MMOの思い出小説風①
数年前のことだ。相方の家に行くと真新しいノートパソコンがあって一緒に遊ぼうという。パソコンでゲームなんてソリティアレベルの私だったがそういう予定で用意されたのならやってみるかと手を出した。既にインストール済の某MMOである。
ゲームのキャラメイクは簡単なもので種族性別、髪型と顔が五種類くらいずつ。なんとなくやるなら巨乳がいいと性能やらストーリーも聞いたはずなのにグレーの肌をした巨乳ちゃんをやることにした。ちなみに白い子はまな板だったのでスルー。
ゲームが始まると軽いストーリーが入りチュートリアルが始まる。チュートリアル用のモブに囲まれているNPC。倒せと言われるがどう見ても現状無害。細かいことは気にしないで遊ぶものなのだと初心者はここで理解する。従ってクエストクリアでレベルアップ。誰一人いない初期村にとばされた。
ゲームのお便利機能にはアイテムボックスやマップ、GMコールや掲示板など御約束が詰まっていて、画面右上のインターフェースには敵や仲間がマーキングされた方位磁針がついている。低レベルクエストを受けようとしたが、ここで方向オンチが炸裂。何度もマップと方位磁針の世話になった。
なんとかこうとか村から出たら、相方がまな板キャラでパーティー申請を飛ばし、ギルド申請を飛ばして踊る。とりあえず全部承諾ボタンをクリックしたらチャット欄がぶわーと流れた。相方の古巣ギルドで三十人くらいいるらしい。ゲームを始めたはずなのにここからチャットをガンガン返す。初心者なので同時に狩りなんかできない。
結局ほぼチャットをして少し狩りをするだけになった。
経験値分散をさせないためにパーティーを切った相方がストーキングしてくる。追尾の機能があるらしい。障害物を挟んでキャンセルさせる技能が上がる。最寄りの敵をターゲットロックするボタンをF1キーにあて唯一の攻撃魔法をF2キーに配置して交互に押すだけの簡単な作業をして解散時間になった。
ゲームを切ったら相方に貸すからまたやろうねとノートパソコンを渡されてそこそこの口論をした後帰宅。レベル差があったから相方のいう一緒に遊ぶはできなかったなと反省した私はここから怒濤のレベルアップを始めた。
相方は社会人になっていたが、私は学生。廃主婦に昼間ブートキャンプに連れていって貰い、夜間相方のサブキャラと遊ぶ。よく考えたらこの時点で目標達成できているのだが、アホな私はメインキャラ同士で遊ぶことを目指していた。
人に頼んで急激なレベルアップをすることを寄生というのだが、このゲームの寄生は古いだけあって既にテンプレがある。パーティー人員のレベル差が12以内でなければ経験値が入らないことと死んで神殿復活すると経験値減のペナルティはあるが高レベルの復活魔法かアイテムを使えばその場でチャラなことを念頭に置いたテンプレだ。
まず宿主が寄生者のレベルプラス10くらいのキャラがいける狩場に高レベルヒーラーのサブキャラを連れてくる。石やら壁のオブジェクトで鋭角になっている場所付近にヒーラーを配置してログアウト。次に宿主キャラが魔法職なら杖のまま、物理職なら槍を用意する。槍はキャラに近い順八匹にあたる物理範囲武器だった。宿主は鋭角ポイントでモブから攻撃を受けにくい角度に配置して待つ。寄生者は周りのモブにちょっかいをかけてこの鋭角まで逃げ込み、宿主は槍か範囲魔法攻撃を当ててタゲをとる。MPKの擦り付けを応用した形だ。狭い空間に殺到するモブはプログラムの処理の関係か列をなすのではなく被って表示される。どいつもこいつも重なりすぎてどんなグラフィックも蛇腹に見えた。被って表示されるので先に述べた近場の八匹しか当たらないルールも同着扱いを受けて沢山に当たる。沢山を一度に処理できるのだが被ダメもでかいのでタゲとびしない程度のヒールをかけたり残りが減ったらお代わりをとりにいく。死んじゃう事故が起きるとキャラチェンジをして復活魔法も貰えた。これがテンプレ寄生。
ひたすらこの寄生を繰り返しながら過ぎ行くレベルのクエストを受けて40付近のレベルに入った。すると相方が大規模レイドに行こうと誘う。
