きっかけ
来てしまった……。
昨日、拓真との飲み会と言う名前の愚痴会を終え、帰宅すると早速、鈴香からメールが来ていた。
丁寧に描かれた地図とともに、行かなきゃ潰す(はあと)の脅し文句を添えて。
占いなんて信じてるわけじゃない。鈴香の脅しに屈したわけでもない。
ただ、きっかけが欲しかった。先の見えない就職活動、日に日に減っていく貯金、正直、不安に押し潰されそうだった。
この現状を打破できるなにかが、もしかしたら見つかるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて。
地図を頼りに、大通りからはずれた狭く、薄暗い道を歩く。もうすぐのはずなんだけど。
しかし、こんなところ地図でもなければたどり着ける気がしないぞ……。
雰囲気があるとい言えば雰囲気があるが、実際、商売としては致命的な気がしないでもない。
そんなことを考えているうちに目的地に到着した。
「ここ……、か?」
地図が間違っていなければここで合っているはずなんだが。
どうみてもただの一軒家、だよな?
昔ながらの平屋がそこに佇んでいた。
看板もなにもない、一見するとなにか商売をやっている風には見えない。
隠れ家的なやつなのかな?
蛙の置物が置いてあるとか、コウモリの玩具がぶら下がっているとか、もっとオドロオドロした光景を想像していたのだが、なんだか肩透かしを食らった気分だ。
……さすがに胡散臭すぎるか。
さて、どうしよう。
ここまで来たからには中に入る以外の選択肢はないのだが、入ってしまったらもう後戻りは出来ないというか。
いやいや、たかが占いで何をビビってるんだ、俺は。
ちょっと話を聞いてもらって、アドバイスを受けて帰る、ただそれだけのことじゃないか。
「……よし!」
意を決し、呼び出しのボタンを押す。間延びしたチャイムの音が響く。
が、しばらく待っても返事はない。もう一度、今度は少し強めに押してみる。再びチャイムの音が響くが、やはり返事はない。
留守か?
試しにドアノブを引いてみた。
……開いてしまった。
ということは誰かいるってことだよな、たぶん……。
「す、すいません、誰かいますか?」
ドアから身を半分ほど潜り込ませ、中の様子を伺う。
薄暗い室内は、十畳ほどだろうか。おそらく木製であろう大きな机がど真ん中に置いてあり、同じく木製であろう椅子が4つ、左右対称になるように置いてある。
それ以外はなにも飾っていない、とてもシンプルな部屋だった。
奥に扉が見える。あそこに誰かいるのかな。
勝手に人の家に上がるのは気が引けるが、ここまで来た手前、何の収穫もなしでした、は嫌だ。
せめて、あの扉の奥だけでも確認しておきたい。
覚悟を決める。
「……お邪魔します」
「いらっしゃい」
直後、すぐ後ろ、耳元に息がかかるか、かからないかの距離から声がかかる。
「う、うわああああっ!」
あまりに突然のことに、軽くパニックになり、情けない声をあげながら前のめりに倒れてしまう。
そして、やはり俺は運がないのだろう、そこにあった机の足に思いっきり頭を打ち付けた。
「ぐ!?」
当たりどころが悪かったのか、ゆっくり世界が暗転していくのを感じる。
まさか、このまま死ぬのか。こんなとこで俺は……。
ぼんやりとしたまどろみの中で、最後に見たのは、腹をくの時に曲げて笑い転げている女の姿だった。




