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プロローグ と或る日の魔界の夕暮れ。

 

 冬の訪れも間近の、晩秋の季節。


 西に沈む夕日は緩やかに落ちて行って、東の空の端っこには、十六夜に欠けた月が引っ掛かっていた。


 その夕日の中で、はしゃぎ回る幾人もの子供たちの影は地面を伸びて、忙しなく動き回る。


 そんな影の持ち主である子供達は、人の形をしながらも、どことなく歪な形をした異形の生物たちである。


 木目肌をした人間の形をしたドライアド。

 頭の上には花を咲かせたマンドラゴラ。

 かぼちゃの頭を持つジャックオランタン。

 まるで樹木がそのまま動いているかのようなトレント。


 彼らが遊ぶ傍では、水を抜いた田圃が広がり、刈り入れられた稲が稲木に掛けられて乾燥されている。


 それを刈り取るのは、青や緑、赤や紫と言った様々な肌の色をした人々だ。


 スタリルの良いすらりとした体に青い肌を持ち、鎌を片手に借り入れを行うのはダークエルフの農夫だ。


 ダークエルフの農夫のそのすぐそばで、緑色の肌と矮小な体躯を持って刈り入れを手伝っているのは、ゴブリン。


 そんな彼らの休憩用に温めのお茶を用意してきたのは、紫色の肌と黄金の瞳を持った、ウルクの女性。


 天守閣と本丸を持つ山の上の城塞の元、どこまでも広がる田園風景に、魔族と呼ばれ迫害され、時には魔物と呼ばれ忌み嫌われる彼らは、のんびりとした秋の日暮れの風景に笑いながら、農作業にいそしむ。


 そんな彼らの元に、筋骨隆々の体に赤い肌を持ったオーガの狩人が狩りの帰りがてらに、農作業にいそしむ彼らに話しかける。


「いやあ、今年も豊作でえがっだなあ。どうだあ?新米の調子は?うまいか?」


「食ってみねえど、わがんねえよ。でもまあ、ほんになあ、豊作でよかったでな。流石は、魔王様だで」


 オーガの狩人の言葉に応えたのは、ダークエルフの農夫だ。肩にかけたタオルで額の汗をぬぐいながら、端正な顔を綻ばせると、手に持った稲の束を嬉しそうに握りしめる。


 それを見て、傍らの人のよさそうな顔をしたウルクの女性と、穏やかな顔をしたゴブリンも頷く。


「ほんになあ、是も魔王様のお蔭だで。十年前の飢えたことしかないあのころからは、もう考えもつかんわ」


「んだな。んだ、んだ。ほんに魔王様のお蔭だあ。有り難てえ、有り難え」


 そうして、この魔界に有り触れた人々はにこやかな笑顔を浮かべながら、再び農作業にいそしむ。


 その姿を見下ろす様に、魔王城は山の上にそびえたち、夕日がどこまでもどこまでもその光景を照らしていた。


 こうして、今年も魔界は、実り豊かな秋を迎える。


 

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