ある夏
第二次世界大戦の終戦。日本で言うと太平洋戦争から早七十四年。
元号は『昭和』から『平成』、そして今年の五月に『令和』になった。
だが、元号が変わろうとも俺が二十年生きた『平成』と夏の暑さは変わらない。
立っているだけでも汗がだらだらと流れ落ちる最高気温三十五度の今日。
俺はせっかくの休みだから何かしようと外に歩いて出たが、気の迷いだったとすぐに後悔する。
結局は近くのコンビニで炭酸飲料を買って店先で喉が焼けることも気にせずにゴクゴクと飲む。
「あっち~」
ものの数分で500ミリリットルのペットボトルは空になった。
それでも汗は止まらず、喉が乾く。
「あの、すみません」
「はい……?」
声を掛けられた方を見ると俺より少し下ぐらいの少女と小学校もまだと思われる男の子が居た。
「ああ、良かったです。日本の言葉が通じました」
文字通り胸を撫で下ろす少女。
俺は彼女に目を丸くする。
彼女の姿が"もんぺ"と"防災頭巾"だったからだ。
学生時代の日本史の教科書で見たことがある格好。
現代日本ではまず見ることが出来ない。まるで"戦時中"を生きていたかのようだ。
「この子が迷子みたいで」
「……え? あ、迷子。迷子ね」
少女の声に俺はおかしな考えを頭を振って捨てる。
「交番ですかね。でも、ここからは遠いですし、コンビニでお巡りさんを呼んでもらいますか?」
「え、えと。では、それで……」
酷く困惑している少女。
俺はそんなにおかしなことを言ったか?
「ありがとうございました!」
お巡りさんが来てくれて無事に男の子は母親のもとへ帰っていった。その礼で少女は俺に頭を下げる。
「いや、良いよ。それでその~。珍しい格好だね」
「え? あ、はい。田舎臭いですよね。ははっ」
恥ずかしげに苦笑する少女。よく見ると頬が煤で黒く汚れている。
「いや、田舎臭いというか、時代が違うというか」
「時代遅れって。そこまで言わなくても……」
よほどショックだったらしく少女は肩を落とす。
「そうじゃなくて昭和の人みたいで」
場を和ませるためにビミョーな冗談を言う俺だったが。
「何を言っているんですか~。昭和なんだから当たり前じゃないですか~」
その瞬間、俺の背が凍った。
「なあ、まさか昭和生まれか?」
「? あなたもそうですよね? あ、すみません!?お若そうに見えたので。大正でしたか?」
不思議そうに小首を傾げたり、謝ったりしてくる少女からは冗談を言っているようには感じられなかった。
「俺は"平成"生まれで今は"令和元年"だ」