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珈琲の香りと共に。  作者: 芦谷虎太郎
3/5

3杯目。

 周りの飲食店のランチタイムは、だいたい十一時から十四時、その時間を目安にお腹いっぱいになったマダムや、スーツを着た忙しそうな人たちで店の賑わう時間帯がやってくる。マダムたちはいつだって楽しそうだった。旦那の愚痴、健康話、誰かの噂話、内容はどうであれずっと笑っていた。自分も早くあの年代まで進み、小さな問題なら笑ってやりすごせるようになりたいと思った。私もいくらか年を重ねてはいるが、まだまだ無駄なことに悩み苦労する。ひとつの壁を避けるのか登るのか、はたまた崩すのか、自分に合った進み方さえもまだ分からないでいた。今度あのマダムたちの中に混じって、人生の秘訣なんてものを聞いてみたいものだ。スーツを纏う人たちは、パソコンを開き食休みもなく働いている人と、同僚と楽しく話している人とさまざまだった。なにがそんなにも彼らを左右するのだろうか。仕事内容はもちろんだと思うが、もっと違う理由もある気がした。私は会社に勤めたことがないためよく分からないが、どちらにせよ勤めるというのは大変なことなんだろうなと思った。普通のことを普通にこなすことは、簡単にみえてとても難しいものだと私は思う。いつもパソコンに向かい面白みも無いし、こんな仕事誰にでも出来ると話す会社員をいくらか見てきたが、私からしてみたら毎日満員電車に乗り、パソコンを上手に使いこなし仕事をするなど到底できない作業だった。嫌味とかそんな意味はなく、ただ単純に自分の出来ないことをしている人は凄いなと思った。誰にでも出来るものではありませんよと、割って入りたいところだ。そんなさまざまな人たちを眺めているのは好きだった。笑っている人、真剣な顔つきで話している人、どんな人の傍にも、自分の淹れた飲み物があるのは嬉しい限りだった。今日も様々な人たちがやってきて入口につけてある鈴の音を鳴らす。ときたま常連の客と会話を交わしつつ、珈琲を淹れ続けた。店の中に香りが充満する。さまざまな声と香りの入り混じるこの時間を、私は心地よく感じていた。

 お昼の賑わいを終え、一旦奥に入った。この店は、大きく分けて三部屋に分かれている。表から見て分かるのは、キッチンとレジが兼用のスペースと、満席になっても、せいぜい十五名ほどしか入れないような客席だけ。しかしレジの奥には扉があって、奥にもう一部屋設けてあった。食材の在庫置きでもあるが、休憩場所でもあった。バックヤードと言えば伝わりやすいだろうか。いや、そんなたいそうな部屋ではない。豆の在庫などが入った段ボールがそのままで置き去りにしてり、あとはパイプ椅子が二脚あって、座って脚を伸ばして珈琲を飲めるような、ただそれだけの場所だった。なんなら倉庫と言ったほうがしっくりくる。はたから見たらとてもごちゃごちゃとしたスペースだが、私の一番落ち着く場所でもあった。

 陽が傾き始めた頃、入り口の鈴の音が鳴った。お昼のピークが終わると、まばらにしか客は来なくなる。場所が悪いせいもあるのか、まったく来なくなる日もあったりする。だからどちらかと言えば、この時間の鈴の音は珍しい。扉を開け入口を確認する。一人の女性が少し不安そうな顔で立っていた。若々しく制服を身に纏い、短めのスカートから白く細い脚を出した彼女は、なんだかとても大人っぽくみえた。珍しいお客さんだ。店に迎え入れると、彼女は軽く会釈をした。腰あたりまである長い髪を整えながら彼女は棚にある置物を眺めた。スイスで買った物だった。趣味で集めたものだったが、どうやら気に入ってくれたらしい。

