再起への鍵
「で、結局2ヶ月たった今も就職決まっていないと」
「……悪いかよ」
この日、俺は居酒屋『草兵衛』に来ていた。
久々に東京から帰郷した十年来の悪友、佐々木拓真に愚痴を聞いてもらうためだ。
まあ、メールやら電話やらで散々聞いてはもらっているのだが。
「良い悪いで言えば悪いんじゃないかな?もうすぐ失業給付もらえなくなるんだろ」
「うっ」
そう、来月から失業給付がもらえなくなるのだ。
3ヶ月もあれば余裕で就職できるとたかをくくっていたあの日の俺をぶん殴ってやりたい。
「仕方ねえだろ。今は不景気なんだよ」
正直、こんなに大変だとは思いもしなかった。前の会社には高校からの推薦で入っていたので、生まれてこの方、就職活動というものをしたことがなかったのだ。
「この前受けた会社で何社目だっけ?」
「……5社目だよ」
ジョッキのビールを一気に飲み干す。
「はは、ひどい戦績だね」
「うるさい。やりたくてやってるわけじゃねえよ」
「おばさん、心配してるだろうね」
おばさんとは、俺の母さんのことだ。昔はよく俺の家でご飯食べて帰っていたのを思い出す。
「ああ、毎日鬼のように電話してくるからな。勘弁してほしいよ、本当」
「それだけ京のことが心配なんだよ。愛されてるね、羨ましい限りだよ」
ニヤニヤしながら面白そうに言ってくる。
完全にからかわれているな。
「うるさい」
通りがかった店員にビールの追加を頼む。
飲まなきゃやってられん。
「ああ、そうだ。心配と言えば鈴香も心配してたよ。ちゃんと生きてるか見てきてやっくれだとさ」
「……知ってるよ。この前電話で散々罵倒されたからな」
鈴香というのは拓真の彼女で俺の幼馴染みだ。
小さい頃は素直で可愛かったんだが、身長が伸びるにつれて態度も大きくなっていき、今では顔を合わせる度に罵倒されるようになっていた。
この前もまだ就職決まらないのか、本気で探す気があるのかとか散々言われたからな。最後の捨て台詞に「このニート野郎」とか言われたし。
「鈴香なりに励ましてるつもりなんだよ、きっと」
「そうは思えないんだがな」
よく付き合っていけているな、と口には出さないが素直に拓真に感心する。
「そうだ。京、占いに興味はないかい?」
「興味があるように見えるか?」
そういう胡散臭いものはあまり好きではなかった。
神様ですらあまり信じていないのだから。
「いいや、全然」
そう言って笑う拓真も、あまり信じていない質だろう。
「ただ、気になる話を鈴香から聞いてね。なんと的中率100%の大人気占い師がいるらしいんだ。しかも、この町に」
「鈴香からの情報ってだけで胡散臭さ倍増なんだが」
昔から占い好きだったな、確か。
朝からテレビの占い見て今日のラッキーカラーがどうとか、ラッキーアイテムがどうとか言っていた記憶がある。
「だいたい聞いたことがないぞ、そんな話。ずっとここに住んでる俺が知らないことをどうして鈴香が知っているんだよ」
「それは興味の問題じゃないかな?自分に興味がないことって案外近くにいても気付かないもんだよ」
「そんなもんかねえ」
まあ、そんなもんなのかもな。
「で、その占い師がどうしたんだ?まさか俺に占ってもらってこいなんて言うんじゃないだろうな」
「そのまさかだよ。一度見てもらいに行ったらどうだい?何か今の状況を変えられるヒントをもらえるかもしれないよ」
「おいおい、勘弁してくれよ。俺がそういうの好きじゃないって知ってるだろ。無理だ、無理」
「じゃあ、今の状況を変えられる何かを京は持っているのかい?このままじゃあっという間に1ヶ月たって生活費ゼロなんてことになりかねないよ」
「うっ」
確かに、その可能性は大いにあり得る。というか今のままではほぼ間違いなくそうなるだろう。
この年になって親の脛かじりながら生きていくのは絶対に嫌だ。それだけは避けたい。
だが。
「そんなものに頼らなくてもちゃんと就職してみせるさ。あと1ヶ月もあるんだ。絶対にみつけてみせる」
「京。も、じゃない。しか、ないんだよ?溺れるものは藁をも掴むって言うじゃないか。騙されたと思って一度行ってみなよ」
「嫌だ」
「はあ、相変わらず頑固だね。まあいいさ。鈴香に地図をメールで送っておくように頼んでおくからその気になったら行ってみるといいよ」
「絶対に行かないからな」
「はいはい、わかったよ」
薄ら笑いを浮かべて手を振る。俺の考えていることなんてお見通しと言わんばかりだ。
「絶対に行かないからな!」
なんとも居心地の悪い空気に、念をおすように、自分に言い聞かせるようにもう一度言葉を吐き出した。