レイドボスは倒すと一定時間復活しないユニークネームを持つ敵で、フィールド内にいるレイドは結構な数がいる。レベルや装備などの要素で変動するが基本適性レベルのパーティー一つで倒せるバランスだ。相方が誘ってくれたのはこの敵からしかドロップしないお高い装備があり、幾つものパーティーを更に纏めた連合で行かなければならないという大規模な物になる。そろそろギルドの外に出てパーティースキルや分配を覚えなさいということだった。
大規模レイドは発見者が掲示板に報告スレッドを書くローカルルールがある。次に出たら行くぞと待ち構えていた私はしょっちゅう掲示板を開いて待つ。そしてその時がきた。しかし昼間だったので相方は欠席。
出現報告に加えて主催者が何時何分現地集合と書き込んでくれたのでマップを開き場所を探す。近くのポータルへ移動してそこから走った。そして迷子である。砂漠の中に蟻の巣が空いていてちょっとした迷路を抜けて行くのだが、私が迷子になったのは砂漠の中だ。時間は迫るのでチャット欄の広域発言タブを開いて叫ぶ。
「迷子になりました助けてください!」
嬉しいことに個人チャットでヘルパーが現れる。
「迎えに行きますよ。パーティー送ります。蟻の出ないところに隠れていてね」
パーティー申請を承諾しながら思う。この砂漠に蟻なんて出るの? 相手も気づいた。
「蟻の巣入ってない系?」
「ない系です。テラ迷子」
「次回はポータルから飛んだら動かないで待つといいよ。誰か来たらそれについていけばいいから」
なるほど方向オンチは一人で行動してはいけない。脳内にインプットした。ヘルパーのイケメンは暫くすると歩いてきて先導してくれる。砂漠を少し歩いたら通りすぎた洞窟に入りどれだけトレインしてもいいから止まらないようにと言ってぐねぐね分岐を曲がる。蟻の巣ってこの洞窟なのかと探し物すらわかっていなかったことに気付きながら必死でイケメンを追いかけた。
蟻の巣の中は名前通り巨大な蟻がガンガン襲ってくる。私を置いていく気かというくらいスタスタ歩くイケメンは歩きながらチャットを飛ばしてくれる上級者だった。
「このレイドはね、最低でも五パーティー参加するんだ。早めに到着じゃない限り現地に人が一杯いるのと、これ専用のサブキャラを現地落ち(ログアウト)させてたりするから死に下げも歓迎。トレインしていいのはここだけ」
イケメンがいう通り、広い広間に入った途端に二パーティーくらいの人がトレインしていた蟻を粉砕。イケメンと処理してくれた人にお礼を言ってパーティーを解散した。
現地と言われる場所には沢山の人が座っている。ただ座るだけではなくて、露天販売表示で座っていた。露天販売はアイテムボックス内の品に金額をつければ頭上に販売コメントが出る仕様で、彼らは職種とレベルを書いている。「36ヒラ」「32槍」という感じ。彼らに倣い私もレベルとヒーラーという看板を出して座った所で主催挨拶が始まる。
「時間が来ましたしめます。今回主催の○○です。先ずは盾パーティーを作ります。○★さんメイン盾リーダー、■◇さんサブ盾リーダーお願いします」
「了解」
「よろしくー」
「■◎さんは子守良いですか?」
「りょーかい」
「じゃあ、手順テンプレ流します」
全くわけがわからなかったが何時もの流れという空気に黙ってしまう。主催はあきらかにコピペと思われる早さで長い手順を発言しているし人数も多いので質問もできない。ちょっと不安になりながも手順を読み込むことにした。
まずは一斉に雑魚を殴り、清掃完了したら今の安全地帯に戻る。盾班がレイドボスのヘイト(敵対値)を上げてタゲが固定したら奥にあるらしい幼虫部屋で子守班が幼虫を死なないレベルで殴る。幼虫が自分達にヒール回復し出したら一斉にボスに攻撃。終わったらまた元の位置に戻りパーティーリーダーだけ看板を出して固まって座る。こんな手順だった。
後からわかることなのだが大人数で倒すだけあってボスの攻撃力は高い。盾職、タンカーと呼ばれる防御特化の職以外が正面から攻撃を受けるとすぐにコロコロ。メイン盾と指名された人がひたすらダメージを受ける。一人ではヒールも足りないので交代要員のタンカーとバッファー(補助魔法職)を一人いれたら後はヒーラーで固めるか、盾を増やして参加者に攻撃を当てないように頑張り続けるのだ。