 スイスに初めて行ったのは二年前のことだった。知り合いに海外旅行の好きな人がいて、連れて行ってもらったのだ。初めてみるスイスの街並みは、どこか映画の世界のようだった。せっかくの旅行だったが、余裕もなく連れの後ろを必死で付いて歩いていた事を覚えている。日本に帰ってから感動は思えているものの、細かなところまでは覚えていないことに後悔した。連れからはぐれないように、荷物を無くさないようにと気を張りすぎていたのかもしれない。また行こう、絶対また行こうと思い続け二年が経ってしまった。今では、あの余裕のない日々が愛しく思えて、記憶の更新はしなくてもいいのかもしれないなど思い始めている。

 彼女はひとつひとつを手に取り様々な表情を見せた。自分の好きな物を他の人にも気に入ってもらえるのは、とても喜ばしかった。柔らかい気持ちで仕事を再開させる。明日の仕入れの準備だ。最近は肌寒くなってきたから、もう少し珈琲豆を多く仕入れたほうが良さそうだ。その分冷たいものは減らしてもいいだろう。食べ物のほうはどうだろう。クッキーが少なかった気がする。そろそろイベントの時期にもなるし、限定メニューも考えなくていけないな。店の食べ物のほとんどは自分で作っているものだった。以前から製菓が好きで、時間が空いたときはよく作っていた。どうせ作るならと店に出してみたのが最初だった。自分の作ったものを誰かに食べてもらえるというのは、なんだか少し緊張した。こうして改めて見直してみると、店のなかはずいぶんと自分の趣味であふれていた。店中に飾られたスイス土産ももちろんだが、言うなれば客に出している食べ物だって趣味のひとつだ。食器も、店内に流れる音楽もすべて。まぁ、これらは趣味と言うより、好みと言うべきか。幼い頃父親に連れられて入った喫茶店は、自分の住む世界とは別世界のように感じた。休みが不定期だった父は、土日が休みになるたび、喫茶店に連れて行ってくれた。遊園地や映画館とかではなく、いつも決まってあの店だった。商店街の脇道にある古びた店で、入口の扉はいつもギィーと音が鳴った。ずいぶん長く通っているのだろう、父はカウンターの奥に座る強面のマスターに「よう」と声をかけ、マスターもまた「おう」と言葉を返した。初めてこの笑顔のえの字もないマスターに会ったときは、恐怖を感じながらも目をそらすことができず、そのまま頭だけ小さく下げたことを覚えている。父は不器用な人だった。しかし不器用なりに、子供との時間を作ってくれていることを私はそれとなく感じていた。「お茶でもしに行くか」それがお出かけの合図だった。せっかくなら公園にでも行ってくれればいいのにと、最初はよく思った。しかし何度かこの父とふたりの喫茶店デートを重ねるたびに、そんなことは思わなくなった。公園なんて、父には到底無理難題な場所なんだと感じ取ったのだ。子供の喜びそうなことは何ひとつできなく、こうして出かける時でさえ手も繋いでくれないような父親だったが、別に嫌いではなかった。いつも決まって窓際の席に座り、父はブレンドを、私にはココアをくれた。たまにパフェもつけてくれたりした。今思えば、あれはご褒美だったのだろう。テストで点数が良かったり、先生に褒められたことなど、母に話したことをきっと父は聞いていたのだ。本当に不器用な父親だと改めて思う。喫茶店での過ごしかたは、本を読んだり持参したラジオで競馬実況を聞いたりと、自分の時間を好きに過ごす父を目の前に、私も絵を描いたりして自由に過ごした。あまり表情の豊かな人ではなかったが、たまに動く眉をみているのが楽しかった。父と二人だけでいられるこの時間が私は好きだった。その店の中には、幼い私には理解出来ない物が多かった。魔除けのようななんだか毒々しい人形に、等身大とも思える大きさの豚の置物、レコードもあった気がする。店内の音楽はそのレコードから聴こえていた。そんな世界に一人たたずむ店のマスターは、この世界の中心のように思えた。この人がここを離れてしまったら、この世界は崩れてしまうんじゃないか。そんなことを考え、少し緊張しながらココアを飲んだことを思い出す。あの店のマスターも、こんなふうに自分の好きなものを集め、自分の世界をつくっていったのだろうか。

