表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

1.ベルは王女様①

「はぁ…幼い頃から婚約者が決まっているなんて(かく)の国が羨ましい…」


 遠い遠い国の昔話。何度目かもわからないほど読み潰したそれは、幼い頃から婚約を結んだ幼馴染みの2人の貴族がただただ穏やかに恋をはぐくんで結婚するだけ というあまりの単調さからベル以外の人間には好評ではなかった。


「ベル様、他のお話もお読みになっていらっしゃるでしょう?婚約者以外の方と恋に落ちて婚約が障害になってしまった悲恋や、愛のない結婚だってあるのですよ?貴族でも王族でも自由恋愛からの結婚を良しとする我が国の方がよほど素晴らしいと思いますわ!それに隔の国と言えば魔力を一切持たないんですよ?生活のレベルだって我が国に及ぶわけありませんわ。きっと野蛮な…」


「そういえばリリア!騎士団の方と婚約が決まったのよね!おめでとう」


 メイドのリリアがなにやら不穏な方向に話を向け始めたのを感じ、慌てて話題を変える。王女付きのメイドともなれば愛国心は人並み以上であって当然なのだろうけれど、憧れの物語の舞台を貶されたくはなかった。


「ありがとうございます。そういえば田舎の両親に彼を紹介したらとても驚かれたんですよ。隣家のトニー…幼馴染みばかり追いかけていた私が立派な騎士様を連れてくるなんてと。まぁ私も王都に来なければ穏やかにトニーと結婚していたのかもしれませんが、今ではどうしてあんなにトニーが好きだったのかわからないくらいです」


 初恋なんて褪せてしまうもの。やはり幼い頃からの婚約なんてしないほうがいいと思いますわ と続けられ、ベルは本当にそうなのかと思案した。


(婚約していれば、それに向けてよい関係を築こうと努力したり、他の異性に目を向けないよい抑止力になるのではないの…?)


 無意識に左耳の耳輪に触れれば金属独特の冷たさが指に伝わる。物心ついた頃から12歳の今に至るまでずっと好きであり続ける人から届けられた赤い宝石つきのイヤーカフ

 全寮制の騎士学校に通う彼がベルの誕生日に送ってくれた ベルの宝物である。


(ウォル…ウォルと婚約していれば、こうして離れていても私のものになってくれると信じられるのかしら。他の人になんて目も向けず、私の喜ぶことを考えて…。ウォルがそうであったらいいのに)


 王女の歪な独占欲は自重も際限も知らない。

 だからきっと、現実は厳しいのだと思い知らされるのだ。



 ≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣


 ベル・ティル・リヴァベル王女はリヴァベル王国の至宝である。


 リヴァベル王国は王国と名乗っているものの、政を行うのは国民から選ばれた議会員であり王族の仕事らしい仕事と言えば外交、それも他国の使者への徹底的なおもてなし係と言える。

 緊張で顔の硬くなった使者の眉間のシワを消せれば合格、笑顔のひとつでも引き出せれば満点である。


 政をしないのに国民からの支持が高いのは、建国の伝説に由来する。

 曰く、

 500年前、まだ第1大陸にしか国というものが存在しなかった頃のこと、ある偉大な魔導師と正しき心を持つ勇者が漁民を悩ませる漆黒のリヴァイアサンを討伐しに大陸から海へ旅立った。


 しかしながら討伐は叶わず、その巨躯に一太刀浴びせたにすぎなかったのだが、リヴァイアサンは満足げに「フハハ」と笑い、「これが貴様の王か…なるほど面白い。賭けは我の負けとしよう」と魔導師に言い放った。


 リヴァイアサンが魔力をこめた吐息を1度放てば、海に緑豊かな島が現れた。


 2度目の吐息が勇者にかければ勇者の髪色は緑がかった美しい灰色に変わり、同時に魔力も大きくなり漆黒のリヴァイアサンの加護が与えられた。


 3度目の吐息は島に放たれ、大陸一の王城よりも立派な白銀の大城と色とりどりの家々が現れた。


 あっけにとられる勇者であったが、魔導師にしたり顔で「海神に選ばれし王よ!」と跪かれ、何やら魔導師の策に嵌められ王に担ぎ挙げられてしまったと知る。


 美しい白銀の城とそれに続く街並みは人々を魅了し、大陸から多くの移住者が渡った。

 仕立てられた王とはいえ元々正しき心を持つもの故か、はたまた加護の力が強かったのか王の指導の元、島は一つの強大国として独立を果たした。


 海の真ん中に国が現れたことでこれまで交流のなかった第2大陸の人々とも交易が始まり、東の第2大陸にも国々が立ち始めた。


 世界に大きな変革をもたらしたこの島国はリヴァイアサンの加護を忘れぬようリヴァベル王国と名乗り、またリヴァイアサンも王を忘れていないかのように、この国の王族にだけ稀に初代王と同じ 緑がかった灰色の髪をもつ者が生まれた。

