋葉原っ!」
「秋葉原!」
俺の高いテンションに少女が合わせてくれる。
「これが、今の東京なんですね」
地下鉄から出て空を仰ぎ、照らされたビル郡を眩しく見つめる彼女。
「高い建物ばっかりですね。あんなのが崩れずに建ってるなんて七十年って凄いですね」
「君のときにも有ったんじゃないの?」
確か日本橋の三越本店とか戦時中もあったはず。
「さあ、どうでしょう。あまり都会に行ったことなかったので。それにあのときは空襲で大きな街は皆、焼かれてしまいましたから」
シュンと肩を落とす少女。
俺は話題をミスったと思った。
というか、地雷しかない。
この秋葉原も戦時中、七十四年前の『東京大空襲』で焼け野原になった。
その後、物資が不足して苦しむ人々が集まって物を売り買いする『闇市』(マフィアややくざが支配しているわけではない)が興されて秋葉原は電気街、そして日本のサブカルチャーの拠点となった。
だが、終戦を知らない彼女はそれを知らない。
ただ、世界に置いてかれた事実を突きつけられるだけだ。
「よし! とことん楽しもう!」
俺は少女の手を取って駆け出した。