 ふと目をやると、彼女が席を立っていた。仕入れ表を置いてレジへ向かう。


「いらっしゃい」


 少し照れたように会釈を返した彼女は、メニューボードを眺めた。あまり多くはないメニュー。彼女好みのものがあるといいが。ブレンド、アメリカン、カフェオレにカフェラテ、この年頃の子ならカフェオレとかだろうか。それともココアだろうか。


「ブレンドで」


 彼女が言う。予想が外れた。

 彼女の注文を受け、まずお湯を沸かす。それから、あらかじめポットに入っていたお湯で、ドリップポットとサーバーを温めた。珈琲はお湯の温度で、味も香り変わる。そのため使う器具は、あらかじめ温めておく必要があった。自分の思い描く珈琲を淹れるためには重要なことだ。やかんのお湯が沸くあいだに、その他のものを用意する。うちではペーパードリップ式を用いているため、ドリッパーにペーパーフィルターを用意する。ついでだからカップとソーサーも用意した。やかんから、少しずつ水蒸気が溢れるようになった。そろそろだろう。豆を適量計りミルに入れ、電源を入れた。機械の音と、豆の挽かれる音が混ざる。本当は手挽きの音が聞きたいと、何度も思ってはいるが、店でとなるとやはり時間もかかるし、なにより効率が悪かった。そのため手挽きミルの使用は、自分に淹れるときだけのお楽しみとなった。三十秒とかからず豆が挽ける。人類の発明とはなんと画期的なものだろう。挽けた豆をペーパーフィルターに移したところで、やかんが小さく音を立て始めた。火を止め、温めていたドリップポットに、お湯を入れ替える。ここから一番重要な、ドリップ作業が始まる。粉の中心から、そっと乗せるように全体にお湯を注ぐ。均一にお湯を含ませたらそのまま蒸らす。豆の美味しい成分を十分に引き出すための大切な作業だ。二十秒程蒸らし、サーバーにポタポタと落ち始めたらまたお湯を注ぐ。次は粉の中心から、平仮名の「の」の字を書くようにして注ぐ。ぶくぶくと立ち始めた泡と一緒に、珈琲の香りが広がった。私の一番好きな瞬間だ。液面が1〜2センチ下がったくらいで、またお湯を注ぐ。この作業を数回繰り返して珈琲は出来あがる。


「ミルクとお砂糖は?」

「あ、ブラックで大丈夫です」


 少し頬が緩んだ。今どき珈琲をブラックで飲む女性は少なくないが、この年頃の子にしては珍しいと思った。しかし喫茶店店長という肩書きを持つ自分の気持ち的には、ブラックで飲んでもらえるのはありがたい。彼女とのこんな会話に似たやり取りを、いつかどこかでした覚えがあった。いつのことだろうか。正しくは思い出せないがその記憶の断片が頭をよぎる。懐かしさや照れくささ、その他いろいろな感情が込み上げてきて、また少し頬が緩んだ。


「ブラックで、苦くはないですか?」


 抽出されたばかりの珈琲をカップに注ぐ。白いカップの中に黒模様が広がり、そして香りが鼻をくすぐる。この瞬間が一番好きだと、改めて思う。


「もう、慣れました」


 今までよりも落ち着いた声が聞こえた。顔を上げようとして、やめる。

 珈琲の入ったカップをソーサーにのせて、レジへ向かった。彼女はレジの空いたスペースに肘をついて、珈琲が出来上がるのを待っていた。「お待たせしました」と声をかけると、「いーえ」とでも言うかのように、彼女は笑みを見せた。


