私が愛する彼女には旦那がいる
【僕の妻には愛人がいる】別視点です。
当時私と彼女は同じクラスだった。教室の片隅で本に噛り付いていた私に、彼女は淡く微笑みかけた。
彼女は美しかった。
本の中しか知らない私に世界を教えてくれた。
物語だってきらめいていたが、それでも世界は鮮やかだった。
───あぁ、私の好きな物語はここから落ちてきたものなのだ。
そう、悟った。
そしてその鮮やかな世界の中で淡く笑う彼女に───
───知らぬ間に私は恋に落ちていた。
同窓会のあとあられもなく酔っ払った彼女を放っておくことができなくて。
近くのホテルに彼女を連れて、メッセージを残したら去るつもりだった。
彼女が結婚したことは知っていた。
携帯にも彼女を心配をする彼からメールが届いていた。
本当ならそのメールに返信すべきだった。
でも、そうしなかった。
見たくなかった、彼女と結ばれた人を。
その人を前にどんな顔をすればいいのか。
───自分は、どうして、ここまで汚い
苦しかった。10年の想いを忘れるとかもできず、終わらせることもできない、弱い自分。
自分の弱さに首を絞められて、でもそれに甘んじて。
ただただ汚い自分を、あの夜まざまざと見せつけられて。
だから
魔が差した。
彼女を幸せにしてやってください
震える声で頭を下げられた。
まるで木立のように背の高い人だった。
自分の妻から愛人を紹介されるという横暴を受けたにもかかわらず、さらにはその愛人に頭を下げた。
彼は何も見ていなかった。
私の顔も、周りの注目も、
私と彼女が同性であるということでさえ。
ただ、彼女が幸せであるように。
それのみを見つめていた。
まっすぐな人だった。
彼女には彼こそ相応しい。そう思った。
だから私は何度でも言う。
──────自分は一介の愛人ですので
2019/08/21 修正 14:55