最初から最後まで忙しいメイン盾班だが、一番ヘイトを貯めていたメイン盾が倒れるとその人にヒールをしていたヒーラーにタゲが飛ぶ。崩れるときは一瞬でパーティー全滅。パーティー全滅時に代行するのがサブ盾班で、こちらは必ず経験者が入る。それでも駄目なときは駄目だが一応崩壊を避ける構成だった。一つ浮いている幼虫班はレイドボスのヒーラーである蟻の子芋虫を魔法が届かない離れた所で足止めするこのボス専用の係りになる。
「特殊パーティーできました。パーティー作ってくださーい」
手順を確認した所で主催がまた指示を出した。一般のボスを叩くだけのパーティーは特にリーダーの指名はない。何人かが看板を消して立ち上がりうろうろ歩いてから固まったり主催に向かう。
特に前触れもなくパーティー申請が飛んできた。承認したら先のイケメンさんである。そのあとぽんぽんメンバーは増えて、上限一杯の九人になった。九人になったらパーティーチャットで挨拶合戦が始まる。よろしくとかそんな挨拶。挨拶を交わした所でパーティーメンバーを探すと空き地に移動して座りはじめたので私も彼らにまじることにした。
「俺看板だしますね」
イケメン除く全員が揃い始めると一人が「イケメンPT」という看板を出す。同じくらいに新しい窓がでてきて連合とタイトルがついていた。連合窓にはキャラ名が並び、イケメンの名前がある。クリックすると現在のパーティーメンバー名が職種アイコンと並んで表示されていた。リーダーは主催に連合の申請しにいっていたらしい。イケメンが看板を囲むパーティーメンバーと合流し、主催の前の列がなくなる。
「余った人出てませんか?」
主催が確認をしたが特に声はない。無言の中あちこちが看板をしまい立ち上がりだす。
「じゃあバフお願いします」
一斉に補助魔法のエフェクトがとぶ。
「ちょもさん、ATKに★★かけてもらって良いですか?」
イケメンの依頼に応えて私も補助魔法をかける。これも後から知ったが適性レベルの範囲内で補助魔法の効果レベルが違っていた。同じレベル帯でも下だと補助レベルが一で上だと二。同じであっても二人いればMP節約のために分担する。そういう話し合いが普通発生するそうだが私もバッファーも初参加組だったのでベテランリーダーの指示にへーへーと感心していた。
「あと今回みたいにヒラ1バフ1の構成の場合、バッファーはサブヒーラーとして働いてくださいね。レベルが低い内は職能にそんな差が開いていないので」
他のゲームはわからないがこのゲームの職業は一定レベルごとに専門化していくシステムだった。最初は魔法と物理に別れて、次に魔法攻撃と魔法補助に別れ、更に補助と治療に別れている。これの参加レベル帯は補助と治療に分離する境目だったので持っているヒールの威力も大差無いものだった。
あちこちから聞こえた詠唱が終わるといよいよ始まる。
「始めますよー。5・4・3・2・1・5555」
主催のカウントダウンが終わると安全地帯から一斉に飛び出す。誰かが叩き始めたからか雑魚がわらわら湧いてきた。ヒーラーの私は乱闘状態の中、はっちゃけて離れるメンバーを探しながらオロオロしている。回りを見ると私と同じ杖を持ったヒーラーらしき人がその鈍器で雑魚のお尻を殴っていた。確かに雑魚相手だと暇だしなぁ。彼女にならい私もパーティーメンバーのことは忘れて杖を振り回して時間を潰す。
大量にわいた雑魚たちが枯れ始めると二人で一匹を叩いたり、三人で叩いたりして瞬殺があちこちでおきた。残りが数匹レベルになると叩くのを止めて安全地帯に帰る人が出てくる。
「撤収撤収撤収」
主催が連投でチャット欄に撤収を流せば特殊パーティー以外は全員退避を始めた。幼虫の相手をしている班は開始したというが産室と呼ばれる場所にいるらしく何をしているのかわからない。盾班の動きを見てみると魔法による遠距離攻撃でレイドボスを引っ張ってきて乱闘現場となった広場中央に連れてきていた。参加者のしやすい場所に連れてくるこれは釣りと言うらしい。ボスが真ん中辺りに来ると間にメイン盾の人が入りスキルを使ったエフェクトが出る。釣りをした人はここからは魔法を使わず八の字を描くように逃げた。パーティーメンバーに解説を頼むと「ヘイトを上げてタゲを取っている」とのこと。敵は脅威の大きい順に襲うようプログラムされており、盾は攻撃力はさほどないがこのヘイトと言われるものが全体で一番になるようなスキルをMP切れしない範囲で使っているそうだ。これはタゲ固定、タゲ管理なんて呼び、一番か二番にプレイヤースキルが問われるMMOの花形職業の仕事だ。管理状態に入る前に人についているターゲットをとるのがタゲ取りである。