「慣れても、結構苦いものですよね」


 珈琲の苦味を思い出す。口に広がったあの苦味は、なかなか離れてはくれないものだ。


「たまに、苦くてたまらないときがある」


 私は記憶を遡る。いつも普通に飲んでいたはずの珈琲が、その時だけは苦くてたまらない時があった。香りすらも好きだと思えなくて、苦くて苦くて、もう捨ててしまいたいと思うほどだった。口の中に広がる苦味と、お湯の熱さが刺激に変わる。これが大人の飲み物か、なんてことを考えながら、改めて苦いなと思う。こんな下手くそに淹れられた珈琲豆に、申し訳なさを抱いたりもした。苦い。にがい。ニガイ。ミルクでも入れてみようか、なんて。時間をかけ飲み終わると、少しだけ気持ちに力が入る気がした。それと同時に、なんだか吹っ切れた気持ちになる。なんだかんだで、やっぱり珈琲は美味しいなと、げんきんなことを思いだす。そんなものだから、この苦味は、別に嫌いじゃなかった。

 彼女と目が合う。彼女は吹き出すように小さく笑った。女子高生らしい笑顔だ。


「たしかに」


 つられて軽く笑う。柔らかい空気が二人を包んだ。

 彼女にもそんな時があるのだろうか。今のこの言葉が、どんな意味を含んでいるものなのかは分からない。だが、自分と同じ気持ちで珈琲の苦味を分かっていてくれたなら嬉しい。そんなことを思った。彼女が軽く息をついて笑いを止めた。そのときの彼女の纏う空気は、改めて女性だと思った。大人っぽいとでも言うのだろうか。子供だと思っていても、いつの間にか大人らしさを身につけている。このくらいの年齢の子は、なかなか侮れないものだ。


「私も同じです」


 彼女が静かに言った。誰かに届けるという意識はなく、ただただ音にだけされた声だった。聞き返そうと思ったがやめた。彼女は何かを思い出しているようだった。どんな出来事を思い出しているのだろう。最近のことだろうか、昔のことだろうか。楽しかったことだろうか、苦しかったことだろうか。いろいろ考えてみたけれど、そんなことはもちろん分からなかった。


「おいくらですか?」


 笑顔で彼女は聞く。もう少し珈琲の話をしたかったが、また今度の楽しみに取っておくことにした。会計を済ませて彼女は言う。


「本当、苦くて苦くてたまらないですよ」


 一瞬、空気が変わった気がした。今までの彼女が纏う空気とは少し違く、冷たさを含んだような、そんな空気。珈琲の苦味を彼女は嫌っているように感じた。真新しい香りが彼女を包む。「いい香り」と彼女がつぶやいた。先ほどの空気より、柔らかい空気を纏った。あの冷たさは気のせいだったのだろうか。女性は気持ちや雰囲気、人格までも変えられるとなにかの本で読んだことがあった。そのことを思い出し、改めて女性とは分からないものだと思った。席に戻る彼女を目で追った。長く綺麗な髪がなびく。

 呼吸をするより少し多めに息を吐いた。まだ仕入れの確認の途中だったことを思い出す。確かクッキーが少なかったと、確認したところだった。仕入れ表を手に取り一度奥へ戻ろうと意識を向けた。店内に二重の足音が響いた。客席に目を向けると、彼女がこちらに向かってきていた。手には小さな箱を持っている。


「甘いものはお好きですか?」


 レジへと戻ってきた彼女は、なんだか楽しそうな顔をしていた。いたずらを仕掛ける子供のようだった。突然のことに驚きつつも肯定の返事を返した。レジに置いた箱を彼女が開ける。中身はケーキだった。


