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人魚は江戸に流れ着き  作者: 月常
1/2

相対

人魚って色々と魅力的です

夕刻に雪が降ると僕は決まってここに来る、雪が降る日は漁師も行商人も皆寒さに負けて酒屋で呑み明かす、人が居ない砂浜に雪が積もって白色となり灰色の空や藍色の海と重なるこの景色が何とも言えず好きなのだ、それを眺めたくて僕は決まってここに来る

ただ今日は違った、見慣れた白色に見慣れない黒い点がぽつんと置かれていた、噂に聞いた海獣だろうか?あれは読売のホラ話だとばかり…もしかしたら僕と同じくこの景色を見に来た人かもしれない、僕はそう思い黒い点に近寄った

今日ほど世界は僕の狭い了見では測りきれないと実感した日は無い、その黒い点は人間でも海獣でも無かった

黄金色の髪、死体のように白い肌、そして魚のような足腰

どれをとって見ても人間では無かった、自分の理解を遥かに越えた存在を前にして僕はその場にへたり込んでしまった

「も、物の怪だ!」

頭で考えるより先に口から言葉を発していた、声に驚いた物の怪はこちらを見た、もう駄目だと直感的に感じた

だが世界は簡単に僕の常識を越える、人を襲って食うはずの物の怪は動かない…

正確には動けないで居た、よく見てみると全身が傷だらけで今にも息絶えると言った感じだ

「怪我…してるのか?」

僕は見ればわかる事を口にしていた、物の怪は何も言わない

「少し待ってろ、すぐに戻るから!」

人間だろうと獣だろうと怪我をした奴を見つけたらどうするべきか僕は知っていた、たとえ物の怪だろうと怪我をした奴には違いない、だったら僕がすべき事は一つだけだ

さっきまでへたり込んでいた事が嘘のように僕は走った、家には薬屋から買った薬が常備されている、それを取りに走っていたのだ、もし少しでも遅れて物の怪が死んでしまったら僕は死ぬまで後悔するだろうから


自分でも驚く程に早く走る事が出来た、浜には変わらず物の怪が居たが雪の冷たさが傷に染みるのかとても苦しそうな顔をしている、幸いこの物の怪の大きさは僕と変わらない、親父の漁船に乗せられて毎日力仕事をしていた僕は軽々と物の怪を持ち上げ近くの洞窟に運び込んだ

人間の薬が物の怪に効くだろうか?そんな疑問が浮かぶが僕にはこの薬を塗ってやる事しか出来ない、ちゃんと寺子屋に通っていればこんな時に出来ることも一つじゃ無かったのだろうか?そんな事を考えながら薬を塗り終えた僕は物の怪に自分の服を被せて隣に座った、物の怪は驚いた顔をしていたが僕も内心驚いていた

ただこの物の怪を不思議と守りたいと思った、なぜかと聞かれたら答えられないがとにかくそうしていたかった

全力で走ったせいか一通り介抱が終わって安心したせいかはわからないが急に眠気に襲われた、どうせ雨や雪の日は親父は呑み明かし帰って来ない

僕は物の怪の隣で眠りについた

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