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改元

「れいわ元年? まさか陛下が崩御されてしまったのですか!?」

 少女が俺の言葉に目を丸くする。

 崩御ーー確か偉い人が亡くなったときに使う言葉だ。だが、今上天皇(令和)の前である上皇(平成)はご健在である。色々あって天皇が亡くならなくても特例で元号は変わった。

 だが、俺の嫌な予感が当たっているならば彼女の言っている天皇は別のはずだ。

「訊きたいことがある。今は何年だ?」

「? それぐらい学のない私でも知ってますよ! 失礼ですね、もう!」

 可愛らしく頬を膨らませる少女。彼女はころころ表情が変わるらしい。

 だけど大事なことは明らかにしないといけない。

「今は何年?」

「そんなに大事なことですか? 今は"昭和二十年"ですよ?」

 その言葉で決まった。

 彼女はこの時代の人ではない。

 昭和二十年。

 これでピンと来ない人のために分かりやすく言えば、昭和二十年は西暦1945年。つまり第二次世界大戦が終わった年であり、日本が太平洋戦争で負けたのだ。

 今はお盆の時期だから霊がこの世に来ることはあるかもしれない。

 だが、彼女はその年、今から七十四年前の過去から来たのだと言う。

 そんなことがあり得るのだろうか?

「あの、折り入って相談なのですが」

「……何?」

 ごちゃ混ぜになった俺の思考が引き戻される。

「実は……私も迷子でして」

 だろうな、と思った。 

 というか、迷子のレベルが違う。タイムスリップ迷子だ。

「ここはどこですか? 日本……ですよね?」

「埼玉だよ」

「え? 東京じゃなくてですか? 車とか戸建てが多いですけど」

 七十四年前の暮らしは知らないが、それでもそのときの東京よりは今の埼玉の方が家や車が多いのは当たり前だろう。

「あの~良いかな?」

「え、はい」

 物珍しそうにぐるぐると見ていたからだろう。俺が声をかけると恥ずかしげに頬を赤くする。

「驚かないで聴いてほしいんだけど。君の生きていた昭和二十年はもう七十四年も前だ」

「七十四年前? 何を言っているんですか?」

 少女はポカーンとする。分かっていた反応だ。

「君は過去から、いや、君からしたら未来に来てるんだよ。君の言葉が本当ならね」

「じゃ、じゃあ日本は勝ったって……ことですよね?」

 少女が訊いてきたのは『なぜ自分が未来に?』ではない。『日本が戦争に勝ったか?』だった。戦後に生きていてこれを知らないのは幼い子供ぐらいだろう。でも彼女は十六、七には見える。学生であるなら授業で習っているし、この時期ならテレビでも特番をやる。

 でも彼女は知らないのだ。

 だからこの言葉は、

「日本は負けたよ」

 彼女にとってどれだけ残酷なものだったのか。

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