電車
ガタンゴトン
ガタンゴトン
ガタンゴトン
俺と少女は満員ではないが、席が全て埋まった電車に揺られていた。
彼女の願いを叶えるために東京に向かっているのだ。
チラリと隣で俺と同じように吊革に掴まる少女。
背が低いため腕が伸びて大変そうだが、本人が何も言わないのでそっとしておく。
何故なら俺の目がいったのは彼女自身にだからだ。
日本人らしい黒髪は綺麗にうなじまで伸ばされ、服装も俺の姉のを借りているので大人っぽく、しかし顔は幼くて可愛らしかった。
「電車はあまり変わらないですね。前よりは乗りやすくなりましたけど」
少女がポツリと呟く。声は小さかったが、俺に向けられた言葉だろう。
「君の時代にも電車ってあったんだ。てっきり蒸気機関車だけかと思っていたけど」
「もう! 失礼ですね。私のときも電車はありましたよ! ……まあ、蒸気機関車も動いてましたけどね」
俺の皮肉に一度頬を膨らませるが、最後には苦笑する少女。
「乗ったことあるの?」
「はい、ありますよ。風情ある木製の客車で外の景色を眺めながら昼食を摂って……」
昔を懐かしむと彼女が決まって泣きそうな顔になる。今も少し、目が腫れていて昨晩泣いたらしい。
「羨ましいな。俺、乗ったことないんだよね」
「まあ、もう蒸気機関車は走っていませんよね。七十年前ですら数が少なかったですし」
「ん? ああ、何かね復刻して走ってるみたいだよ?」
「え? 蒸気機関車はまだあるんですか!?」
目を丸くする少女に俺はシーっと人差し指を自分の口に当てる。
「す、すみません。つい」
「今度行こっか?」
「え? ……はい」
恥ずかしげに俯く少女。
彼女には過去を悲しむのではなく、これからも続くかもしれない未来を見てほしい。