無事に八の字さんからタゲを奪ったメイン盾さんは暫くピカピカ光り盾パーティーメンバーは攻撃を受けなくなった。うまくタゲ固定ができたらしい。主催がGoサインを出したら安全地帯から全員が飛び出しレイドボスをタコ殴りにした。画面上部に「ドロップ分配権は主催連合に与えられます」とでがでかと書かれる。
さっきと違い今度はパーティーメンバー毎に固まっている。ボスの頭上にあるHPバーが減るごとに主催があと何割とアナウンスをする中、タコ殴りに参加していたメンバーのHPが急にごっそり減った。範囲攻撃のようである。どうもボスはHPが半分になると範囲攻撃を使ってくるようだ。離れすぎていないのを確認して全体ヒールを使う。何度も繰り返すと私が全体ヒールを使った後に目減りが激しい人にバッファーが追加でヒールを足してくれる。これがサブヒーラーのお仕事のようだ。メインヒーラーの仕事を邪魔せずMP減少速度を抑える。
あっという間にボスが息絶えるとボスを主催連合が討伐しましたとシステムログが流れた。ドロップも四つ程流れる。するとお疲れーとログが流れまくり何人もが消えてしまった。分配ってどうなったの? そのままパーティーリーダーイケメンに聞いてみる。
「このレイドボスは特殊アイテムのアクセサリーがドロップするんだ。それ以外はたいしたことないから出ないと分配放棄。大体5から10Mくらいの分配か2Kくらいの分配かの違いね。メインキャラがカンストしてる人なら適正の雑魚一匹で20Kは出るだろうし、放棄して稼ぎにいった方が儲かる」
なるほど分配されるより時給がいいのか。ちなみにMは百万でゼロ六つ、Kは千でゼロ三つの単位だ。武器防具は最低でも百万くらいからなのでMという単位はよく使う。更に三つゼロを足すとGで金持ちの範囲になる。おそらくキロ・メガ・ギガでネトゲ常識の範囲だ。
歯抜けと言うのか残った人員は二十人程。合併をして二パーティーと端数。イケメンは初心者のためにリーダーのまま残ってくれて抜けた分を拾っていく。八人と中途半端だがまたパーティー固まりで座った。
「オークションします。まず■◎◇ブーツ、1Kからー」
主催は全員が座ったのを見てオークションを開始する。ドロップ品は参加者に購入権があり、全てを売却した後頭数で配分するらしい。
「誰も買わないとどうなるんです?」
「大体主催者が買ってくれるよ。砕いて素材にするんだ」
低レベルの装備は素材にして再利用するのでその素材代金より下を底値としてオークションをする。なので高レベルのメインキャラの人でもそれなりに買ってくれるようだ。装備からできる素材は消耗品の材料なので飽和状態になることはない。
「誰もいないかな? 5・4・3・2・1。終了ー。1Kで僕、買いますね」
イケメンの言う通り主催が手に入れることになった。その後もクズ装備しかなかったようで主催が最初の提示金で購入し、全てのドロップオークションは終わりを迎えた。
「合計63Kで二十一人、一人3Kでお願いします」
主催の報告が終わるとちょっと待っててねとイケメンは主催の前に看板を出して座る。看板には「イケメンPT 8人」とかいてあった。
「大体のレイドはこんな感じでリーダーが分配を貰ってくるよ。まずはレイドに参加して慣れてきたらリーダーの仕事を聞いてね。じゃあみんなお疲れ様」
看板が消えて売り切れになったイケメンはパーティーメンバーの元に戻りお金をドロップして拾う。個数が一つのものと違いお金はパーティー頭数割で入るので全員が3K入るように24Kを落としている。私も自分の懐に3Kが入ったシステムログを確認したらお礼を言って最寄りの村へ帰るスクロールというアイテムを使った。みんなお疲れ様をいい合い、帰還スクロールを使用した光に包まれる。
こうしてやっと他人と遊べるステージに立ったのだった。