 そしてリヴァイアサンの加護を証明するかのように、この髪色を持つものが現れると必ず国が繁栄し、髪に触れたものは幸運を得るとも言われている。


 故にこの髪色を持つものは「リヴァベルの宝石」と呼ばれた。そんな国に、実におよそ200年ぶりに生まれたリヴァベルの宝石こそベル王女であり、国名から王女の名前をつけてしまうほど国中が浮かれきっていた。


 ベルは周りの人々から大切に扱われ、手に入らないものなどないように思われたが、最も欲しいけれどなかなか手に入らないものがあった。3つ年上の幼馴染み ウォルリア・アクスの心である。


 ウォルリアの父は軍の上将という堅物中の堅物であったが、母は王妃の親友でありその気さくさからよくウォルリアを伴って城に通っていた。

赤ん坊のベルに絵本を読み聞かせてやったり、少し成長したベルにうさぎの撫で方を教えてあげたり、「まるで兄妹のようね」と母親たちによく言われたものだった。


 けれどいつしか、そう言われるたびにベルは内心「結婚できない兄妹なんかじゃないのに…ウォルにはずっとそばにいて欲しいのに」と不満に思うようになっていた。


 リヴァベルの宝石であるベルと漆黒のリヴァイアサンを想起させる黒髪と琥珀色の瞳をもつウォルリアは絶対にお似合いであるとベルは確信していた。


 けれど、幼いベルが衝動のままに「好き」と言ってもウォルリアは「ありがとうございます」と笑みを浮かべて礼を述べるばかりで好意の言葉を返してくれることは1度もなかった。


 10歳にもなると、いよいよ気恥ずかしさから心のままに「好き」と言えなくなった。もちろんテンプレートのような応対が帰ってくるのが怖かったのもある。


 それでもウォルリアを誰にも奪われたくないという気持ちからか、誕生日プレゼントに欲しいものはないか?と問うウォルリアに「ウォルにずっと傍にいて欲しい」と呟いた。

 ウォルリアは一瞬驚いたように目を大きくしたが、すぐいつもの優しい笑顔になると


「はい。私は必ずベル様の近衛になるつもりです。必ず、お近くでお守りします」


 護衛として という意味ではなかったのだが、それでもベルの傍にいてくれるつもりだという返事は嬉しかった。


「本当?どんな危機からも傍で守ってくれる?」


「はい」


「例えば私が拐われてしまっても、助け出してくれる?」


「必ず」


 望む回答を間髪いれず返してくれるウォルリアにベルの心は歓喜した。だから少し意地悪なことを言ってみたくなった。


「けれどウォルが目を離した隙に拐われてしまったら?どこに拐われたかもわからなくなってしまうわ…?」


「そう…ですね…例えば探知魔法をおかけすることが許されるなら、離れていてもどこにベル様がいるか私にはわかるようになりますが…」


「そんな素敵な魔法があるの!?」


 離れていても 自分の意思とは関係せずにベルの存在を思い起こさせてくれる魔法 まるでベルがウォルリアのものになれるような気がした。


 後に思い返せば実に軽薄であったととか言えないが、ベルは強くウォルリアに頼み込み、その場で魔法をかけてもらった。


 次の瞬間、魔法の発動を探知した魔法省の役人が何事かと2人の元に駆けつけ、「王族に魔法省の許可なく魔法を使うなどなんたることか!」と魔法は解除され、ウォルリアは大目玉を食らうことになった。


 ベルが「私が強くお願いしたからよ!」とウォルリアを精一杯庇った甲斐があったのかは知らないが、はたまた子供のいたずらの範疇と認められたのかウォルリアが刑罰を受けることはなかったが、父親に騎士になるべく訓練を増やされたようでベルの元に訪れることは少なくなった。


 そしてそのまま、ベルが12歳になる年に騎士学校に入学してしまったのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