「モンブランとかぼちゃのケーキ、どっちがいいですか?」


 彼女は聞く。まるで友達と一緒に食べるかのように。最初からここで食べるために買って来たのだろうか。だとしたらなぜふたつもあるのだろう。いや、それ以前に普通買ったものを店で食べるだろうか。この店では別に構わないが、持ち込み禁止の店はそう少なくないはずだ。彼女は他の誰かと食べるために、二つ買った。ここで待ち合わせでもしていたのだろうか。それともこの後、その誰かの待つどこかに行くのかもしれない。そのためのケーキを、今ここで食べてしまっていいのだろうか。いろいろなことを考え返答に困った。しかし彼女はお構いなしに、ケーキの箱を取り出しやすいように壊した。もうこのまま持ち帰るというわけにはいかない。むしろ彼女にとって、そんな気は全くないようだった。少し呆れつつも、後ろの棚からお皿とフォークを取りだした。


「どうしたんですか?それ」


 聞きたいことは他にもあったが、すでに彼女の行動が無意味にさせていた。今さら、ここで食べていいのかなんて、聞けるはずがなかった。彼女と目が合う。少しできた違和感のある間をかき消すかのように彼女は言う。


「買ったんです」

「誰のために?」

「自分のために」


 彼女は笑った。つられて笑う。

 今まで柔らかかった彼女の声が、その一言だけとても固く感じた。でも彼女は笑顔だった。まだ幼い子供のように無邪気に笑い、ケーキを眺めていた。モンブランにしようかかぼちゃのケーキにしようか、まだ悩んでいるようだった。分かりやすい子だなと思った。プライドがあって、自分に自信もあるのに変なところで自信を無くす。そしてそこでプライドが邪魔をする。大人っぽく見えていたのは、彼女の頑張りからだったのではないかと思う。きっと本当は、とても子供っぽく無邪気な人なのだろう。学校という組織のなかでの生き方を覚えると、どうしても誰かと共に日々を過ごさなくてはならなくなる。もちろんその生き方が全てではない。ただ、最も楽で上手な生き方だと思う。誰かと共にということは、相手からの見え方が大事になってくる。自分勝手には過ごせないのだ。相手のイメージに合わせて、自分を殺さないといけない場面が、どれだけあるだろう。こればかりは大人子供に関係なく存在する。もしかしたら子供たちの世界のほうが、酷かもしれない。そんな中で、頑張って自分を作りあげてきた彼女。ちょっとした世界の変化で、大したこともない自信を無くす。不安になって、誰かに助けを求めたくなる。しかしに声にして、助けを求めたりはしない。作り上げてきた自分という人間像と異なるからだ。ただ、気付いてほしい。察してほしい。自分がいつも通りではないことに、気付いてほしと願っているのだ。そして相手が気付くように、様々な方法でヒントを落としていく。実に女性らしい人だと思った。自分の纏う空気を上手に変化させ、声も出さずに相手に伝える。まだ意識的ではないのかもしれないが、やはり侮れない。まんまとはまっていた自分が、おかしくて仕方ない。

 何かを思い出したかのように、胸のあたりが軋んだ。あぁ、きっといつかの自分をみているのかと、ふと思う。新橋で酔い潰れているおっさんにも、銀座でマダムを気取っているおばさんにも、誰にだって学生時代はある。今のこの子のように、大人と子供の狭間を、息苦しく過ごした時代があるのだ。


「どちらも、美味しそうですね」


 ケーキの甘い香りとその容姿に、頬が緩んだ。彼女も同じように笑ってくれた。静かな笑顔だった。彼女が、それぞれを皿に移してくれた。かわりに役目を果たし終えた箱を捨てる。


「かぼちゃの方は新作です」

「ではモンブランをいただこうかな」

「あれ、分かりました?」

「なんのことでしょう」


 そんな言葉を交わして笑いあった。おどけて「すみません」と言った彼女は、最後にもう一度笑って、ケーキののる皿を手に、席へと戻っていった。心なしか楽しそうに見えた。

 自分にも、珈琲を用意する。またしても豆を挽く音が、店内に響いた。


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